| Dermatology 皮膚の病気 アトピー性皮膚炎のかゆみ |
富井医院 副院長 皮膚科専門医 富井直子 |
| アトピー性皮膚炎の診断基準は、かゆみを伴う湿疹が一定期間慢性に繰り返すことです。かゆみを感じないアトピー性皮膚炎はありません。そして、患者さんから「かゆみをとる薬はないんですか?」という切実な質問を外来でよく受けます。残念ながら現在の医学にはアトピー性皮膚炎のかゆみの特効薬はありません。しかし、この十年間ほどの間にかゆみの正体はかなり明らかにされ新しい方向からの新薬の開発も進んでいます。 では、現在アトピー性皮膚炎のかゆみで悩んでいる患者さんはどうしたらよいでしょう。 その答えは、まずアトピー性皮膚炎がどのような病気なのかを理解し、治療の目標をそれぞれの症状や年齢に合わせて決めることからスタートすればよいのです。 アトピー性皮膚炎の原因は大きく分けて二つあり、一つは皮膚のバリア(防御力)異常、もう一つはアレルギーと考えられています。正常な皮膚は、バリア機能として3つの重要な要素を持っています。一つは皮脂膜です。皮脂膜は皮脂腺から分泌された皮脂と汗でできています。皮膚についた汚れはこの皮脂膜の上についているのですから、お風呂で強くごしごしこする必要はありません。強くこすりすぎるとこの保護膜の下の皮膚まで傷つけてしまう危険があります。次に細胞間脂質のセラミド、三つ目は天然保湿因子のアミノ酸です。後の二つは年齢とともに誰でも減少してくるものですが、もち肌が乾燥肌の人は子供の頃からセラミドやアミノ酸が少ないので保湿能力が弱いのです。このバリア機能が弱い乾燥肌の表皮には健康な皮膚よりかゆみのみを伝達する特殊な神経線維(c-fiber)が多く張り巡らされています。ですから、ちょっとした摩擦(洋服の脱ぎ着、髪の毛や、衣類のちくちくした弱い接触でも)によって、かゆみを敏感に感じてしまいます。かゆみとは掻かずにはいられない感覚だと言う教授もいました。アトピー性皮膚炎の皮膚はかゆみに敏感なので掻き破って皮膚炎を悪化させる。そして、症状が悪化するとさらにかゆみが強くなるという悪循環に陥りやすいのです。 さらに、防御力の弱った皮膚からダニやハウスダストなどのアレルギーの原因は簡単に表皮内に進入します。そして直接入ったアレルギーの原因物質が表皮内のかゆみを誘発する物質を多く出させるアレルギー反応を引き起こします。そのかゆみの原因物質が表皮にまで伸びたかゆみを伝達する神経線維を伝わって脳へかゆみの信号を伝えるとかゆみと感じるのです。 アトピーのかゆみには以上に述べた皮膚を反応の場として神経線維を介して脳に感じる経路以外に、直接脳で感じる中枢性のかゆみもあるということが最近分かってきています。現在使われている抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤は神経線維を介したかゆみには効きますが中枢性のかゆみには効きません。ですから、アトピー性皮膚炎の患者さんの中には抗アレルギー剤の内服をしてもかゆみが全部取り切れないので治療をあきらめてしまう人もいます。しかし、かゆみを和らげるのに有効な治療は、まずかゆみを感じる物質を出す強いアレルギー反応を抑えるためにステロイドの外用剤を塗り、治まったら弱ったバリア機能を補助し良い状態を維持するために保湿剤を塗ることが必要です。そして外用剤だけで治まらないアレルギー反応を内服薬で押さえることも効果があります。 西洋医学の治療法の概略は以上ですが、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因は、その他環境の因子、生活習慣、合併症、精神的ストレスなど多岐にわたりますので、一人一人に必要な生活の改善と同時に、体調の補正に漢方薬内服を併用することも効果がある場合があります。 慢性に繰り返す皮膚の病気を治すには根気と努力が必要です。しかも皮膚のダメージを繰り返すと厚いかゆみのとれにくい慢性の皮膚になってしまい治りがますます遅れます。ですから、悪い状態を少しでも早く良い状態にしてそれを維持していくことはとても重要なことなのです。そしてまだ、実用化されていない中枢性のかゆみに効く特効薬の研究が進み、実用化することが患者さんにとっても医療従事者にとっても待たれるところです。 |
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参考:第3回静岡アレルギーセミナー 「アトピー性皮膚炎の痒みを制御する」 高森建二先生(順天堂大学病院医学部付属順天堂浦安病院院長)2006/06/08講演より |
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