10万打達成記念、三蔵ドリーム         『後編』

 

 

翌日 仕事に出る三蔵について も仕事場に連れて行かれた。

にはよく分からないが なにかをPCで製作しているようだった。

「みんな 耳だけこちらに貸してくれ。

今日から 雑用を担当してくれる バイトのだ。

コピー取りや買出し 単純作業を担当してもらう。

以上だ、仕事に戻ってくれ。」

三蔵はその場にを置き去りにして ガラス張りの自室へと入って行った。

それを見届けて 昨夜一緒だった八戒が に近寄った。

「おはようございます、

今日からはこのオフィスで働いてもらいます。

三蔵は何も言わなかったでしょうが、僕たちはここでゲームの開発をしているんです。

ですから もここで見たことや聞いたことは 外で口外しないでください。

情報の漏洩は 死活問題なんですよ。

入室には パスと暗証番号が必要なので 後から渡します。」

そう言って 給湯室や化粧室の場所 パスの使い方や暗証番号とその変更基準などについて

丁寧に教えてくれた。






コピー室で コピーのとり方とシュレッダーについて説明をし、八戒はに色々と尋ねた。

「前にどこかに勤めていた経験はありますか?」

「いいえ。」

「では コンピューター関係の資格は何か持っていますか?」

「いいえ。」

「それだとここでがする仕事は 本当に雑用ばかりですが 耐えられますか?」

「はい、がんばります。」

がそう返事をすると 八戒は納得したように微笑んでくれた。

「じゃあ、まずはお茶だしをお願いしましょうか。」

八戒に言われてお茶を出しながら 皆に挨拶をし 自己紹介をしていった。






三蔵の部屋にもお茶を出す。

湯飲みを置こうとして手が滑ったは お茶をデスクの上にこぼしてしまった。

「馬鹿やろう!」

部屋の外にも響き渡るような声で は三蔵に怒鳴られた。

「ここにあるのが 重要な書類だったらどうするつもりだ?

そうじゃなかったことを 幸運に思うんだな。

口先では行動力があると思ったが、お茶すらまともに出せねぇのか?

役にたたねぇようなら 家に帰れ。」

三蔵の口から聞かされた冷たい言葉は の頭の中で何度も繰り返された。




机を片付けた後 床にもこぼれたお茶を拭きながら 泣きたいのをこらえる。

『役にたたねぇようなら・・・』

なんて 人様に言われたの初めてだ。

親に決めてもらった事しかしたことなくて、

それに文句を言いながら それだけをこなしてきた。

自分の行動も自由にしたことが無くて、

自由になったら・・・・・何も出来ない自分に気がつくなんて、

あのまま 親に決められた結婚をしていた方がよかったんだろうか?

・・・・・・・・そうじゃない!

今までの自分じゃ満足できなくて 言いなりのお人形なんかもう嫌だから

あの家を飛び出して来たんだもの。

このまま 何も出来ずに家に帰るなんて 自分で自分が許せない。





そんな様子を 仕事の合間に三蔵が見ているとも知らないで、

は 出来る事から少しづつ なじんでいった。

雑用を少しも嫌がらないを オフィスのみんなも快く受け入れ始め

だんだん 無くてはならない存在になって行った。

買出し、掃除、お茶だし、コピー取り、デッサンのポーズもとったりした。

男ばかりの職場で そこだけ花が咲いたような 木漏れ日がキラキラしている様な笑顔。

くるくる動き回る姿は 見ていて可愛い。

「まるで ハツカネズミのようだな。」

それを横目で見ながら口の端だけで笑った三蔵に 八戒は珍しいものでも見たような顔をした。

は 何にでも真面目に取り組んでますよ。

初日に 三蔵にきつい事言われて 辞めて帰るんじゃないかと思いましたが、がんばってますね。

三蔵、僕は良く知りませんけど とは訳有りなんでしょう?

ゆっくりしていると みんながを狙っていますからね。

とりあえず 忠告しておきます。

僕も数に入れといてください。」

食えない笑顔を向けられて 思わず舌打ちをする三蔵だった。






毎日 三蔵と一緒に仕事場に向かい 同じ家に帰る生活で

は三蔵が とても優しいことに気付いた。

少ししか変化が無いけれど ちゃんと表情があって を見てくれているときは

いつもより優しい目だと思うのは 自分のうぬぼれだろうか・・・・。

オフィスにいるときと違って 家では人目が無いからか更に 優しいような気がする。

お嬢様学校のエスカレーターで進級してきたは まだ 恋もしたことがなかった。

そういう意味で 三蔵への想いは『恋』なんだと は思う。

初めての『自由な恋』の相手が三蔵で本当に良かったとは思っていた。

だけど 恋することというのは なんて心地いいのに ドキドキする事なのだろうと思う。

三蔵にもっと 優しくされたい。

三蔵に触れて欲しい。

三蔵にキスしてもらいたい。

そう思っても とてもそんなことが言えるはずも無く 日々は過ぎていった。





そんなある日。

、貴女に お客様がお見えですよ。」

買出しから帰ったに 八戒がそう告げた。

オフィスの片側に設けてある 来客用の応接セットでを待っていたのは

他ならぬの母親だった。

さん、やっと見つけましたわよ。

この子は・・・・心配をかけて!

お父様と私がどれほど心配したと思っているんです?

