投稿作品(2) 「夢の行方...」
「おはようございます、お兄ちゃん。」
僕の部屋のドアを開けながら少女は笑顔でそう言った。
「おはよう、可憐。今日も元気だね。」
僕は振り返りながらそう答えた。
「だって、お兄ちゃんとお買い物に行けるんだもん。
それでお兄ちゃん、今日はどこのお店に行くの?」
「んっ?今日行くのはアクセサリーショップだよ。」
「アクセサリーショップ?」
「この前商店街の近くで見つけたんだ。
今度可憐と一緒に行こうと思ってね。」
「ふ〜ん・・・そうなんだ〜。
それじゃあ早く行こうよ、早くしないとお昼になっちゃうよ。」
「もうすこしで準備できるから外で待っててよ。」
「うん」
そう言いながら可憐は外へと向かった。
「え〜と・・・サイフ、サイフっと・・・」
ふと机の上を見ると一枚の写真が目に留まった。
その写真には兄妹が仲良く手をつないで写っていた。
妹のほうは耳まで真っ赤にしてすこしうつむいていた。
「そういえばこの頃からだったっけ・・・可憐を好きになったのは・・・」
ピアノの演奏会のときの可憐の真剣な表情を見たとき
胸の奥がチクッとしたんだ。
そのときは気のせいかと思ったけど可憐の笑顔を見るたびに
胸の奥が締め付けられるような気がして・・・
やっとこれは恋なんだって気づいたんだ。
でもこの気持ちは可憐には言っていない・・・
可憐は僕のことが好きらしいんだけど、
それは兄妹としての好きかも知れない。
それに・・・僕たちは兄妹なんだ・・・
どんなに両思いだったとしても兄妹だから結ばれることは無い。
僕は昨日まではそう思っていた。昨日の両親の会話を聞くまでは・・・

昨日の晩、たしか3時ごろにトイレに行こうと思って
居間の前を通ったら父さんと母さんがこんなことを話してたんだ。
「なあ母さん、可憐が家に来てから今年で何年になるかな?」
「可憐が1歳のときに引き取ったから今年で15年のはずよ。」
えっ・・・可憐を引き取ったって・・・いったい何の話をしてるんだ・・・
「そうか・・・もう15年も経つのか・・・」
「裕也は妹だって思ってるみたいだけど・・・
本当は血がつながってないって知ったらおどろくでしょうね。」
「そりゃあ自分の妹だと思ってたら実は赤の他人でした、
って言われたら普通誰だって驚くだろう。」
「可憐は可憐で本当の兄だと思ってるみたいだからいいけど・・・
いつかは二人に話さないといけない時が来るわよ。」
「そうだな・・・おっと、もうこんな時間か・・・そろそろ眠るとするか。」
「そうね・・・それじゃあおやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
そう言って二人は自分の部屋に戻っていった。
僕はその場から動くことができなかった。
可憐と僕は血がつながっていない・・・
可憐と僕は兄妹じゃない・・・
その言葉が頭から離れなかった。
僕はその日、眠ることができなかった。

僕がそんなことを思い出していると、
「お兄ちゃん早く〜」
と可憐の声が聞こえてきた。
「ごめん、すぐ行く」
と答えて、僕は部屋を後にした。

「お兄ちゃん、今日のお昼はどうするの?」
「昼かぁ・・・可憐は何が食べたい?」
「う〜ん・・・可憐はお兄ちゃんと一緒なら何でもいい。」
「それじゃあ・・・新しく出来た所にでも行ってみる?
確か商店街に出来たって誰かが言ってたはずだから。」
「うん、それじゃあ早く行こう、お兄ちゃん。」
「そうだね。」
こんな会話をしながら僕と可憐は商店街へと向かった。
商店街は休日だけあってかなりの人がいた。
「これはむずかしいかもな・・・」
「どうかしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでもないよ。
それより可憐、右手を出して。」
「う、うん」
僕は差し出された可憐の右手を掴んで人ごみの中へ踏み込んだ。
「こうすれば離れ離れにならないだろ。」
「う・・・うん」
可憐は少しうつむいていた。
「え〜とっ、お店はっと・・・あったあった、あそこだ。
ほら可憐、行こうよ。」
「う・・・うん」

