あたしの彼はレーサー
                      NO:0.5

〇その朝、は珍しいことに寝坊をしてしまったのだ。

昨夜、遅くまで起きていたからだろう。急いで、身支度を済ませると、ものすごい勢いで家を飛び出していく。

無論、その場合は朝食抜き。食べている余裕なんかは、ないからだ。

の家と学校との距離は、大して遠く離れて交通手段が難しいわけではないのだが、は要領が悪かった。

足の速さは普通なのだから、走っていけば間に合う距離に学校はある。

しかし、途中で、忘れ物を取りにいちいち戻ったり、道の真中で躓いて転んだり。

そして、今日もいつもの如く、混雑している歩道の上で躓いて転んでしまうのだった。

ほとんど回りを行き交う人々は、見て見ぬふりをする。

中には、転んだ姿が間抜けだったらしく大笑いする人もいる。

公衆面前で転んでしまうとは。恥ずかし過ぎる・・・。

誰か一人でもいいから、声ぐらいかけてくれても、いいような気がするが。

・・・そんな物好きな人いるわけないか、と思い顔を上げ、立ち上がって制服についてしまった埃やゴミを払おうとした。

と、その時。

 

「おい、歩けるか?」

 

の頭上から声がかかり、すっと手が伸びてきた。

どうせ、何かの冗談か、自分をからかっているだけに決まっている。

手を差し出して、此方が手を取ろうとすると引っ込めるって寸法だ。誰も心配などはしてくれないのだ。

どうせ、自分は美人ではない。それに、勝手に転んだのだから、心配してくれという方が間違っているだろう。

そう思ったら、は少し悲しくなってきた。

 

「平気です・・・!このくらいっ!!」

と、強く、突き放すように言い切って、しっかり立ち上がる。

そして、声をかけた相手を確認しようかと、顔を上げ――――・・・。

 

ドクンッ。

相手の顔を見た瞬間、は、自分の心臓が何かに反応し、跳ね上がったような感じを覚えた。

長身で黒髪、髪型は、横にシャギーが少し入っていて、それほど長くはない。そして、瞳はダーク・ブルー。

年は二十歳前半ぐらいだろかと思える青年が立っていた。

 

「―――・・・どうかしたか?」

 

青年は、自分を見上げてくる、一見、真面目そうで何処にでもいるような女子高校生に声をかける。

 

「あっ、いいえっ!何でもないです!それじゃあ、あたし、遅刻しちゃうんでっ」

 

と言って、は頬を少し赤くしながら、その青年の横を通り過ぎようかとしたが。

右手首を、がしっと掴まれてしまった。

「なっ、何か?」

相手の行動が読めないは、恐る恐る、その青年を振り返る。

振り返ったを青年はじっと見つめる。

 

「その制服・・・栖華女子だな?遅刻しそうなら俺のバイクに乗っていくか?」

 

突然の青年の発言に、は驚いてしまう。

見ず知らずの男に、声をかけられ、学校まで送っていってくれると言われ。

しかも、何故、自分の高校の名前を制服を見ただけで、一発で分かるのか?

ナンパなら違う誘い方もするだろう。しかし、騙されているのかもしれない。

こんな世の中だ。騙されて、何処かに連れてかれて―――。

送っていくというのは口実で。

 

「あたし、急いでいるんでっ!離して下さい!!」

 

まだ、自分の手首を掴んでいる青年には、前より大きな声を出す。

 

「・・・そうか。嫌ならいいが。だが、遅刻はしたくないんだろう??」

「えっ!!??」

―――い、今、何て?何で、この人は、あたしの名前を知っているんだろう?

教えていないはずだけど・・・――――?

驚きのあまり、一人、唖然とその場に立ち尽くしてしまう

その青年は自分のものであろうバイクに跨るとにヘルメットを投げてよこす。

 

「早く乗れ。遅刻するぞ」

 

そう言うと、自分もヘルメットを被りエンジンをかける。

 

「あっ、はいっ!!」

 

と受け取ったヘルメットを被ると、慌ててバイクに飛び乗る

 

「ちゃんと、体に掴まってないと振り落とされるぞ」

「はっ、はいっ!」

 

と答えて、は青年の体に腕を回す。

暖かい温もりを感じ、一気に心拍数が上がってしまうのだった。まだ青年に対する、不安を抱きながら。

 

 

 

  *            *          *

 

 

それから七分後のこと。

 

「―――着いたぞ」

 

と学校の門の前に止めて、を下ろす。

何とか、間に合ったらしく、校舎についている大きな時計は八時二十分をさしていた。

ほっとして一息つく

 

「あっ、ありがとうございました!!」

 

は降りると、すぐさま青年に向き直って、御辞儀をすると共にお礼を言った。

 

「いいや。じゃあな」

 

と言って、青年は再びバイクを発進させようとした。

 

「あっ、あのっ!」

 

今度は、が声をかけた。

 

「ん?」

 

「名前・・・教えて下さい。それと、何故、あたしの名前を・・・?」

「俺の名は・・・焔だ」

 

と、そう一言だけ、言い残すと風のように素早くその場を走り去ってしまった。

 

これが、と焔との最初の出会いだったのだ・・・―――――。

 

 

 


                                  NO:0.5【 E N D 】

 

::::::::::::::あとがき:::::::::::

〇初の長編・焔ドリの始め書きです。というか、ヒロイン設定めちゃくちゃ無視してます;焔がレーサー(もしくはライダー?)というのは友人の提案なんですv題名、こんなんですいません;でも、焔がレーサーって格好良くありませんか?でも、命がかかってる仕事だからなぁ〜。もちろん、この話は続くので続きも楽しみにしていただければ嬉しいですvvvご感想はBBSまで。
                                    2003.8.20.ゆうき