電気教材の課題
        
◆ 電気・磁気教材の特質と子供の実態
     
   電磁気教材についてほ、学習指導要領の改訂のたびに、内容や教材配列の順序が変更になったり、学年あるいは小学校と中学校間の移動があったりしている。それだけ、電磁気の指導は、理科の教材の中で、問題の多い教材なのである。
   
 1  電気教材は、子供の好む教材である。 
     
   現代の子供は、電気の社会に生まれ育っている。子供にとって電気は自然環境の一部になっており、すべての自然環境が人間の好奇心をそそるように、電気現象も子供に好奇心を起させている。子供たちは、電気の学習がとても好きである。
 しかし、日常生活の上では、電気の知識がなくても、すべての電気器具はスイッチ一つで自由自在に扱えるになっている。最近は、ヒューズさえも取り替える心要がなくなった。つまり回路の概念がなくても、生活上はまったく困まらなくなっている。
   
 2 電気教材の諸概念の学習は、モデル形成、モデル思考である。
   
   電気教材の特異性は、その実体が、直接五感を通して認識できないことにある。
 物質そのものと違って、電気そのものは手にとって見ることができない。豆電球がつく、方位針が振れる、電磁石が鉄を吸い付けるなどの諸現象は観察できても、それらは電気そのものではなく、電気の働きによって生じる結果なのである。
 私たちは、これらの電気の諸作用を観察して、電気の実体はこんなものであろうと、推理し、イメージをえがいているに過ぎない。
つまり、電磁気教材の認識過程の特質は、電磁気の諸作用によって生じる現象を観察し、電気の本性に関するモデルを形成していく思考過程にある。
   
   一般に、科学的モデルは、観察や測定の結果得られた惰報を分類整理したり、処理したりして規則性を発見したりする過程でつくられるものである。
 したがって、電磁気教材の内容を理解するとは、何らかのモデルを頭の中に形成し、それらが操作できるようになることである。
 モデルを操作するとは、モデルで現象を説明したり、モデルで未知の現象を予測したり、モデルの限界を知ったり、モデルを修正したりすることである。
 モデル形成とかモデル思考は、五感で直接認識できない対象を理解しようとするとき用いられる思考方法であり、重要な科学の方法(探究の技法〉の一つである。
 小中学校の電磁気教材のもう一つのねらいは、初歩的なモデル形成、モデル思考を習得させることにある。
   
3 回路の概念の学習が基本である。(等価回路の理解がむずかしい)
   
   電気の諸概念の中で最も基礎的なものは、回路の概念である。磁気作用や発熱作用の諸作用は、電気回路か構成されてはじめて見られる現象であるからである。
   電流回路についての学習は、小学校3年で、豆電球と乾電池を用いて、電気を通すつなぎ方や、電気を通す物を体験を通して学び、 電気の回路についての見方や考え方をもつことができるようにする。(初歩的電気回路概念の理解)、4年では、乾電池の数を変えながら(直列回路、並列回路)電気のはたらきを学習する。さらに5年では、電磁石の導線に流す電流を流し、電磁石の強さの変化から電流の働きについて条件を制御して調べる能力を育てる。そして、6年では、生活に見られる電気の利用について興味・関心をもって追求する活動を通して、電気の性質や働きについて推論する能力を育てる。
   
回路要素の把握・理解がまず大事
    小学校で使用する主な回路要素は、
 ○電気を発生するもの・・・・乾電池、光電池
 ○電気を使うもの(負荷)・・・豆電球、
LED、モーター、電磁石などである。
 ○電気を伝えるもの・・・・・導線
      ※小学校では、回路要素を把握させながら、回路の概念を形成していくことが特に大事である  から、「導通テスター」みたいな回路が見えないブラックボックス的な教具、回路がすでに組み立てられている「回路板」などは、不適切な教具だといわざるを得ない。
    中学校では、これらのほか、
 ○各種化学電池、各種発電機
 ○LED、
 ○水溶液
 ○真空放電
    など回路要素の種類が多くなり、ぞれら要素間のはたらきを中心にした学習となるが、回路は直列回路と並列回路である。複合回路は扱わないとされているが、電流計・電圧計の使用では学習をすることになる。
     
     したがって、小学校4年生までの回路学習が、その後の電気教材の学習に大きな影響を与えて  おり、「電気好き」が「電気嫌い」そして、「理科嫌い」へ発展しかねない性質をもつ学習となっている。
     
  等価回路
     ところで、子供たちに、なかなか理解できないのは、「等価回路」の概念である。
     
     
     例えば、上の図の図のように、豆電球や乾電池の位置や、導線の太さや長さが少し変わっても、 見かけ上はそれぞれ異なる回路である。子供たちは、これを違う回路と考える。  
     しかし、これらは、すべて2本の導線でつながれており、豆電球の明るさも同じであるから、同 一の回路であると教えられる。
     電気回路がよくわかっている人ならともか<、子供はたちには、ここが難解なのである。  回路図(等価回路)
       
