銅粉の酸化の問題
 
1 マグネシウムから銅粉の使用への課題
  化合する物質の質量比は、従来は、マグネシウムの酸化から学習させたが、次のような利点や問題点がある。
  マグネシウムの酸化(燃焼)は、短時間にその結果が見られる。
  × 強い光をともなう。
× できた酸化マグネシウムの一部が空気中へ白煙となって飛散し、質量がその分だけ軽くなる。
銅粉を使用すると、
光も出ず、空気中へ飛散することもない。
× 完全に酸化するまで時間がかかり、50分の授業時間内にできにくい。
2 銅粉の酸化の問題点の解決(実験結果から)
実験結果から次のような結論を得た。
@ 試験管でなく、ステンレス皿を使用する。
ステンレス皿の代わりに、ステンレス製のしゃくし(お玉)が、かき混ぜやすくてよい。
A 細かい銅粉を使い、あらかじめよく乾燥させておく必要がある。
加熱時の固化をふせぐ理由で、水分を取り除くために、最低一昼夜、シリカゲルデシケーター入れて乾燥させておく。
※塩化カルシウムを利用した、押し入れやタンス用の吸湿パックを利用するのもよい。
B 授業での加熱時間を20分とすれば、1.6g〜2.0gが、比例関係が見られる限度の範囲である。
実験グループごとに銅粉の質量を変えて、クラス全体をまとめて考察するのがよい。
C 授業では、0.4g、0.8g、1.2g、1.6gにするが、精密てんびんが必要である。
※できれば、教師側で、あらかじめ秤取っておくと、時間短縮になる。
D 加熱の方法は、最初の2〜3分は弱火でかきまぜて、板状に固まらないようにし、次いで、かきまぜながら強熱するのがよい。
E 加熱している間の授業展開を考えなければならない。
3 ステンレス皿について
長時間加熱でき、しかも質量が加熱前後で変化しないものは、ステンレス皿がよい。
 試験管を使う方法もあるが、酸素不足と、長時間加熱すると加熱部分が変形してくることがあってよくない。
実験(加熱によるステンレス皿の質量の変化)
直径8.0cmのステンレス皿を15分間強熱
 加熱前の質量  29.28g 
 加熱後の質量 29.29g
※新しいステンレス皿では、全く質量が変わらないものもあった。
4 加熱のしかたと、かきまぜ方
次の3通りが考えられる。
@ はじめから強熱し、20〜30分後、加熱をやめ、10分間冷やしてから質量を量る。
この間、まったくかきまぜない。
×銅粉が板状になり、酸化が不十分
A はじめ10分ぐらい強熱し、冷却して質量を量り、かきまぜた後、再び強熱する。  
 冷却・測定を繰り返し、質量が一定になるまで、この操作を行う。
×やはり銅粉が板状になり、酸化が不十分になりがち
×質量が一定になるまで、かなりの時間を要し、授業の展開がむずかしい。
×操作が煩雑で、皿をひっくり返すアクシデントなども起こりやすい。
 
B はじめの2〜3分間は、ごく弱火で、銅粉が板状に固まらないように、ていねいにステンレス製のさじでかきまぜる。その後20分強熱し、10分間冷やしてから質量を量る。 
実験結果から
 @・Aのように、最初、加熱するとき、かきまぜないと、右の写真のように、銅粉が板状に固まり、これをさじで細かくするのは困難である。
 これを防ぐには、Bのように、どうしても最初しばらくは、ごく弱い火で加熱してかきまぜる必要がある。全体が一様になるまでは、ていねいにすりつぶすようにするとよい。
※板状になっているとき、冷えはしめると、ステンレス皿から破片がはがれて飛び散ることがあるから注意する。
 なお、板状になる理由は追究していないが、銅粉に含まれている水分のせいだと考えている。
5 実験1・・・加熱時間と銅粉の質量の変化(おおむねBの方法にて実験)
(準  備) ○銅粉を24時間以上、シリカゲルデシケーターで乾燥する。
        ○精密てんびんを使用
        ○ステンレス皿  直径 8.0cm
 (実験方法) 加熱後の質量が一定になるまで、次の方法で測定をくり返す。
表1  (赤は、質量が一定になった数値)
1.00g 2.00g 3.00g 4.00g 5.00g
ステンレス皿の質量 20.45 20.35 20.50 20.60 20.50
全体の質量 21.45 22.35 23.50 24.60 25.50
理 論 値 0.25 0.50 0.76 1.01 1.26
5 分 21.55 22.56 23.78 24.94 25.90
0.10 0.21 0.28 0.34 0.40
10 分 21.60 22.64 23.91 25.13 26.08
0.15 0.29 0.41 0.53 0.58
15 分 21.63 22.68 23.99 25.27 26.25
0.18 0.33 0.49 0.67 0.75
20 分 21.66 22.75 24.05 25.38 26.35
0.21 0.40 0.55 0.78 0.85
25 分 21.69 22.77 24.12 25.45 26.45
0.24 0.42 0.62 0.85 0.95
30 分 21.70 22.80 24.17 25.50 26.53
0.25 0.45 0.67 0.90 1.03
35 分 21.70 22.82 24.20 25.53 26.59
