「免疫革命」浅説

富井醫院 院長
富井明望

体を司る免疫系。
第2章  病気の本当の原因
 我々医師や看護師及びその他医療に携わる者にとって、繁多な疾病の特徴を正確に把握することが最も難しいものである。それぞれの病気の名称はもちろんのこと、さらにその症状の詳細、治療方法などを記憶するだけでなく、治療に当たる時にも常に千変万化な状況から正確かつ敏速な思考経緯を要求される。現代アメリカから導入されたクリニカルパスという概念も治療に当たる際の思考方式を合理的に科学的に整理するものである。このとき、最も要求されるのは病気の本質に対する理解と哲学である。そして、現代における医学全般において最も欠けているものがこの事であると思われる。
 しかし、本書は病気の本質について我々に新鮮かつ巨大なインパクトを与えてくれる。その内容は「白血球の自律神経の支配の法則がわかるとほとんどの病気の発症原因がわかる」というものである。
 詳しく見てみると、安保教授はまず、白血球には顆粒球とリンパ球があること、一方、自律神経には交感神経と副交感神経があると簡潔に説明した上、次のように明快に分類している。

1.交感神経優位=顆粒球系優位の病気。とくにリンパ球、顆粒球のうち、粘膜、組織障害の原因は顆粒球の活性化である。例えば、
1)新生児黄疸:出生のストレスで顆粒球が増加し、肝臓細胞が破壊されるため、黄疸が認められる。
2)胃潰瘍:精神的ストレスによるものが多い。
3)歯槽膿漏:頑張り屋によくみら
 れる。
4)潰瘍性大腸炎:受験生に多い。 下痢、下血など症状が現れる。
5)クローン病:いじめられっ子の
 病気?といわれている。
6)膠原病一連の疾病(リウマチ、
 SLE, 甲状腺機能亢進症、ベー
 チエット病、など)
7)各種の癌
 交感神経の節で著者は最後に「交感神経緊張は万病のもと」と書き記している。
 次に、交感神経に相対して、副交感神経の過度な存在も病気を産生する。
2.副交感神経優位=リンパ球優位の病気。
 リンパ球体質はアトピーや花粉症、気管支喘息など多種多様なアレルギー疾患の原因体質であるが、その原因は著者は、「リラックスし過ぎであり」「子供の場合は過保護で、大人の場合は運動不足と食べ過ぎです」と分析している。
3.白血球が減ったときの病気。
 これまではリンパ球や顆粒球が増えすぎて生じる病気を説明してきたが、白血球は減ってしまっても病気が生ずる。通常は、生まれつきの病気以外はほとんどみられないが、不適切な治療によって減らされてしまうことがあると著者が指摘している。
 例えば、ウイルス性肝炎の治療に用いられるインターフェロンは顆粒球の活性酸素を抑制し過ぎると、どんどん元気がなくなって興奮しなくなり、うつ病症状になる。また、リンパ球が減ることは顆粒球が増えるときに起きる。つまり、ストレスなどで癌になると、リンパ球が減ってしいまい、癌を更に進行させる。その上、抗ガン剤を投与されるとわずかに残っているリンパ球を全滅させる。これが抗ガン剤を使っても、ほとんどの癌が再発して、進行することの理由だ。
4.再度副交感神経の効能を確認する。安保氏はここに来て再度重要な副交感神経の役割を説明している。

その要点は、
1.副交感神経の役割は体の組織が破壊されるときに修復活動を支配する。
2.その修復活動は体に腫れ、赤み、敏感になる等不快感を与えるが、この反応は現在医学の治療対象になってしまうことが多い。
3.従って、現代医学で過剰に使
用される消炎鎮痛剤、解熱剤などは病気を治す過程を阻止してしまい、病気が慢性化されてしまう。
4.もっとも恐ろしいのは痛みや腫れの時に、むやみに使われる「冷やす」薬である。冷やすことは副交感神経が働いて広げた血管を閉じてしまい、病気が慢性化してしまう。この論点は、驚いたことに今号3ページに掲載した私の文章「あなたの膝や腰の治療間違っていませんか?」の考えと一致している。
 実はこのことから、安保氏の免疫革命の観点が漢方医学の考え方と不思議なほど一致していることが分かってきた。
 さて、漢方医学の考え方を実際に見てみよう。まず、皆さんが聞き慣れない漢方用語から説明しよう。
 漢方医学では、興奮状態や緊張状態は、火事で燃えていることに喩えられる。火の性状は熱く、どんどん上へ昇っていくことから、火の亢進という。これはまさに交感神経が興奮する状態と同じものである。火について漢方医学の原著を幾つか見てみよう。
 
火の特徴

1)六淫の一つ。温熱、暑熱などの火の病邪であり、その性質は陽であり、病態は全て熱性として現れる。「黄帝内経・素問・五運行大論」はそれが天で熱になり、地で火になる。その性は暑である。
2)生命で原動力であり、陽気によって化する。生理的の火である。(前述の顆粒球の特徴と一致する)
3)病理的な変化の過程においては機能亢進の示しである。やはり顆粒球系―交感神経系の性質と一致する。各種の病邪や、「七情(怒、喜、悲、恐、驚、思、憂=黄帝内経・素問・挙痛論篇第三十九)内傷」「五志過極」などの感情変化は一定な条件のもとで、火に化することができる。生理的な火の亢進も病理的な火に転換できる。
(中医名詞術語選訳 中国中医研究院 広東中医学院編集)より
4) 火の性状を示す内臓は「心(こころ)」であり、その主な感情的表現は「喜」(よろこび)である。
 火に相反する物質や概念は水であります。これは水と火は「相克」であると言われている。
 火事の消火を行うためには、水が必要不可欠であることから、下方に沈めていく、冷やすこと、鎮静すること、緊張を緩和することは水の性質であると考えられています。
 火の場合と同様に、漢方医学の原著を紐解いてみよう。

◆水の特徴
1)水の性状を示す内臓は「腎」であり、その主な感情的表現は「恐」である。
2)火が陽であることに対して、水は陰である。
3)心が火に属し、腎が水に属する。両者は相互に制約・作用する。
 ご覧の通り、漢方医学の「火と水」の関係は安保氏著書における自律神経系の交感神経系と副交感神経系に見事に対応している。
 これは何を意味するのか?つまり、目覚ましい進歩を届けた21世紀においては、すでにミクロの世界は遺伝子の構造まで知り尽くされつつあり、マクロの世界では(あまり良い例ではないが)、宇宙有人飛行が私立企業で出来るようになっているにもかかわらず、人体の構造や病気の関係については謎が多く、今なお、数千年前の先知の悟りを実証しているに過ぎない。
 さて、最後に漢方医学の火と水の関係の考え方を用いた面白い現代精神病学の論文を紹介しよう。
 「男性てんかん者及びてんかん者家系男性血縁者には、鉄工所、左官、写真関係といった職業が有意に多く、また、男性血縁者には消防員、鉱業、農林業、パン、菓子製造、飲食料品製造、男性てんかん者には大工を除く土木建設といった職業が多い。われわれは、この職業選択の特性から、光(空気)、火、水、土の四元素とてんかん性人構造に関連があるのではないかと最初は考えた。しかし、その後の研究によって、火と水はあくまでも媒介的な役割を果たすものに過ぎないと分かってきた。つまり、光と土が対立する要素であり、火と水は上昇と下降の運動である火の動きや水の動きという形で、光と土の両極を結ぶものであるという結論に達している。」(てんかん患者について 松橋俊夫著:漢方による精神科治療 1988 金剛出版p21)