漢方のキ・キ・メ
     第1回 人参養栄湯

東京大学医学部生体防御機能学教室研究員
中国中医薬大学
宋 清華
今回は、前号で紹介した黄耆を中心とする処方を紹介いたします。
ご承知の通り、黄耆は補気薬であるため、黄耆を含む処方の多くは補剤と呼ばれるものです。そこで、人参養栄湯を代表として説明してみましょう。

◆人参養栄湯とは?
 人参養栄湯は、もともと体を潤し抵抗力を高める作用が期待されている処方で、栄衛を養うこと−つまり、生体防御を高めるということです。 手術後のリカバリー、放射線や抗癌剤治療によるの副作用の軽減のみならず、心肺機能の衰えた患者さんの全身状態改善に有用で、高齢者のQOL向上*1に役立つ方剤です。
人参養栄湯は「芍薬」、「当帰」、「陳皮」、「黄耆」、「桂皮」、「人参」、「白朮」、「炙甘草」、「熟地黄」、「五味子」、「茯苓」、「遠志」、「生姜」、「大棗」からなります。出典の『太平恵民和剤局方』では、五臓が弱って体力の低下が著しくて、筋肉や関節の痛み、軽い呼吸困難や下痢を伴い、咽喉や唇の渇き、うつ状態を呈しているものを治すと記載しております。また、研究もさかんで、主に二つの方面で行われています。一つは西洋薬による病気の治療で起こった副作用を防ぎます。もう一つは高齢者を中心とした、体の弱い人に対する補剤としての研究です。前者の研究は、特に癌の治療の過程で起こった副作用の改善を中心とします。


◆人参養栄湯の科学的研究
現在、癌の治療は主に化学療法または放射線で行います。いうまでもなく、副作用は頻繁に起こります。癌の化学療法や放射線療法施行中には、悪心、嘔吐、骨髄機能障害、腎機能障害や消化胃吸収・呼吸器系の機能低下などの副作用がみられます。このような治療中の副作用を少しでも軽減することを目的に人参養栄湯が応用されています。
実験研究によると、婦人科癌患者の癌治療後、疲労倦怠感などの自覚症状がある患者さんたちを対象とし、人参養栄湯を投与したグループと、そうでないグループに分け、12週間投与した結果、投与したグループの方が優れた有効性を示しました。
また、痴呆や高齢者に対する作用も研究され、アルツハイマー型痴呆患者に人参養栄湯を投与した結果、感情の不安定さや、怒りっぽいなどの改善が著明でした。その他、血液検査の結果や、体重などが有意に改善し、食欲不振、全身倦怠感、めまい感、四肢冷感、動悸、息切れなどの不定愁訴の持続する高齢者に対しても人参養栄湯の効果が認められました。
以上のようなことから、人参養栄湯は気血両虚、すなわち体力、気力が低下した状態に陥り、呼吸器系から感染などの侵襲が始まろうとしている場合が適応であるといえます。
その他にも、過多月経で起こる鉄欠乏性貧血症や男性不妊(特発性造精機能障害症)に対しても、効果が認められています。


◆現代医学における人参養栄湯の価値
薬理的にも人参養栄湯は骨髄、末梢血ともに賦活し末梢循環を促進し感染防御機能を高めることが示されています。さらに悪性腫瘍の肺転移、化学療法・放射線療法による肺組織障害など、応用範囲は現代医療の中で広がりつつあります。
 このように、優れた薬理効果を持った人参養栄湯は、作用が強力な西洋薬が登場すればするほど出番が増すことでしょう。近年、人参養栄湯が補剤学の中心に位置づけられるのは当然のように思われます。