「免疫革命」浅説

富井醫院 院長
富井明望
 新潟大学安保徹教授の『免疫革命』は最近の健康、医療業界に大きな旋風を起こし、多くの医師や医療関係者は思想的革命を持ち込まれたに違いない。私もその一人である。
 これから、僭越ながらこの著名な文献を部分的に引用しながら連載の形で紹介してみたいと思う。
病気についての概念は、まず人間の本質についての認識から始まると思う。古代中国では科学が未発達で病気についての高度の認識手段がなかったため、病気を自らの宇宙観を照らして素朴な唯物論である陰陽五行学説を造りだした。それによって行ってきた漢方医学の治療は病気の本質については触れることができなかったが、自然界や宇宙における平衡の崩れが、変動と物事の消長の原因であることに気がついたため、病気も人体における平衡の崩れであるという考え方が支配的になり、それに従って医学が緩徐ながら発展した。
 近代西洋における科学の発達によって自然や宇宙を認識する範囲が数億分の1ミリから数兆光年まで広がったため、人体及び病気についての認識は組織、細胞、細胞の組成部分である核、さらに遺伝子、蛋白、核酸など微観(ミクロmicro)へどんどん進んでいく。現在もっとも流行っているゲノム医療の世界で研究者が話題にするのは、蛋白質分子レベルのことである。

 しかし、人体、更に自然界はどのようにこのような微細な組成成分を組み立てて、どのようにそれらをうまく生命という依然として不思議な存在としているのについては、まだ分かっていないところが多い。また、現代科学が進めば進むほど、樹木は見えるが森が見えないような現象が目立つようになる。現代医療もこのようなことが臨床に見られる。よく大病院の外来にいると、やたらに数多くの臓器を冠した診療科の看板が見られる。循環器科、呼吸器科などのほか、最近女性生殖器外科や小児内分泌外科などここまで細分化するのかと思うぐらいややこしくなっている。
 この論点は多くの研究者がすでに気がついている。安保教授もその一人であり、「免疫革命」はその観点をわかりやすく解説してくれた。専門である免疫学にも、前に述べた細分化の傾向が強くなりつつあり、こうした細分化した免疫学は「現場の医療に立ち向かうとなると、直接役に立ったということがほとんどない」ことを懸念し、「身体と生命を全体的にとらえる免疫学をめざす」ことを目標にされて研究を進めてきた結果、「白血球の自律神経支配の法則」を発見した。

 さらに、安保教授は現代医療の弊害は:1.今の医療は薬に頼り切っている。2.強力な現代薬が病を深くした。3.対症療法では慢性疾患は治らないとし、それに対しての唯一の解決方法は、身体のシステム全体をとらえる統合医学を実践する、つまり生命を育み体調を整える三つの体内システムを理解することであるとまとめた。
三つの体内システムとは1,代謝エネルギーシステム;2.白血球システム;3.自律神経システムであるが、これらは実は密接に関係している。特に自律神経システムは身体の細胞全体を統合し、ほかの代謝と白血球システムも管理統括している。

 一つの例として、安保教授はパーキンソン病を挙げている。パーキンソン病患者は筋肉が硬くなって震えるという症状が典型的である。現在医療の権威的な治療方法はドーパミン前駆体の補給であるが、現代パーキンソン病が爆発的に増えている背景には現在社会の強いストレス環境による交感神経緊張状態があることから、交感神経刺激作用のあるドーパミン前駆体を内服させるとかえって患者が緊張を起こし、症状が悪化しやすくなると指摘した。
 この考え方は私にとって実に明快で説得力があった。これだけで私は『免疫革命』の虜になった。

 次回は『免疫革命』の各章に従って私の読書記を掲載させていただこうと思う。