水の電気分解
 
  電圧が一定ならば、水溶液中を流れる電流の大きさは、次の条件で決まる。
  @ 陰極における電極反応の速度
  A 水溶液中のイオンの移動速度
  B 水溶液中のイオンの数
  C 陽極における電極反応の速度
 電極のまわりに複数のイオン等があるときは、どれが電子の授受にかかわるかを考えなければいけない。このとき、大まかな目安になるのが標準電極電位の値である。この値は熱力学的に見たときの酸化・還元反応のおこりやすさの程度を示す。
                                   標準電極電位
     Na+ + e− → Na                 −2.71 V
     2H2O + 2e− → H2 + 2OH−      −0.82 V
     2H+ +2e− → H2                 0.00 V
     4OH− → O2 + 2H2O + 4e−      0.40 V
     2H2O → O2 + 4H+ + 4e−        1.23 V
1 純水の電気分解はできない。
 純水中には、ごくわずかのH+イオン、OH−イオンが電離しています。しかしその数は極めて少なく、しかも水分子の電離速度は小さいので、純水を電気分解しようとすると、

  陰極では水分子が直接電子を受け取って還元される。
     2H2O + 2e−  →H2  + 2OH−       a
  陽極では水分子が,酸化される。
     2H20 → O2 + 4H+ + 4e−        b

 aの反応のおこる陰極は、水分子の還元によって生成されたOH−イオンに、
 bの反応のおこる陽極は、水分子の酸化によって生成されたH+イオンに、
それぞれ取り囲まれ、その結果、電極には逆の電圧がかかる。
 H+イオンやOH−イオンは、電極での電子の授受を妨げる働きをするので、結局、純水は電気分解できないことになる。
2 Na2SO4の水溶液の電気分解
 Na2SO4の水溶液中では、純水中と同じように、H+イオン、OH−イオンがわずかしが存在しないのにもかかわらず、電気分解すると陽極から酸素、陰極から水素が多量に発生する。それはなぜか。 Lポーリングは、「陰極で生成したOH−イオンは、水溶液中のNa+イオンによって電気的に中和される」と説明している。Na+イオンが逆電圧の原因であるOH−イオンのはたらきを打ち消すと考えてよい。
 一方、陽極では、SO42+イオンがH+イオンを電気的に中和する。
 つまり、純粋に電解質を加えると電気分解ができるようになるのは、そこに含まれるイオンが電極付近に生成したOH一イオン、H+イオンの電極に対する妨害作用を減少させるからなのである。
3 電極はステンレス(ステンレスねじ)がよい
市販されている炭素電極を水の電気分解に使用したとき、酸素の発生量が極端に少ないことがある。これは、陽極に発生した酸素が炭素電極の成分の酸化に使われるからである。
 これに比べてステンレスではそのようなことが起こらず、気体の発生量は理論値になる。
おもしろい例として、6Bぐらいの鉛筆の芯を電極にすると、酸素と水素の発生量の比が2:1になる。鉛筆の芯は、石墨と粘土を焼き固めて作られる。石墨が陽極に発生する酸素に対して安定している結果であると考えられる。しかし、鉛筆の芯は折れやすい。
 これに対し、市販の炭素電極は、ピッチを焼いて製造され、表面処理もされている。
 学校では、H管を使って水の電気分解をするのが一般的である。そのとき、3〜4ミリ程度の太さのステンレス棒(ステンレスねじ)を電極にするのがよい。ステンレスは塩素イオンには弱く侵されますが、水の電気分解では白金のように安定した合金である。
 〔参考資料〕埼玉県立南教育センター 研究紀要 第二巻 1989