アクセサリーショップの中はカップルでいっぱいだった。
「わぁ〜〜、すご〜い。」
店内に入った可憐の第一声がこれだった。
「お兄ちゃん早く早く、あっちにもいろいろあるよ。」
「うわぁ〜、こんなに広かったんだこの店・・・
外から見たら小さめだったのに・・・
それにしても
右を見ても左を見てもカップルばっかりだな。」
「ねえお兄ちゃん。」
「んっ、どうしたの可憐。」
「可憐とお兄ちゃんも・・・恋人同士に見えるのかな?」
「う〜ん・・・見えてると思うよ。
それに僕、今日はデートだと思ってたけど・・・」
「デ・・・デート!でも、でも・・・
可憐とお兄ちゃん、血のつながった兄妹だよ?」
「兄妹だからってデートしちゃいけないって法律は無いよ。」
「そ・・・それはそうだけど・・・」
「それとも可憐は僕とデートしても楽しくないの?」
「ううん、そんなことはないよ。
お兄ちゃんとデートなんて可憐とっても嬉しいです。」
「良かった。それじゃあ可憐、好きなアクセサリーを一つ選びなよ。
買ってあげるから。」
「えっ、でもこのお店、どれもお値段高いよ?」
「いいんだよ。今日は可憐の誕生日だし・・・」
「えっ・・・でも可憐のお部屋のカレンダーは22日になってたよ。」
「ああ、それは僕が変えておいたんだ。
可憐を驚かせようと思ってね。」
「も〜、お兄ちゃんの意地悪。」
「ごめんごめん、でもたまにはこんなのもいいだろ?」
「う〜、でも〜。」
「ほら可憐、早く選んでおいでよ。
早くしないとお昼がきちゃうよ。」
「えっ、じ・・・じゃあ可憐選びに行ってくるからお兄ちゃんはここにいてね。」
「わかったよ。」
「それじゃあ行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
さてと・・・可憐も行ったみたいだし僕は目的の物でも・・・
〜〜10分後〜〜
よかったよかった、目的の物も買えたし・・・
え〜と可憐はっと・・・あっ、いたっ・・・
「お〜い可憐、決まった?」
「うんお兄ちゃん。
可憐これにする。」
そう言って可憐が差し出したのは、
二つのブレスレットだった。
「こっちの大きいのがお兄ちゃんのでこっちが可憐。
お兄ちゃんとおそろいのが欲しかったんだ〜。」
「そ・・・そうなんだ・・・
それじゃあこれを買ってお昼にしようか。」
「うん。」

「え〜とっ・・・確かこの辺に・・・
あっ、あったあった。可憐あのお店だよ。」
「あっ、ここは友達の美奈ちゃんがおいしいって言ってたよ。」
「そうなんだ、今ちょうどお客も少なそうだし・・・
それじゃあ入ろうか。」
「うん、お兄ちゃん。」
うわぁ〜、ここもカップルばかりだ・・・
何か縁でもあるのかな・・・
「お兄ちゃんは何にするの?」
「えっ・・・あっ、僕はAランチでいいよ。可憐は?」
「可憐もお兄ちゃんと一緒のAランチにする・・・それと・・・」
「パフェ・・・でしょ。いいよ、頼んでも。」
「すっご〜いお兄ちゃん、何で可憐が言おうとしたことがわかったの?」
「可憐はパフェが大好きだからね・・・
それに、一生懸命メニューを見てたもんね。」
「うっ・・・それは・・・」
「それで可憐はイチゴパフェでいいの?」
「えっ・・・う、うん。お兄ちゃんは食べないの?」
「僕はケーキにするよ。」
「うわぁ〜、ケーキもおいしそう。」
「可憐にもちゃんと分けてあげるよ。」
「本当?ありがとう、お兄ちゃん。」



「あっ、可憐、口にクリームがついてるよ。」
「えっ、どこ?」
「ほら、ここ。」
「あっ、本当だ。お兄ちゃんありがとう。」
「どういたしまして。」
「あっ、お兄ちゃんにもクリームついてる。」
「えっ、本当?」
「あっ、待ってお兄ちゃん。可憐が取ってあげる。」
「う・・・うん。
って可憐、何でそんなに顔を近づけるの?」
「動いちゃ駄目!」
「は・・・はいっ!」
ちゅっ
「か、可憐・・・今のって・・・」
「えへへ、お兄ちゃんにキスしちゃった・・・」
や・・・やばい、マジで抱きしめたい。
でも今は我慢して、
「可憐、早く食べないとパフェが溶けちゃうよ。」
「えっ?」
「ほらっ、可憐あ〜んして。」
「う、うん。あ〜ん。」
「おいしい?」
「うん。ほら、お兄ちゃんもあ〜ん。」
「えっ。」
「お兄ちゃん、あ〜ん。」
し・・・仕方ない・・・
「あ〜ん。」
「おいしいですか?」
「本当だ、おいしいね。」
「でしょう。
ねえ、お兄ちゃん。」
「どうしたの、可憐。」
「この後・・・公園に行ってもいい?」
「えっ、いいけど。」
「わ〜い。」
「それじゃあ早く食べ終わらないとね。」
「うん。」