     一般に回路要素(電池、豆電球、導線)のつなぎ方により、多種多様な回路ができるが、それら の中に、接続方法や豆電球の明るさ(電流計の読み)などの共通点を見つけ出せば、少数のグループに分類整理することができる。電磁気学では、2つ以上の回路が同等の働きをするとき、それら を等価回路という。 
      さらに、電気を記号を使っ配線図は、等価回路を表す上で大変便利である。
 例えば、上の図の多様な回路はすべて同一であるから、右上の図のように回路図で表される。言い換えれば、図の多様な回路はすべて等価回路である。そして、回路の概念がよく理解されていれば、図の配線図を見て、多様な等価回路をつくることができる。
     小学校3年と4年で、この多様な回路を分類整哩する基準として用いているのは、豆電球の明るさなのである。つまり、豆電球の明るさ(またはモーターの回転数)の同一性を追求することによって等価回路を認識させていくわけである。
     しかし、子供たちの豆電球に対する興味・関心は、この明るさ(あるいは回転数)の同一性より も、「もっと明るくつけたい」「もっと速くまわしたい」という欲求にむいてしまいがちのようで、教材の意図する方向と、子供の興味・関心の方向にずれがあることも、この等価回路の定着が悪い ことの原因になっているものと思われる。
    なお、最近はLEDを豆電球の代わりに使用する授業も見受けられるが、LEDは種類によって使用電圧が決まっていて、明るさを比べて同一性を見つけるには、やや不適当である。
     
4 授業における回路の概念の定着  
     
   では、実際の授業ではどのようにしたら、この回路の概念を理解させることができるのか、現在言われていることのは、次のようなことである。
 
     
   @ 子供に、数多くの回路を実際につくらせてみるのが最も大切
    子供に回路を作らせるには、子供一人一人に豆電球と乾電池を持たせることがまず大切である。4〜5人に一つずつ持たせたのでは、全員に直接経験を与えたことにはならない。
     
   A 回路を作ったら、それを図に書いて記録させる。
    子供は、いざ記録となると、乾電池や豆電球の形を書くことに苦労する。
 子供には、まだ豆電球のどの部分が大切なのかわからないので、大人のように、それらを線画で書くことができない。書き方の指導をしないと、思わぬ時間がかかる。子供たちの中には、電池の模様まで書こうとする者も出てくる。
     ここで、配線図をワーク・シートにしておくのもよい方法だが、配線図の一つぐらいは、子供に書かせてからワーク・シートを使う方がよい。ワーク・シートにはもちろん、間違った配線図  も入れておく。
     
   B 点燈した回路を数種の型に分類する。
      点燈した回路を分類し、それぞれの型における共通した特徴を見つけださせる。
 分類に際し、教師は、分類の墓準、電池の数、豆電球の数などを規定し、分類操作における条件の設定、この場合は、回路条件に気づかせるよう配慮する。
     
   C 豆電球が点燈しない回路は、どのようなときかを考えさせる。
     一般に電気回路の指導では、点灯する回路が強調されて、開かれた回路やショート回路は扱わないが、回路の学習を徹底させるためには、点灯しない回路も扱いたい。
     
   D 閉じた回路で豆電球は点灯することを理解させる。
     閉じた回路において、回路要素である電源、導線、負荷の三者の関係と、それぞれのはたらきを常に考慮させておく。いかに複雑な回路であっても、
           
    の流れができているか、そこにある負荷は、どの電源とつながっているか、負荷に接続されていない導線はないかなど指摘させる。
     
   E 配線図は、はじめは実体配線図で、順次記号化する。
     配線図は、教師則にとって都合のよい情報伝達の方法であるが、子供にとっては図と実際の部品配置が一致しない。
     
  F 回路図(等価回路)を見て実際に配線し、実体配線図を比較検討する。−−−中学校で
     逆に、子供に回路図(等価回路)を示して、実際に配線させると、いろいろな実体配線ができ  る。その配線の様子を、簡単な実体配線図にし、仲間で検討し、等価回路であることを確認・理  解していくことは、回路の概念の確かな理解につながっていく。
もちろん、小学校では回路図はむずかしいが、中学校では扱うことができる。
     
  G 実験に用いる教具は、十分に吟味しておくこと。
     とくに豆雷球、乾電弛については吟味して品質をそろえて必要がある。面倒くさいが、これをしっかりやっておかないと、目標に合った実験できない。
    ○豆電球
     同一メーカーの同び規格で、同じ乾電池1個で点燈させても明るさにバラツキがある。とくに、直列に2個つないだとき、2個とも同じ明るさに、しかも並列でも2個とも同じ明るさになるように、事前にチェックして準備しておく必要がある。
    (2.5v、0.3Aがよい。)
    乾電池
      乾電弛は、新品であれば、規格は統一できる。
 それでも、メーカー、製造年月日などでバラツキがでる。
 子供に持ってこさせるより、新品を必要個数を教師側が準備したい。
    ○導線
     導線、小学校2年の学習では、端にゼムクリップをつけた程度でよいが、小学校4年の学習では、接続を完全にしたいので、ミノムシクリップ、ワニ口クリップなどを準備する。
    ○乾電池ボックス
     市販の乾電池ボックスを使用する。
     乾電池を数個を直列につなぐには、乾電池を巻きずしのように紙に包むのも簡単で便利である。
     
