Memory

 

 

 

〇いつものように、紅孩児の刺客なるものが現れ、闘いとなった。

を含め、三蔵一行は各、個々の戦い方で数百人いる雑魚妖怪を倒していく。

しかし、だけが不利な足場で1人戦っていた。

何故ならば、深い霧で見通しが悪く、の数歩、後には崖が迫っているからだ。

此処からもし、落ちたりすれば命の保障はないと思わせる絶壁の崖だ。

だか、そこは。だてに三蔵一行の一員をやっていない。

軽い身のこなしで敵の攻撃を難なくかわし、次々と襲ってくる妖怪達を倒していった。

悟浄は、自分の後方にいるに声を掛けながら、其処にいることを確認しつつ戦っていた。

もう少しで片付く・・・と三蔵達の誰もが思った。

次の瞬間。

「きゃあっ!?」

が体勢を崩して後ろによろめいた。の叫び声に一番先に反応したのは、沙 悟浄だった。

!!」

崖が少し崩れて、落ちそうになったの体を突き飛ばすように強く押して、代わりに悟浄は深い霧の中へ落ちていった。

気付いたら、飛び出していたのだ。

こういう死に方も悪くねぇな・・・。と心の内でそう思った。

一瞬の出来事だった。

「・・・ごっ、悟浄・・・さん?」

深い霧の中に沈んでいってしまった悟浄を呼ぶ。

は驚きのあまり、その場に立ち尽くしてしまった。

全身が氷りついたように動かなくなってしまっていた。

!?大丈夫か!?」

駆けつけてきた、悟空、三蔵、八戒の3人は悟浄の姿が見えないことを知る。

「あれ?悟浄は?」

と言って悟空は、辺りをキョロキョロ見渡す。八戒は、その場で立ち尽くして微動だしないに静かに声を掛けた。

・・・悟浄、知りませんか?」

ビクッとの肩が震える。そのの様子に、八戒と三蔵の顔が曇った。

「・・・?」

もう1度、声を掛けるとはゆっくりと振り返ってきた、大粒の涙を溢しながら。

「ごっ、悟浄さんが・・・!!あたしを庇って崖から――――・・・」

「「「何だって(ですって)!!??」」」

すぐさま4人は崖の下に降り、倒れている悟浄を見つける。

頭を強く打ってるようで、悟浄は八戒達が何度呼びかけても一向に反応しなかった。

近くの町の宿を借りて、医師を呼んで看て貰うこととなった。

悟浄は奇跡的に一命をとりとめたものの、懇々とベットの上で眠り続けている。その傍に見守るように付き添っている

「もう、三日目ですよ?」

「―――そうだな」

廊下で八戒は、悟浄が寝ている部屋の扉を一瞥して、壁に背を向けて煙草を吸っている三蔵に視線を向ける。そして、一息つくと八戒は三蔵にこう言った。

「・・・僕が言ってるのは、のことですよ。悟浄が崖から落ちた日から何も話さないし、何も食べない・・・は女の子なんですよ。僕らとは違うんです!」

「そうだぜ!三蔵!!」

と悟空もいつになく真剣な表情で八戒に同意し、三蔵を見つめる。

「お前ら・・・」

と三蔵が天井から八戒と悟空に視線を移し、何かを言いかけた時。

バンッ!!!

勢いよく部屋の扉が開かれて、三蔵達3人は、一斉に扉を見るとが飛び出して来た。

「八戒さん、三蔵さん!悟浄さんが目を覚ましました!!」

それを聞いて、三蔵と八戒、そして悟空の3人は少しホッとして、悟浄がいる部屋に入っていった。

悟浄は目を覚ましたものの、ただ、ぼーっと天井を見つめていた。

「悟浄さん!!」

は溢れそうになる涙を必死に堪えながら悟浄を呼ぶ。又、八戒も安心した様子でこう言った。

「・・・悟浄。良かった、意識が戻ったんですね」

自分覗き込むようにして、見つめている2つの顔。

・・・覚えがない。誰だ・・・こいつら。

悟浄は体を起こし、おもむろに口を開いた。

「――――・・・お前ら、誰だよ?悟浄って・・・誰のことだ?」

その悟浄の第一声に、4人は自分の耳を思わず疑ってしまう。

もしかして・・・と4人の脳裏にある不安がよぎった。

まさかとは思っていたが、崖から落ちた時に頭を強打してしまい、脳へのショックが強過ぎて記憶喪失症になってしまったのだ。

一旦、悟浄の部屋を出たは、扉を背にするとその場で泣き崩れた。

いつも、大人しく優しい、そして、人一倍負けず嫌いで決して泣き顔を見せたことがないあのが。

八戒と三蔵、悟空を前にして泣いているのだ。

その姿が痛々しく、見ているだけで切なくなってしまう。

八戒は、そんなを手を差し伸べて、静かに助け起こす。

「・・・あたしの、あたしのせいなんですっ!」

・・・」

八戒の腕に支えながら、直も泣き続ける

「・・・あたしがっ!あんな所でっ・・・落ちそうになったから・・・!!悟浄さんは・・・!」

「一時的なものかもしれませんよ」

と八戒が優しく声を掛けても、はただ泣くばかりだった。

「・・・自分のせいだと思うなら、・・・お前が責任とってあいつの面倒看てやれ」

と三蔵はいつもと変わらない表情と、声音でに言い放った。

「「三蔵!」」

睨め付けるような鋭い眼差しを三蔵に投げる、八戒と悟空。

「三蔵、これじゃあいくら何でもが・・・!!」

しかし、悟空の意見は次の三蔵の言葉に制されてしまった。

「ガキは黙ってろ。は大人だ。これは、と悟浄の問題でもあるんだ」

「・・・でもよ」

力なく項垂れる悟空を、後に三蔵は、さっさっと自室へと戻っていった。

「・・・いいの、悟空。三蔵さんの言う通り。――そうですよね。あたしには、今これくらいしか出来ないんだ・・・」

は、顔を上げ、涙を拭いて自分に言い聞かせるように強くそう言った。

「「・・・」」

悟空と八戒は、の姿をまともに見ることが出来なかった。

 

廊下での三蔵達のやり取りが聞こえた悟浄は頭を抱えるようにして呟いた。

 

「・・・くそっ。本当に俺って誰なんだよ・・・あいつらは、一体・・・?」

 

 

―――そして、次の日からの看護が始まった・・・。

   

                                           前編  【終】


いらない後書き・・・
今回、初のシリアス(?)で続きモノです・・・;どうだったでしょうか?相変わらずヘボ文ですいません。
一応、桃源郷なんですが・・・分かりますよね?(苦笑)テーマは『記憶喪失』!ヒロインが記憶喪失になる夢はあったりするので、今回は反対に記憶喪失になって貰いました。友人との議論の末、悟浄さんに記憶喪失になって貰うことになりまして(汗)アホですいません;悟浄FANの皆様、すいませんでした;
後編は近いうちに必ずUPさせていただきます!!では、続きも、宜しくお願いしますm(__)m
                                        2003.7.16.ゆうき