アンバランス −NO,6 旅立ち1−

 軍の仕事が山積みにも関わらず、自分達に貴重な時間を割いてまで、協力・・・
これからの行く・進む先を示してくれた大佐であるロイと、その部下で中尉のホークアイ。
その両者に、深く感謝し、礼を述べて東方司令部を後にする。
 その翌朝。
エドワード()・アルフォンス・(エドワード)の三名は、宿泊施設を出て、一路、イーストシティの駅へ向かった。
勿論、今回のもっとも重要である目的地、ノースル街・・・行きの汽車に乗るため。

「さって・・・と。じゃあ、行くか」

そう言うと、の姿であるエドワードは先頭に立つ。
その・・・自分の姿はなのだと忘れてしまっているような、兄の行動に思わず苦笑いしてしまう、弟のアルフォンス。
一方、アルフォンスの隣りに居る、エドワードの姿のは積極な行為で進もうとしている自分の背中に、違和感を覚えながらも、エドワードのらしさに憧れを抱く。

「うん。・・・だけど、兄さん。今日は・・・何か変だよ?」

一応、エドワードの言葉に頷き返すアルフォンスだったが、何か引っかかるらしく辺りを一周見渡した。

「・・・変か・・・。そう言ったら、そうかもな」

静かに、こう答え、エドワードは少し目を細め、顔も顰め、目の前の状況をその双眸に捕らえる。

「・・・セントラルなら、分からないでもないけど・・・」

“ねぇ?”と小首を傾げながら、先に立っている、の身体になってしまっているエドワードに、声を投げかける。

「あぁ・・・。そうだな・・・この光景は流石に・・・」

弟の意見に強く同意をするエドワード。

「え、えっと・・・エド、アル。・・・そんなに駅が混んでるのがおかしいの?」

少々、兄弟に出遅れてしまったエドワードの姿のは、ぎこちない様子で二人に尋ねた。

「あ、うん。いつも・・・まぁ、時々だけど旅の途中とかに大佐に用があって立ち寄ることがあるんだ」

そのの質問に、柔らかな口調でアルフォンスは話し始める。

「だけど、いつもはこんなにビックリするほど混雑してないんだよ」

ゆっくり、丁寧に・・・に分かるように説明していく。

「え・・・そうなんだ?」

アメストリス・西方の小さな集落出身であるは目を丸くし、キョトンとしてしまっている。
まぁ、今の現状では無理もないだろうが。
本来の、いつもの駅の姿は其処にはなく・・・
人で構内が埋めつくされてしまって、大袈裟に言うならば、まるで他の場所に来てしまっているような感覚。

「・・・ちょっと待ってろ。新聞、買ってくるっ」

少しの間、何かを思考するかのように、口を噤んで黙っていたエドワードは、急に口を開いたかと思うと、素早くその身を半回転させ売店に向かって走って行ってしまう。

「ちょっ・・・兄さん!!・・・言葉使いには気をつけてよね!?」

そんな兄の行動に、慌てながらも、その背中に向かって『注意』を言い放つ。
エドワードの方は振り返ることはせず、手だけを上げ“分かった”と云う合図を返す。

「まったく。の姿で無茶なことはしないで欲しいよ・・・。後、ボク的には汚い言葉も使って欲しくはないんだけどね」

小さな子供ことを言うように“やれやれ”そう呟いて、肩を竦めて見せる。
間が少し空き・・・唐突に、何が可笑しかったのか・・・は吹き出してしまった。
アルフォンスは、突然、笑い出したに戸惑ってしまう。

「はは・・・。あ、ごめん。何か・・・やっぱりアルは優しいなぁ〜と思ってね」
「え・・・そうかな?ボクはの方が優しいと思うよ?」

その発言に、アルフォンスは少し恥ずかしくなりながらも、自分の正直な言葉を返した。

「えー。そ・・・そんなことないってば。・・・私、優しい人も・・・好きだよ?」

またの方も、笑い過ぎてしまったようで、途切れながらも一生懸命に言葉を繋げていく。

「あ・・・そうなんだ。は優しい人が好きなんだね」

“ふむふむ”と、一人納得するアルフォンス。

「うん。でね・・・ちょっと羨ましいんだ。エドとアルが・・・その・・・凄く強いから」

呟くように・・・言葉を押し出すように、そう答える
その時、アルフォンスには、少しの表情が曇ったように見えたのだった。

「うーん。強い・・・のかなぁ」

そんなのことを気にしながら、アルフォンスは雲、一つない青空を見上げる。
自分としては、まだまだ錬金術も、身も心も半人前だと思っているし、そう簡単には自意識過剰にはなれないものだ。
そのため、“強い”と人から言われても微妙な気持ちになるだけ。
ま、その相手がなら別だが。
イマイチ、自分の心にしっくり来ない。
さて、どう返したものか・・・と考えてみる。