0.25 0.47 0.70 0.93 1.09
40 分 21.70 22.84 24.22 25.56 26.62
0.25 0.49 0.72 0.96 1.12
45 分 21.70 22.85 24.24 25.58 26.63
0.25 0.50 0.74 0.98 1.13
50 分 22.85 24.25 25.59 26.66
0.50 0.75 0.99 1.16
55 分 22.85 24.25 25.60 26.69
0.50 0.75 1.00 1.19
60 分 24.25 25.60 26.71
0.75 1.00 1.21
65 分 25.60 26.73
1.00 1.23
70 分 26.73
1.23
考察
 授業時間50分以内では、銅粉3gの酸化実験が可能であるが、子供の準備、秤量、まとめな  どを考えると、銅粉1gから2gが限界となる。
 ただ酸化によって、質量が増加する傾向の把握だけなら、何gでもよいことになる。
6 実験2・・・加熱時間と銅粉1、2gの質量の変化 (Bの方法にて実験)
 実験1の断続的な加熱によって、授業時間50分の中で可能な範囲が2g前後であることが見当ついたので、1gと2gとを連続的に加熱して秤量した。
つまり、1gについて、5分加熱するものと、10分、20分・・・と加熱するものをステンレス皿にとり、それぞれ加熱した。なお、5分のデーターは、実験1のものである。
◆表2(銅粉1gのとき)    単位:g
加熱時間 5分 10分 15分 20分 25分 30分 40分 50分
ステンレス皿の質量 20.45 20.33 20.43 20.42 20.47 20.43 20.48 20.53
加熱前(皿+銅) 21.45 21.33 21.43 21.42 21.47 21.43 21.48 21.53
加熱前(皿+銅) 21.55 21.51 21.65 21.66 21.71 21.67 21.71 21.77
増加した質量 0.10 0.18 0.22 0.24 0.24 0.24 0.23 0.24
◆表3(銅粉2gのとき)   単位:g
加熱時間 5分 10分 15分 20分 30分 40分 50分 60分
ステンレス皿の質量 20.35 20.34 20.33 20.43 20.33 20.47 20.48 20.53
加熱前(皿+銅) 22.35 22.34 22.33 22.43 22.33 22.47 22.48 22.53
加熱前(皿+銅) 22.56 22.68 22.72 22.88 22.82 22.95 22.98 23.02
増加した質量 0.21 0.34 0.39 0.45 0.49 0.48 0.50 0.49
考察
銅粉1gでは20分、銅粉2gでは30分の加熱で、おおむね酸化が完了したと考えられる。
7 実験3・・・授業時間1時限の中で行うために (Bの方法にて実験)
1時限の授業の中で、「まとめ」までするために、次のように実験してみた。
○銅粉の質量  0.4g、0.8g、1.2g、1.6g、2.0g、2.4gとした。
○加熱時間 20分 と 30分を選んだ。
○冷却時間 10分(室温28℃) 室温が低ければもっと短くなる。
表4(加熱時間が20分のとき)    単位:g
銅粉の質量 0.40 0.80 1.20 1.60 2.00 2.40
ステンレス皿の質量 20.33 20.43 20.46 20.48 20.43 20.54
加熱前(皿+銅) 20.73 21.23 21.66 22.08 22.43 22.94
加熱前(皿+銅) 20.82 21.42 21.94 22.45 22.88 23.41
増加した質量 0.09 0.19 0.28 0.37 0.45 0.47
表5(加熱時間が30分のとき)  1回目       単位:g
銅粉の質量 0.40 0.80 1.20 1.60 2.00 2.40
ステンレス皿の質量 20.36 20.43 20.47 20.48 20.33 20.54
加熱前(皿+銅) 20.76 21.23 21.67 22.08 22.33 22.94
加熱前(皿+銅) 20.86 21.43 21.97 22.46 22.82 23.50
増加した質量 0.10 0.20 0.30 0.38 0.49 0.56
表6(加熱時間が30分のとき)  1回目       単位:g
銅粉の質量 0.40 0.80 1.20 1.60 2.00 2.40
ステンレス皿の質量 20.47 20.38 20.52 20.45 20.38 20.52
加熱前(皿+銅) 20.87 21.18 21.72 22.05 22.38 22.92
加熱前(皿+銅) 20.96 21.36 22.01 22.45 22.86 23.49
増加した質量 0.09 0.18 0.29 0.40 0.48 0.57
考察
○加熱時間が20分の場合は、銅粉2.0gが限界である。
○加熱時間が30分の場合は、銅粉2.4gが限界である。
○1時限の授業50分では、準備、冷却、秤量、まとめを考えると、20分加熱がまあまあの限界で、そうなると銅粉は1.6gまでがよい。