亞里亞は・・・その時が来ても、目覚めることはなかった・・・・・・。
やはり、まだ時間が・・・ゆっくりと必要なのであろうか・・・・・・。
したがって、予定通りに然るべき措置が取られた。
傍から見れば、まるで病人のようではあるが、こればかりは致し方ない。
身体的にはそれほど問題はないのだが、精神的に・・・心の問題の方が大きい状態にある。
それは・・・最終的に亞里亞自身の心の内面より引き起こしてしまった異世界での暴走により、
みんなを大きく巻き込んでしまったから・・・・・・なかなか今となっては、面と向かって
顔を合わせられないでいるに違いない・・・・・・。
でも、さすがに・・・いつまでもそうして自身の殻に閉じこもったままでいるわけにも
いかなくなってきている・・・・・・。
心の整理が済んだとしても、その後に出るタイミングを見計らうのが、また難しい・・・・・・。
それもそのはず・・・仮に自分が今の位置に踏み留まっても、世の中やその中で生きる人々は
常に皆が前に向かって動き進んでいるのだから・・・・・・。
要は・・・環境的に恵まれれば、皆が待っていてくれるかもしれない・・・・・・。
だが、もしそうでないとなれば・・・・・・置いてけぼりになる可能性すらある・・・・・・。
よって、精神的には・・・そういう板ばさみも存在しているわけなのである。
そうして、そういう考えが無限ループに入り込むと、もはや自身の頑張りや努力といったものでは
解決できる可能性が一段と低くなってしまうのである。
でも・・・もちろん希望もある。
最終的な唯一の手段は・・・一旦リセットすることである。
ただし、これはもちろんのこと・・・これまでのことをすべて無かったことにするわけではない。
心の気持ちをもう一度スタートラインに戻すことである。
そうすれば、これまでの心に積もったわだかまりを瞬時に溶かし流して、再びやり直すことも
可能となるのである。
では、具体的には、どうするのか・・・?
・・・・・・一度元の状態に戻す・・・・・・。
すなわち、これまでの過程でバラバラになってきたものを、集め直して再結合させることにある。
これは言ってみれば・・・宇宙の起源に例えられるものかもしれない・・・・・・。
最初は一点であったものが、次第に無数の個体に分かれていく・・・・・・。
それはそっくりそのまま人に当てはめられるものではないだろうが、似たようなことは
言えるのではないだろうか・・・?
よく、心を一つにして目標達成のために頑張る・・・といったことがあるが、
まさにその言葉が適用できるような気がしなくもない。
では、ここでの具体的な方法として、何が考えられるだろうか?
前に千影が創りだした仮想世界では、可憐が皆を代表して亞里亞にコンタクトを試みたが、
あともう少しというところで・・・届かず・・・となってしまった・・・・・・。
その時は全員分の負荷が亞里亞には耐えきれないからだという千影の説明があったが、
今となっては果たして、それが確実に正論だったかどうかは何とも言い難くなってきている。
多少の無理はあっても決行すべきであったのではないかという意見も後から出てきてはいる。
とはいうものの、過去のことにあまり時間を掛けて論ずることは、かえって時間の浪費に
しかならないものである。
大事なのは・・・これからいかにどうするかということである。
各々の中で、いろんな考えが交錯してはいるが、なかなかまとまりがつかす、時間ばかりが
経過してしまっているような状況である・・・・・・。
・・・が、そんな中で咄嗟に何かを思いついたのか、咲耶が考えていた自論を述べ始めだした。
「・・・・・・可憐ちゃんだけに任せてしまったのが、いけなかったのかもね・・・・・・」
咲耶の隣にいた可憐は思わず彼女の方に顔を向けた。
「・・・咲耶ちゃん・・・どうしたの・・・?」
可憐の投げかけにはあまり構わずに咲耶はさらに続けた。
「1人でだめなら、それこそ全員の力を合わせる・・・・・・。
それこそが必要だったのよ・・・・・・。
・・・あ〜・・・でも、念のため言っておくけど、可憐ちゃんの力が及ばなかった・・・
ということじゃ〜・・・ないからね!」
可憐1人のみに責任が掛からないようにと咲耶はすかさず彼女にフォローを入れた。
「でも・・・千影ちゃんの話だと、全員で亞里亞ちゃんの中に押しかけたら・・・
確か良くないって・・・言ってたよね・・・・・・」
可憐は咲耶に押し返すように問うた。
「まあ、それはそうなんだけど・・・・・・。
あの時はみんな可憐ちゃんに託しただけだったじゃない?
・・・そうじゃなくって、今度はみんなの心も可憐ちゃんに預けて行ってもらったらどうかなって
いうところなのよ!」
それは可憐たちにとっても、かなり正論であるように感じられた。
「・・・でも・・・どうやって・・・?」
一呼吸置いて、可憐は咲耶に聞き返した。
「それは・・・やっぱり、また千影ちゃんに頼るしかないのかもね・・・・・・」
と、やや苦笑気味に咲耶は答えた。
確かに・・・それはそうである。
ここでは、摩訶不思議な事象については、千影の前に出られる者など・・・そうは居まい。
何か物体的な物を作ることなら、鈴凛の出番になるだろうが、今回は全く次元が異なる。
他者との精神的感応・共鳴作用、そしてリラクゼーションを外からおこなうのではなく、
あえて中に入り込んでおこなおうというのだから、もちろん容易いことではない。
先の千影が創りだした世界でなら、可憐にも思いのほかできたが、今ここでは普通の世界
・・・そうそうできるものではない・・・・・・。
やはり、この世界でも、そういったことができるのは・・・千影くらいのものであろう。
その肝心の千影はというと・・・・・・。
いつの間にか、咲耶と可憐の目の前に浮かんでいた・・・・・・。
「千影ちゃん!?」
さすがに人が目の前で宙に浮いていれば、誰しも大きく驚くものであるが、
相手が千影だけに、2人とも普通程度に驚いたのみである。
「・・・ふぅ〜・・・、さすがに千影ちゃんね〜・・・・・・」
嘆息交じりに咲耶は、もう当たり前かのように言葉を出していた。
咲耶たちにとっては、ある意味千影は鈴凛と同じく何でもありの妹・女の子という
存在なのかもしれない。
「・・・・・・どうやら、そうそろ私の出番かな・・・・・・と思ったものでね・・・・・・」
やはり彼女は何でもお見通しのようである。
「えぇ・・・実は・・・・・・」
咲耶がそう切り出そうとした時・・・・・・、
「・・・・・・あぁ・・・もう言いたいことは分かっているよ・・・・・・。
咲耶ちゃんと可憐ちゃんの目を見れば、何を言いたいのかは自ずと伝わってくるよ・・・・・・」
彼女が今考えていることをすべて口に出して説明しなくても伝わっているようである。
「・・・・・・だが・・・それを実行に移す前に・・・・・・少しだけ時間を貰えないだろうか?
少々儀式の準備に時間が掛かるのでね・・・・・・。
たぶん・・・明日の朝ぐらいまでは掛かるかもしれない・・・・・・。
だから、皆を集めるのは、それからがいいと思う・・・・・・。
もう今度こそ、失敗するわけにはいかないから・・・・・・。
だからこそ・・・念には念を入れておかねくては・・・ね・・・・・・」
そう言い残し・・・千影の姿はその場から消えた・・・・・・。
これは、どうやら彼女本体がこの場に来たわけではなく、メッセージを早急に届けるために、
思念体のコピーを飛ばしてきたようである。
咲耶たちは顔を見合し、今夜はとりあえずお互いに明日に備えて休息を取ることにするのだった。

