貴方の全て    −Prayer−

                           (後編)

 

 そう、今、ここにいるのは、こうして旅が出来るのは、のおかげじゃないかとも思うようになってきた。

 

「本当に久しぶりだね。二人共、元気で良かった」

 

エドワードとアルフォンスの言葉に、いつもの笑みでは応えた。

この前、会った日は、たしか、冬ではなかっただろうか。

結構、寒かったのを覚えている。

それから、数えると・・・数ヶ月ぐらいになる。

 

「ボクも、准尉が元気で良かったです」

「オレも、が元気で良かった」

 

無論、この相手がではなかったら、こんな自然に話さないであろう。

いつもの、そっけない態度で返事を返すだけだ。

 

「二人共、ちょっと時間あるかな?」

「あぁ、いいよ。今日は急いでないからさ。なっ、アル?」

「うん。ボクも構いませんよ」

 

は、二人の返答を待ってから、少し離れた所に置かれている、休憩用の長椅子を指した。

 

「じゃあ、またいつものように、お話、聞かせてくれないかな?」

「もっちろん!」

「ボク達の話で良ければ」

 

子供らしい明るい、無邪気な笑顔を見せるエドワード。

きっと、アルフォンスの方も、笑顔であるに違いない。

に続いて、エドワードに、アルフォンスが長椅子へと腰を降ろす。

そして、旅の途中で起こった事件や、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかった出来事を順序よく話していく。

勿論、彼ら、エルリック兄弟の旅はどちらかと云うと、辛い出来事の方が多い。

ただの観光ではないのだから。

そのエドワードとアルフォンスが交互に話していくのを、隣りで静かには耳を傾けて聞いていた。

いつも間にか、エドワード達の旅の話がの一つの楽しみになっていた。

 

「―――っと、そんなもんかな。今回は。何か抜けているとこあったか?」

 

自分の、右隣りに座っている、アルフォンスに確認のため聞いてみる。

 

「ううん、なかったよ」

 

頭を、軽く左右に振って、静かに答えるアルフォンス。

 

「そっか。ならいいんだ」

 

エドワードは、そう言って、西日が差し込んでいる窓の外に目をやる。

丁度、太陽が高い山脈に隠れようとしていた。

 

「珍しいなぁ。今日は、夕日だけじゃなく空も真っ赤だなぁ。・・・ ・・・まるで」

 

も、窓の外の景色を眺めながら、呟いた。

 

「・・・まるで、"賢者の石"みたいだな」

 

「―――・・・うん」

 

は、エドワードの発言に対して、少しの間、返事を躊躇ってしまうのだった。

真っ赤に染められ、広がっている空・・・それは、まるで。

 

「"賢者の石"・・・きっと、必ず、見つけてみせる!そのために、オレ達はこうして旅をしているんだ!!」

 

強い眼差しで言い切る。

自分に言い聞かせるように。

決して、最後の最後まで諦めないように。

希望を捨てず。

此処に来れば、待っていてくれる人がいる。

 

「うん、頑張って。エド君達が元の姿に戻れることを祈ってる」

「ありがとうございます、准尉」

も、頑張れよ」

 

の言葉に、丁寧に、お礼を述べるアルフォンス。

対して、エドワードは一言だったが、その一言の中に深い気持ちが入っている。

そのことを、もわかっていることだろう。

 

「あっ、そうだっ」

 

「「?」」

 

急に、何かを思い出したように、は声を上げる。

そのを、エドワードとアルフォンスは、不思議に思った。

 

「ねぇ、エド君。元に戻ったら、迎えに来てね」

 

「―――・・・!!あぁ」

 

何を?

誰を?

何で?

と言わなくても、エドワードには、の言いたい事が、すぐに分かった。

 

「じゃあ、またね。私、こっちだから」

 

は、左の通路を指さして、こう言った。

 

「はい。じゃあ、また」

 

アルフォンスは、軽く御辞儀をする。

 

「・・・またな、

 

そして、お互いに歩き始めたが、数歩進んだところで、急にが足を止め、エドワード達を振り返って声をかけた。

 

「エド君!」

「ん?」

 

エドワードも、足を止めて振り向く。

大事な用か、言い忘れていたことでもあっただろうか。

ゆっくり聞く、姿勢をとるエドワードだが。

 

「・・・でっ、出来れば、三十路いく前に、迎えに来て欲しいなぁ。―――なんて」

 

照れ笑い混じりで、が言う。

の予想もしていなかった発言に、エドワードは、その場であやおく態勢を崩しそうになってしまう。

 

「だっ、大丈夫?兄さん」

 

隣りでアルフォンスが、心配そうに、声をかける。

 

「あっ、あぁ」

 

突然だったため、まるで、何かにでもふい打ちを喰らったようだ。

エドワードは、体勢を立て直すと、に向かってこう言った。

 

。そっちこそ、オレが迎えに行く前に、他の誰かについて行くなよな」

 

「ありがとう、エド君!」

 

笑顔で、その言葉に応える

 

「じゃあ、またな」

 

「うん。二人共、元気で」

 


 

きっと、いつか元に戻れる日を信じて・・・。

 

 

そしたら、、お前を必ず――――・・・・。

 

 

                                          E N D

>>あとがき

 はい、お粗末様でした;鋼錬夢、初の前・中・後編でした。
普通に続けて、短編にでもしようかなと思っていたんですが、話の流れでこうなりました。
年上、軍人ヒロインで書いてみたくなりまして;相変わらず、ほのぼのですね;
お題、交換をして下さったシュリ様、遅くなってすいません;;
これからも、どうぞ宜しくお願いします。
では、最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
御感想などありましたら、BBSか、メールフォームまで下さいね。
では、失礼致します。
                                     2004.3.16.ゆうき