| 針灸治療はこんなによく効く! 不眠症 |
上海中医針灸室 院長 陶 強毅 東大生体防御機能学教室 宋 清華 |
| ◆不眠とはなんでしょう? | |
| 不眠とは通常睡眠が不足していることを指しています。軽症の方は寝付きが悪く、すぐに目が覚めてなかなか寝付けないなどを訴えます。重症になると、夜通しで眠れないことを訴えます。また、寝付きがよいが、早々目が覚めてしまう人もいます。 現代医学では、騒音などの外界からの刺激や、日常生活の乱れなどによる不眠と、痛みなど睡眠を阻害する要素を持つ身体疾患や、精神症に起因する不眠の大きく2種類に分けられます。 一方、漢方医学ではどう分類されているのでしょうか? 紀元前2から3世紀に整理された漢方のバイブル―『黄帝内経』には、すでに不眠のことを「目不瞑」(目が閉じない)、「不得臥」(横になれない)と書いています。また、『難経』という著作には「不寝」(寝ない・横になれない)としていますが、その分類としては、体内部の臓器(臓腑という)のバランスが乱れていること(陰陽平衡の失調という)により心神不安,入眠困難となるものと、体の外部から侵入してきた病気(邪気)によるものに分類されるようになっています。 次はこの不眠を詳しく漢方的に分析してみましょう(漢方医学では病因病機弁証という)。 |
|
| ◆体が虚弱している者の場合(虚証):「心腎不交」による不眠 | |
| この虚証というのは、小柄で痩せて、皮膚が水を含みポチャポチャして、骨格が華奢で、見るからに体力がなさそうな人。「寒い」「冷える」「腰が痛い」「足がだるい」などをよく口にします。 「心腎不交」―非常にわかりにくい言葉ですが、大事な考え方が含まれていますので少しわかりやすく説明してみましょう。 漢方では人間の精神・気持ち・感覚などを「心」(こころではなく、「しん」と呼びます)という臓器=ほとんど現代医学の大脳に相当します=の働きとしてとらえています。 一方、体の元気や精力、体力などを「腎」(じん)によって統括されていると考えています。この「腎」は現代医学の腎臓とは違って、オシッコを排泄するものだけではなく、成長、生殖などの機能も含んでいます。つまり、「腎」は腎臓以外に、生殖器、骨、歯、髪の毛、耳や聴力まで含んでいます。 漢方の理論では「心」が陽気で明るく、火のような陽的な性質をもつべきであり、逆に「腎」は水の流れる先などを管理することから、陰的な性格を持っていると考えられています。この「心」と「腎」が互いに調整しバランスを保って、健康であることが「心腎相交」と言われています。 性交渉のしすぎや、長く慢性的な病気にかかっているため体力が低下しているなどの原因があると、「腎」が大きく損傷を受けることになります。すると「心腎相交」の関係が崩れて、「心腎不交」となります。つまり水と火の関係が乱れてしまうと、火の燃えすぎで心が安静でなくなり、不眠、イライラ、めまい、難聴、耳鳴り、物忘れが激しい等の症状が起きます。また「腎」の障害で腰、膝がだるく力が入らない、性欲低下、生理不順、頻尿、夜尿、慢性下痢、寝汗などの症状を伴います。 |
|
| ◆体力があって不眠がある場合(実証):痰熱による不眠 | |
| ここで実証というのは、がっちりした体格で肥満気味、赤ら顔で、暑がり、汗っかき、吹き出物が多く、体中に湿疹ができたり、化膿しやすい。また、食欲が旺盛で何でも食べられます。このタイプの人は、実は「胃」の病気にかかりやすいのです。 漢方医学の「胃」は現代医学のそれとほぼ同様で、食物の受け入れと消化です。胃の病気は、食べ過ぎや飲み過ぎで胃に損傷が起こると、食物などが胃の中に停滞します。これが長く続くと、多量に摂取された食物が過剰な熱を生じ、とりすぎた水分は痰を生じるようになってしまうのです。このような、たくさん作られた熱と痰はドロドロしており、体の中の血液やエネルギーの動きを邪魔しています。症状として、痰が多いがのどが渇きやすいなどの症状の他、イライラ、めまい、夢が多い、よく目が覚める、熟睡ができないなどは痰熱の特徴です。さらに胸が苦しい、胃部のつかえなどの症状も現れます。 |
|
| ◆治療方法:痰を融かし、胃を緩和する(化痰和胃という)。 | |
| 針灸の施術は:中、豊隆、内関、隠白をよく使います。漢方飲み薬は「黄連解毒湯」を基本とします。黄連解毒湯は紀元300年頃に葛洪によって書かれた『肘後方』や735年王濤の著書『外台秘要』に掲載されていました。黄連解毒湯は主に黄連、黄ィ、黄柏、梔子ら四種類の生薬から作られています。原典では感染症の発熱のため中枢神経症状を呈する場合が適応とされていますが、現在臨床では脳血管障害、痴呆、精神神経症状に使われます。現代薬理学の作用機序として、末梢循環と脳循環の両方とも改善することや、脳神経細胞の成長を促進することなどと考えられます。ちなみに、二日酔いも適応になります。 |
|
| 校正 富井醫院院長 富井明望 参考文献:丁 宗鐵編 和英東洋医学用語集 医聖社 平成5年 仙頭正四郎著 自分でできる東洋医学の健康診断・読体術 小学館 1998年 北京中医医院・北京中医学校編 実用中医学 北京出版社 1975年 |
|