 翌朝・・・といっても、どちらかと言えば、もうお昼に近い時間であったが、
ほぼ全員が再び亞里亞の屋敷内の応接間に集まっていた。
それはもちろん、咲耶たちが集まるように呼びかけていたからだったが、
肝心要の千影がまだ来ていない・・・・・・。
きっと、まだ準備に手間取っているのやもしれない・・・・・・。
もしくは準備が終わって一休みしているのかもしれない・・・・・・。
さすがに疲労が蓄積した状態で事を始めても、成功率が下がるだけである。
ここはひとまず、お茶をしつつゆっくり待つことになった。
こういうことは決して自分自身はもちろんだが、相手や周りに対しても焦らすことは
慎まなければならない・・・・・・。
今は時が満ちるのを待つことが大事なのである。
・・・でも、意外とそう待つことはなく、千影は皆の前に現れた。
とりたてて疲れている様子はないようなので、特に問題はないみたいである。
あとは千影のやり方に任せるしかないのだが、実際にやるのは・・・事の他、
ここにいる全員に相違ない。
今は千影の言う儀式の方法に耳を傾けることが最重要となった。

 そうして、一通りは少々時間が掛かった話であったが、要点をまとめると以下のようになった。
1)当然のことだが、皆の意識を集中させ、心を一つにすること
2)無論、亞里亞の持っている心を素直に受け入れようという気持ちを高めること
3)決して、亞里亞に対して拒絶感を抱いてはいけない
4)強制や催促は厳禁である
5)時間を掛けすぎてはいけない
とりあえずは上記の5点となったが、問題は最初の「心を一つにする」ために、
どういう方法を取ればいいかということにある。
今回はどうやら、ただ願ったり、祈ったりするだけでは発動力が弱いらしく、
場合によっては前回よりも効果が薄くなる可能性もあるらしい・・・・・・。。
となれば、どうすれば良いのか・・・・・・?
「・・・・・・皆の魂を共鳴させ・・・そして、共有しあえることができれば・・・いいのだが・・・・・・」
千影の一言に皆、耳を傾けた。
でも、次に出てくる言葉がなかなか来ない・・・・・・。
そんな中・・・咲耶が考えを搾り出すように言葉を発した。
「それでも・・・“願い”や“祈り”・・・といったものは必要・・・なのよね・・・・・・?」
しばし後・・・その咲耶の発言から、可憐が何かを思いついたかのように提案した。
「願いを叶えるための・・・祈りを捧げる・・・・・声を奏でてみる・・・というのは・・・どうかな?」
その可憐の一言から皆には、何か共通めいた答えを導き出したような表情が
自然と現れていた・・・・・・。
「・・・そっか!・・・・・・要はみんなで心を一つにして歌えばいいのねっ!」
それを咲耶が代弁して言った。
「・・・・・・まあ・・・けっして、歌に限らないけどね・・・・・・」
そこは見方を狭めないためにも千影がフォローを入れた。
「・・・う〜ん・・・でも〜・・・何のお歌がいいのかな〜・・・・・・?」
花穂は花穂で、既に選曲で悩み始めているようである。
「・・・やっぱり・・・祈りとくれば、賛美歌が一番適しているように思われますけど・・・・・・」
鞠絵が少し遠慮がちに発言したが、それは良き考えであるという賛同の声が広まったため、
特に異議を唱えるものはいなかった。
「・・・・・・じゃあ、それはその方向でいくとして、あとのやり方は千影ちゃん・・・お願いね!」
咲耶から導き役を振られた千影は、それが自然の流れのごとく受け入れるのだった。
「・・・・・・うん・・・・・・では、行こうか・・・・・・。彼女のもとへ・・・・・・」
そう千影が促すと、皆は立ち上がり、亞里亞の部屋へと赴くのだった・・・・・・。


 (第25話に続く)→(2月〜今夏→近日更新予定)
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