あたしの彼はレーサー
                       NO:1

〇あの後、がバイクで送って貰うところを、クラスメートの何人かに目撃されたらしく、それぐらいなら良かったのだが、不運なことに丁度、登校時間のピークだったためは、自分の教室へ入る前まで、他の女子から、強い視線を受けるはめになってしまった。

"焔"と名乗ったあの青年がヘルメットを取らなかったことと、教師達が朝のあいさつ運動をしていなかったのが、唯一の救いだとは思った。

素顔など見せたら注目されること間違えなく。大騒ぎになっていたかもしれない。

しかし、教室に入ったを、待っていたのはクラスメート達の質問攻めだった。

どういう関係なのか?とか紹介してとか、まさに口を挟む隙もない。

その勢いに一瞬、たじろいてしまっただが、体勢を整えて、冷静にサラリと言葉を繋げ、答えると回りの女子達は納得したらしく左右に散らばっていき、はその場を難無く回避したのだった。

自分の席に戻り、ふうっと一息つくと、斜め前の親友が振り返り、柔らかな表情を浮かべてこう言った。

 

「大変だったね、お疲れ様」

 

少し、げんなりとしながらは答えた。

 

「――――・・・まぁね。でも、もう慣れたよ。だてに、ここの学校三年間いる訳じゃないよ」

 

「はは・・・本当にね」

 

そのの言葉を聞いて、親友は苦笑混じりで返事をする。

 

「ねぇ・・・何でさ・・・」

 

ポツリと呟くように、は口を開いた。

 

「ん?」

「何で、女子って噂話とか騒ぐのが好きなのかな〜?」

 

と言って、自分の席から、教室のあらゆる箇所で、話に華を咲かせている女子達を見渡す。

 

「さぁね〜」

 

と、親友さえも曖昧な答え方をしたのだった。

自分も女だが、噂話は好きではないし、仲間で騒ぐのも好きではない。

これじゃあ、いっそのこと男として、生まれてきた方が良かったんじゃないだろうか?

と、思わずにはいられなかった。

 

〇そうして、いつものように一日を過ごし、は親友と仲良く帰路につく。

その帰り道、親友が参考書が欲しいと言ったため、二人は近くの本屋へ寄ることにした。

親友が先に入り、続いて自分も入ろうと一歩足を踏み出した時、何故か店頭の棚に並べてある、一冊の雑誌が目に入り、それを何気なく手にとり、開いた瞬間。

は驚きのあまり、その場で固まってしまう。

バイクや車関連の雑誌なのだが。

その雑誌の特集"今、大注目のGPライダー"としてあげられているのが、今朝、出会った青年"焔"だったからだ。

間違えなく焔だ。黒髪に、ダーク・ブルーの瞳・・・。

まさか、GPライダーだったとは。

でも、何故自分の名前を・・・それに、制服を一目見ただけで、栖華女子だと分かったのかが謎だ。

なかなか、入ってこようとしないに気付いて、親友は慌てて目的のものを買い、出て来た。

ある雑誌を凝視して動こうとしないに近付き、声をかける。

 

「―――・・・どうしたの?大丈夫?」

 

それに、ハッとして我に返る

 

「えっ!?あっ、うん!大丈夫だよ」

「それならいいんだけど・・・」

 

その時、心配そうな親友の顔がの目には映ったのだった。

 

「へっ、平気だってば!ゴメンッ!・・・用事は済んだ?」

「えっ。あっ、うん」

は、持っていた雑誌を急いで元のところに返すと歩き出した。

 

「それじゃあ、帰ろう!」

 

 

〇今日の出来事を境に、は焔のことが少しずつではあるが、気になり始めていったのだ。

 

勿論、それは一つの恋として―――。

は、あの青年・焔に会えないかと思い、ワザと時間を遅らせて登校したりしたのだが、結局会えることは出来なかった。

もう無理かと諦めかけていたある日の帰りのこと。

親友は委員会から緊急召集が、かかってしまい一緒に帰れなくなってしまった。

は、仕方がなく一人で帰ることにしたのだった。

昇降口を出て通用門に差し掛かった時。

目の前で女子の集団と遭遇することとなる。

どうやら誰かを囲んで話しているらしい。

ここは関わらない方がいいと思ったは、その集団を一瞥して通り過ぎようとしたが。

 

「おい、!」

「えっ!?」

 

は、聞き覚えがある声に驚くと同時に、すぐさま振り向いて女子達の集団を見た。

女子達もを見る。

そして、その集団から―――。

まさか!?と思い、は自分の目を疑った。

あの時の青年・焔だ。

目の前の信じられない偶然というべき出逢いに、その場に立ち尽くしてしまう

 

・・・少し時間あるか?」

 

ボーッとしているに、焔は静かに近付き、優しく声をかけた。

 

「えっ!?あっ、少しぐらいなら・・・」

 

「―――・・・よし。じゃあ、行くか」

 

焔は、スタスタと歩いて道の片隅まで来ると、置いてあったバイクのエンジンをかける。

 

「あっ、あの・・・!何処へ・・・!?」

 

焔の行動に戸惑ってしまう

 

「それは・・・行ってからのお楽しみだ」

 

と言って、あの時と同じように焔は、にヘルメットを投げて寄越した。それを戸惑いながらも、は受け取る。

 

「どうした?乗らないのか?」

 

「あっ。のっ、乗ります!!」

 

と言って、ヘルメットをしっかり被って、後ろに跨る

 

「しっかり、つかまってろ」

 

「はっ、はいっ!!」

 

 

 

女子達の喚声を浴びながら、焔との二人は夕日に消えて行った。


                                     NO:1【 E N D 】

2003.8.30.ゆうき