 5 電流の概念は、回路の実験をいろいろするうちに、直観的にイメージ化する。
     
    回路をつくり、豆電球の点灯のしかたをいろいろ実験していくうちに、「何かが導線の中を流れていく」というイメージを直観的にもつようである。(頭の中での電流に対するモデル化である)
 したがって、回路の学習をある程度行った段階、つまり、イメージをかなりはっきりもった段階で、「電流」しっかりとていねいに説明するのがよい。
 その、子供はのもつイメージは、「水の流れのようなもの」「車の流れれのようなもの」「人の動きのようなもの」という具合になっている。
   しかし、このようなモデルを頭にえがくために、次のような推理をする。  
 @  右図Aのように、豆電球が乾電池より上にあるときは、Bのように下にあるときより暗くなると推理する。
 豆電球が上にあると、乾電池から「何かが流れにくいにめ」と考えるからである。
 
   
 A  針金が長いと、流れる時間がかかるため、短いときよリ点燈が遅れると考える。
     
  B  小学校低学年の子供は、豆電球の点燈を十極からの電気と、一極からの電気が豆電球の中で衝突して光ると考える者もいる。
     ※この+と−で別々の流体を老える考え方は、電気学の歴史にも、2流体説としてあった。
     (2流体説と1流体説)
     
    電流の概念の説明は、一般には、小学校4年の直列回路・並列回路の学習のあとになっている。 逆に、その前に明らかにして、あとの学習をすすめる指導もあるが、やはり回路の概念が一応でき た段階の方が、子供にスムーズに受け入れられるように思う。その段階まで、子供は自分の描いた 電流に対するイメージ(モデル)を、事実に照らし合わせて修正するモデル思考をすすめるわけで この教材のもつ意味がそこにあることを忘れてはならない。
 以前の学習指導要領では、「導線に電流が流れていることは、方位磁針の振れで確かめられるこ と」とある。しかし、電流の存在は、方位磁針の振れをみて、はじめてわかるものではない。豆電球の点灯やモーターの回転などで、経験を重ねるうちに気づくものである。
 
   
 6 電流の向きの概念は、電流の概念のあとがよい。
                   (電流の向きは約束ごと)
     
   まず、「電流は、+極から−極へ流れる」としたのは、約束ごとであって、実験結果から帰納したことではないことを知っておかなければならない。
 豆電球と乾電池とでの回路の学習では、+、−の極をつなぎかえても、豆電球の明るさは変わらない。したがって、電流のモデルは考えられるが、電流の向きまでは考えられない。電流の方向性がはっきりするのは、方位磁針やモーターを用いた活動のときである。しかし、これとて、方向性 は認識できても、+ → − なのか、− → + なのかは決定できない。
 
     
  電流の向きは、教師がしっかり教える。
     電流の向きは、これらの実験からはわからないので、子供に考えさせても無理である。
 しがって、教師が、子どもが方向注に気付いに段階で、約束ごととして教えなければならない。
     
 7 電流の量の概念 
     
   電流の多い少ない(厳密には強さ)の問題は、電流を「何かが流れるもの」」というモデルでとらえられれば、次の段階に当然子供でも考えられることである。
 電流の強さは、市販の電流計ではかるが、豆電球や方位磁針も実は電流計の役目をしているわけ である。豆電球を点燈させて明るくつけば、電気が多く流れたと考え、暗くつけば、少ししか流れないと考えるわけである。
 
   小学校4年の学習では、電流の量は、「豆電球の明るさ」「モーターの回転数」さらには、検流  計(電流計)を用いて測定するが、以前は、方位針の振れの大きさで判断させていた。
  それぞれ、長所・短所があるので、それらを考えて活用したい。
 
    方位針は回路を切らずに測定できる反面、
 ・方位針が振れる理由や子供にはわからない。
 ・方位針を地磁気の南北に合わせるわずらわしさや、方位針の振れの違いが確認できる電流 の量の問題(1A流れる電球まで開発された)がある。
     ・乾電池は、外周を液漏れ防止用にブリキ(鉄)でおおってあるので、方位磁針を近づけると、電流が流れていなくても振れてしまうので、乾電池から十分はなして実験できるよう、豆電球への導線を長くしておく必要がある。 
     
     モーターの回転での判断は、子供には、容易に「何かが逆になった」というイメージをえがかせることができる反面、
 ・検流計(電流計)は回路に対して直列に入れるので、回路を切るわずらわしさと、加えて新たな回路要素を与えるまぎらわしさを与える。