ずいぶん捜したんですよ。」

の腕をつかんで 母親は連れて帰ろうとした。

「お母様 嫌です、私はあの家には帰りたくありません。

それより どうして ここを?」

「どうしてって 玄奘様がここにさんがいることを お知らせ下さったんですよ。

まったく 貴女という人は・・・・・玄奘様のところにいるなら どうしてそう連絡してこないのです?

私もお父様も 恥をかいてしまったではありませんか!」

「えっ?

それって どういう意味ですか?」

は母親の言っていることが よく分からなかった。





つかまれた腕を 放そうとしない母親には焦った。

そこへ 自室から三蔵が出てきて の腕を母親の手から解放してやった。

「お久し振りです、その節はどうも。」

三蔵の言葉に母親は 頭を下げながら挨拶を返した。

さん、どういう意味って この玄奘三蔵様は この間の貴女のお見合いのお相手じゃないの!

玄奘貿易の会社の跡取りだけど ご趣味を活かして自分で会社を立ち上げていらっしゃるのよ。

お見合いが嫌で逃げ出しといて 玄奘様のところでご厄介になるなんて

まったく親を馬鹿にしてますよ。

玄奘様のところとは お話が進んでいますからね、そのつもりでいなさい。

さんの居場所が分かり次第 結納の準備に入るということになっているのよ。

じゃ 私と行くのが嫌なら ここに残るのね?

では 玄奘様、そういうことで 失礼いたします。」

の母親は言いたいことだけを言うと さっさと帰ってしまった。






、本当に 写真も見てなかったんだな。

いつ俺に気付くかと思ってたが・・・・・・・・」

三蔵の言葉に は結局は自分が入っていた籠が 大きくなっただけだと知った。

家の籠は飛べないほど狭くて 窮屈だったけど、

それを飛び出したと思っていたのは自分だけで 本当は飛ぶことも出来る大きな籠に

移されただけだったのではないかと 悲しくなった。

「やっぱり、私は 空には飛び立てない鳥なの?

自分の力で お仕事をして 人の役に立っているって思ってたのに、

自己満足に過ぎなかったんだ。」

俯いたまま それだけ言うと はオフィスから走って飛び出した。

「おい!待てっ、。」

後ろから聞こえる三蔵の声も もう を止められなかった。





走るにようやく追いついた三蔵は その手をつかんだ。

「待てって言ってるだろう。

俺をこんなに走らせるんじゃねぇよ。

それに何処へ行こうってんだ?

とにかく 話を聞け。」

の腕を放さずに 三蔵は自分のマンションへと連れて来た。

ソファに座って俯いたまま口を利こうとしないに 三蔵はため息をつくと

自らコーヒーを淹れて差し出した。

「親の言うことを全部聞けとは言わねぇ。

俺も親を無視して好きにやってるとこもあるから 人のことは言えねぇが、

籠育ちの鳥が空へ飛び立ったとしても 必ずしもそれが幸せだとは言えねぇんじゃねぇのか?

まあ 自分の入る籠は選べる自由はあると思うがな・・・。」

一口コーヒーを飲んで 三蔵はに言った。




「でも 三蔵のお情けで 仕事をさせてもらえて みんなの役に立っていると自己満足してただけ、

恋愛だって 結婚だって 自由にしようと思っても 結局は親の希望通りの結果になって・・・・・」

の瞳にあふれた涙が 頬に伝って落ちた。

三蔵は の隣に座ると 俯いているのあごに指を掛け上向かせた。

「馬鹿だな・・・・本当に役にも立たないやつを 俺が傍に置いとくわけねぇだろ。

俺も結婚相手を決められるのは嫌で 断るつもりだったんだ。

でも 家出したの話を聞いて 興味が沸いたのは本当だ。

そして ホテルのラウンジで に偶然会った。

そうだろ?」

は三蔵の問いに 少しだけ首を縦に振って頷いた。

「お見合いを嫌ったのは だけじゃねぇ。

それでも俺たちがこうして 出会って惹かれあうのだとしたら・・・・・・、

偶然じゃねぇと思うが どうだ?

運命と呼ばれるものになるんじゃねぇのか?」

三蔵はそう言うと の唇にそっと自分のそれを押し付けた。





の何も知らないような反応に 三蔵は口角を上げた。

「目は閉じろ。」

次のキスは 自分の欲情をに伝えるために 深いものにする。

「うぅっ・・・・んっ・・・あっ・・・あのっ・・」

がキスの狭間に何かを言いたそうにするので、三蔵は渋々唇を放してやった。

息がうまく継げないらしく は肩で息をしている。

その姿がまた可愛い・・・と 三蔵は思う。

「三蔵は 知っていて黙ってたの?」

の身体を自分の膝に乗せて その首筋に唇を這わせた。

何も知らない身体は ピクッと素直に反応を返してくる。

「しかし、興味はあったが ここまで本気になるとは思わなかった。

、籠を飛び出して 俺の用意する巣へ飛んで来い。

お前の居場所は 俺の腕の中って決まってたんだよ。」

三蔵の言葉に は頷いて返事を返した。





籠ではなく 三蔵と2人で過ごすのは 愛の巣。

やっと見つけた・・・・・私の居場所。










「2003.07.07 10万打達成記念として」 黎明の月 龍宮 宝珠様から頂きましたv
ありがとうございましたvvv