「それで・・・公園に来たけど何の用があるの?」
「実は・・・可憐、お兄ちゃんにお話があるの。」
「僕にお話?」
「うん・・・
あのね・・・お父さんとお母さんが言ってたんだけど・・・
可憐、お兄ちゃんの妹じゃないの!」
「えっ・・・か、可憐・・・」
「昨日の晩、トイレに行こうと思って
居間の前を通ったらお父さんとお母さんがそう言ってたの・・・」
「ぼ・・・僕だけじゃなかったんだ・・・
可憐も聞いてたんだ・・・」
「えっ?」
「実は可憐・・・その話、僕も聞いてたんだ・・・
だから・・・だから今日僕は・・・」
「ど、どうしたのお兄ちゃん?」
「今日僕は可憐に告白しようと思ったのに・・・」
「えっ・・・・お兄ちゃんが可憐に・・・告白・・・」
「ずっと前から可憐のことが好きだったんだ・・・
でも僕たちは兄妹だから諦めてた・・・
けど昨日そのことを聞いて内心嬉しかったんだ・・・
僕と可憐は兄妹じゃない・・・
なら恋人になることはできるって・・・
でも可憐の気持ちを無視するわけにはいかなかった・・・
だから僕は今日告白するつもりだったんだ・・・
可憐・・・突然だけど僕とつきあってくれないか?」
言った・・・ついに言ってしまった・・・
これで僕はもう後戻りできない・・・
たかだか2、3分のはずなのに僕には
10分にも20分にも感じられた・・・
「・・・お兄ちゃん・・・
可憐も・・・可憐もお兄ちゃんと同じ気持ちです・・・
可憐もお兄ちゃんのことが好きだったから同じ事を思ったの・・・
可憐が告白したらお兄ちゃんは困るだろうなって・・・
でもお兄ちゃんが好きだって言ってくれてとても嬉しいです・・・」
「・・・可憐・・・」
「お兄ちゃん・・・
こんな可憐で良かったらお兄ちゃんの恋人にしてください・・・」
「可憐・・・ありがとう・・・」
僕はそう言って可憐・・・僕にとって一番大事な女の子を抱きしめた。

それから僕たちは家に帰ってこのことを父さんと母さんに話した。
すると父さんは、
「何だ、お前たちもか・・・」
「えっ・・・お前たちもって事は・・・も、もしかして・・・」
「そのもしかしてだ。
父さんと母さんも血のつながっていない兄妹だったんだ。
丁度お前たちと同じようにな。」
「そ・・・そうだったんだ・・・
てっきり怒られるかと思ったよ。」
「それはそうと裕也、
お前指輪はプレゼントしたのか?」
「今日買ったけど明日の朝渡すつもり・・・って
父さん、何でそれを。」
「はははっ・・・やっぱりお前はわしの息子だよ。
ここまで同じ事をするんだからな。」
「えっ・・・父さんもなの?」
「ああ、出来たばかりのアクセサリーショップに二人で行って
そのときに買ったんだ。」
「僕もそうだけど・・・」
「そうか、そこまで一緒なのか。
それじゃあお前たちも幸せになれるはずだ。
わしたちは幸せになったからな。」
「ああ、もちろんそのつもりだよ。」



こうして僕たちは兄妹の関係から恋人の関係に
なることが出来た。
父さんと母さんもそうだったのには驚いたけどね・・・
これからどんな障害が訪れても僕は逃げたりしない。
大切な女性・・・可憐がいつも隣にいてくれるから・・・

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投稿者;姫野 直耶(仮) 様
あとがき

ここまで読んでいただいてありがとうございます。
書いた本人が言うのもなんですが、長い、ただひたすら長い。
本当はこれの半分の予定だったのに・・・
どこでこうなったんだろ・・・
まあ完成したからいいんですけどね。
とりあえず次回作は衛の誕生日記念SSを予定しています。
もしかしたら誕生日に間に合わないかもしれませんが
頑張って作ります。
あと、感想とか改善点を教えていただけると嬉しいです。
タイトルが思いつきなので話に合ってないかも・・・
2002年 9月
姫野 直耶(仮)