何のために実験するのか(授業における実験のあり方)
 
 最近は、科学がショ−やマジック的に扱われ、テレビで人気を得ている。科学への興味づけには大いに役立っていると思うが、学校で子供達が学習する理科における実験とは、やや方向が違うように思う。そこで、あらためて授業における「実験」のあり方を考えてみた。
1 「実験は好きだが、考えるのは嫌い、理科は嫌い」
 今までいろいろな調査結果を見てきたが、だいたいは、学年が進むにつれて理科が嫌いになる。しかも、女子の場合は、小学校高学年から、中学生の頃に、「理科嫌い」が急に増え始める傾向が出ている。
   しかし、これは何も今に始まったことでなく、高学年になるにつれて、自我の目覚めとともに、自分にあった教科が何であるかはっきりしてくるのであるから当然の傾向であって、何も特別の傾向ではない。理科に限らず、どの教科も同じ傾向なのである。
   問題なのは、同じ年齢段階において見た場合、学習指導要領なり、指導方法を変えたら、「理科嫌い」が増えてしまったとか、逆に減ったということなのだと考える。
   ところで、「理科は嫌い」という子供達でも「実験は好き」と答えるも者が、意外と多い。では、この子供達は「実験」をどう考えているのだろうか。このへんのことを考えながら、「何のために実験するのか」を検討してみたい。
2 「観察」と「実験」の定義
 
観察 ・・・・「なければならぬものが、確かにある」  
  ・・・・「あってはならぬものが、確かにない」 
    このことを第三者が納得できるように確かめる行動である。 
  実験 ・・・・第三者が納得できる証拠を出すために、人為的な条件をつくり出し、
       自然を強制して、真実を探し出す行動である。 
   ※ しかし、人為的な条件、強制を全然ともわない観察も、ほとんとぜ存在しないから、観察と実験とは、そんなに違う行動ではない。
3 教師の実験観
 理科の教師の多くは、実験の重要性を漠然として理解しているが、あらためて、「何のために実験するのか」と、真剣に問われたら、果たして明確に答えられるだろうか。子供に、「教科書に書いてあるのに、わざわざ実験しなくてもよいではないか。」、「実験するよりも、本に書いてあることを覚えた方が早いではないか」と、言われたら、教師はどのように答えるだろうか。
 教師がどのような実験観をもって実験をしたり、させたりしているかは、教師自身の問題にとどまらず、子供の実験観育成に直接影響を及ぼす点で重大である。
 そこで、まず、どのような実験観があるか、整理してみよう。金山広吉氏によれば、
 
@  理解主義的な実験観
A  興味主義的な実験観
B  理想主義的な実験観
C  現実主義的な実験観
@ 理解主義的な実験観・・・・・・最も一般的 
実験は、知識の理解を助けるために必要だとする実験観
実験をすれば、子供の理解が早くなる。「百聞は一見にしかず」
×  実験とペーパーテストの成績との相関関係の研究結果は、まちまちであり、実験をしなくても、テスト結果は良かった事例はたくさんある。
   →  実験以外に、もっと知識理解を助ける方法があれば、実験をやめて、その方法をとった方がよいということになってしまう。
 実験が重視されている割に、その効果が上がらないのは、多くの教師が、このような実験観をもっているからではないか。
  A 興味主義的な実験観 
実験は、子供の興味関心を高めるための一つの手段であり、学習の動機づけに役立てば十分だとする実験観
子供は、実験が好きである。
    子供は、好奇心が強くて活動的だから、目新しいことには必ず興味を示すし、じっとして説明を聞くよりも、身体を動かして事物に触れる方が好きである。
    「好きこそものの上手なれ」
× 子供が実験を好む理由の中身には
      ・マジックやショーを見る楽しさという受身的興味
      ・思考的要素を拒否した単なるいたずら的興味    
    などが゜ある。          
   
 子供の興味を喚起するための実験を工夫しなければならないが、それが、実験本来のもつべき興味(探究的興味)と、かけはなれたものになってはならない。
B 理想主義的な実験観
実験は、それがどこで、だれによって行われようが、すべて自然科学における実験と同じものでなければならないとする実験観
 学校で、子供が行う実験でも、科学者が研究のために行う実験と全く同じものでなければならないとする。
  × 現在の学校で行っている実験は、そのようなものは少ない。
  この実験観が強くなると、実験至上主義に陥る。
    実験をしない理科の授業はあり得ない。だから実験さえしていれば、立派な理科の授業だと考える。
 
  現実主義的な実験観
    現在の学校の理科教育の現実の姿を直視し、学校における実験の果たすべき役割を現実的に考え、最も効果的に実施すべきだと考えるのが、この実験観である。
  学校の現実は、
    ・使用機材、器具に制限がある。
    ・一週に2〜3時間、1校時、45分 か 50分という時間的制約
    ・指導者が未熟な場合がある。
  自然に対する態度とか問題解決の方法などは、科学研究のための実験と相似するところが多い。
 
4 実験の方法について 
   
  @ 帰納的方法と演繹的方法
   
5 授業の流れの中での実験のあり方 
  @ 導入段階での実験 ・・・・・・ 課題や問題把握と、興味喚起の段階
   
 子供全員に、共通の問題意識をもたせなければならない。
  個別実験より、教師実験(演示実験)の方が、共通の意識をもたせるのによい。
  教師実験は、子供の興味関心を喚起するような実験が望ましい。
    ・目新しい。
・変化が大きくはっきりしている。多少ショー的
  個別実験にするときは、操作が単純で、結果も単純な共通な意識がもてるものとする。
  単元なり、その授業時間の学習内容を包含する実験が、できれば望ましい。
    整理の段階で再び行い、そのわけを考えさせ、説明させることができる。
  ※このような導入実験は、あとの展開時に使わないこと。
  A 展開段階(追究段階)での実験
    次の3つの実験がある。 
   
 実習的実験(訓練的実験)
 発見的実験(探検的実験)
 検証的実験
   実習的実験(訓練的実験)・・・・・・技能訓練的な要素が強いもの
   
 教師の正しい使い方の説明・注意
     ↓
 教師の模範行動
     ↓
 子供の使用活動   
    ○使用方法を子供に発見させるとか、使い方を予想させることは無意味である。
    ○実習的実験のみでは単調で興味が薄れるので、他の実験の中に盛り込むのがよい。
    ○ゲーム的要素を入れると興味がわくものがある。
   探究的実験(発見的実験)・・・・・・実験活動が先で、考察が後になる。
   
 漠然とした予想のもとに実験する(情報収集)
     ↓
 結果を整理し、考察する。
     ↓
 結論を得て、それを一般化する。
    ○探究的な実験での「わかった」は、『発見した』ことである。
   検証的な実験・・・・・・まず、考察で、実験活動が後になる。
   
 問題を把握し、それに対する予想を立てる。
     ↓
 予想の根拠とか、正否を討論し、明確な予想をもつ。
     ↓
 それを証明(検証)するための実験を行う。
    ○検証実験での「わかった」は、教師の説明や、教科書に書いてあることが
 正しかったことが『わかる』ことである。
 
  B 整理段階(まとめ段階)での実験 
   
 ○学習結果を整理するための実験
    ・教師実験
    ・生徒実験
 ○学習を定着させるための実験
    ・つまづきのある実験
    ・導入時の実験の続き
 ○発展的意欲をもたせる実験、応用実験