「・・・私から見たら異性だからかもしれないし。男の人って・・・ほらっ。強くて、優しい・・・のイメージがあって・・・」

途中まで、顔を上げて、笑顔を見せていただったが。

「ねぇ、アルは・・・私が居て邪魔じゃなかった?・・・足手まといじゃ・・・なかった?」
「・・・

『悲痛』・・・そう、その言葉が当てはまるような・・・
何とも、悲しくて痛々しいの表情。
今にも涙が零れてきそうな顔つきで懸命にアルフォンスに訴える。

「えっとね・・・

“そんなことない”と云うだけは容易だが。
下手な・・・適当な答え方をして、これ以上、を傷つけたくもなく。
軽く、一息置いてから、アルフォンスはと向き合う。
そうして、自分の思っていることを伝えようかと、口を開こうとした時。

「邪魔・・・足手まといだったら、この旅には連れて行かなかったはずだけど?」

「「!?」」

聞き慣れた、その声にアルフォンスとは、思わず周りをキョロキョロと見渡してしまう。

「ただいまっ」

ひょこっと、アルフォンスの後ろから姿を現すエドワード。

「エド!?」
「兄さん!?」

思いもよらなかった、エドワードの登場に、二人は目を見開いて、驚いてしまった。
しかし、珍しくエドワードは冷静。

「ホレ、新聞。・・・何か隣り町で、ちょっとした事故があったみたいでさ」

ピラリッと、新聞の一部分を指差して二人に分かるように見せる。

「・・・あ、それで・・・こんなに」

アルフォンスは、そのことに理解すると、人で溢れかえっている駅の構内を振り返った。

「・・・そーゆーことだ。この状態じゃ、すぐに乗れそうにもねぇし・・・出発は明日にするか!」

そう言うと、エドワードは目を伏せ、深い息を吐き、アルフォンスに同意を求める。

「そうだね。あの・・・兄さん」

少々、戸惑い気味に言葉を濁すアルフォンス。

「わーってるよ」

コンっと軽く、アルフォンスの身体である鎧を叩くと、エドワードはの目の前まで足を進めた。

・・・。今は、そんなにメソメソすんなよ?」

いつもの、変わらない口調で話しかける。

「だって・・・」
「・・・だってもへったくれもない!お前の泣き顔を、そう易々と他人に見せるわけにはいかなねぇだろ!?どんな理由でさえ・・・」

周りから見れば、女の子が男の子を怒鳴ってる・・・ように見えるのだが、この場合、仕方がないことなのだ。
まぁ、これがだからの話である。
エドワードが、好意を持ち大切・・・と云う、たった1人の少女。

「エド・・・」

半分、涙ぐんでしまっている

「・・・ったく。しょうがねぇな。ほらっ、新聞で隠せっ」

エドワードは、バサッと一枚、大きく広げると、の手に新聞の端を握らせ持たせる。
そして、自分はの耳元まで近づき、こう小さく囁く。

「元に戻ったら、いくらでも、この胸、貸してやる。・・・それまでの辛抱だ。頑張れ」

その言葉を聴いては、ぐっと、涙を堪えるように空を見る。

「・・・う、うん。ごめん・・・。ありがと」

それから、いつもの笑顔をエドワードに向けた。
その様子を見ていたアルフォンスは、ホッと安心をする。

「兄さん」
「・・・そ、そんじゃあ、今日の宿でも探しに行くか!」

少し、照れているのか、焦り気味になりながらも、エドワードは先頭を切って、一歩踏み出す。

「「うんっ」」

その後を付いて歩く、アルフォンスと

そうして、三人は“旅立ち”を明日に延期することにして、一旦、駅を後に、今晩の宿を探しに街へと戻って行った。




メッセージ:此処まで読んで下さってありがとうございました。
これからも連載夢も、頑張っていくのでどうぞ、宜しくお願い致します。

                                     2006.1.17.ゆうき