第7回JACT大会2003 (神戸)

 学会発表から
演題名「手技療法・鍼・灸がアトピー性皮膚炎に及ぼす影響
                                  
                                 なかむら鍼灸接骨院
                                      中村 昭治

要約
アトピー性皮膚炎は痒みを伴った炎症として定義づけられる。
本症状を軽減させる為にステロイド剤が使用されている。
しかし炎症は悪い働きではなく、良い働きで自律神経の安定や血行促進などの治癒反応とすれば、すべてのアトピー性皮膚炎が矛盾なく説明できる。
 このことを証明するらめに重症アトピー患者7名に協力していただき東洋医学(手技療法・鍼・灸)の血行促進する治療で客観的エビデンスが獲得できるかを痒みのスケール・フェイススケール・白血球分画・IgE・写真などで調査した。
結果として7名すべての患者に手技療法・鍼・灸の有効性が認められた。
 アトピー性皮膚炎の炎症は悪い働きではなく良い働きとして考え、血行を抑制するステロイドを使用するのではなく積極的に血行を促進させることが最も重要であり、すべてのアトピー性皮膚炎患者に対応できる治療である。

目的
 15年前、治療に取り入れた“筋・筋膜伸長療法”がアトピー性皮膚炎に効果があることを知り、アトピー性皮膚炎に関わるようになった。
 アトピー性皮膚炎の炎症・発赤・痒みを悪い働きと考えるのではなく、良い働きと考えることで、
多くの謎が解けてくる。
 今まで2,000名以上の治療をしてきたが、客観的データ−に乏しく、手技療法・鍼・灸療法が治療効果のエビデンスを獲得できるかどうか、血液データ−・Face scale・Itch scale・写真などで検討した。 

 血液検査は初診時と1ヶ月後、4ヵ月後で検査。コントロール24名は私のスタッフと、アレルギー疾患に関わらない方に協力をして頂いた。

 図1.白血球はコントロールに比較し、初診時からアトピー患者は増加傾向にあり、治療後1ヶ月ではさらに増加する。初診時からステロイドを中止するためリバウンド状態では白血球が増加し治療開始から約4ヶ月ではコントロールとそれほど差が無くなっているのがわかる。

それでは白血球の分画で何が増加しているのか。

2.好中球
 初診時からコントロールより多く、ステロイド中止後1ヶ月で増加し4ヵ月後に減少している。

3.好酸球
 アトピー性皮膚炎患者に増加傾向が見られるが、やはり初診時からコントロールの6倍以上多く、1ヵ月後増加し4ヵ月後に減少している。好酸球の減少は初診から4ヵ月後、1ヵ月後から4ヵ月後に有意性(P<0.05)が認められた。

4.好塩基球
 初診時コントロールより少ないが、好中球、好酸球と同じように1ヶ月後増加し、4ヵ月後減少傾向にある。
 このことより、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)は、白血球の増加減少に関与している。

5.リンパ球
 コントロール、初診時、1ヵ月後、4ヵ月後、あまり変化はない。

6.単球
 顆粒球と同じような傾向が見られた。

 以上のことから白血球の増加、減少は顆粒球が関与していることがわかる。

それではなぜリバウンドの時、急激に顆粒球が増加するのか。それは、ステロイドホルモンの枯渇からである。
 長期連用したステロイドが酸化コレステロールとなり、血行障害に至る。この状態を改善しようと、からだは顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)を増加させ、血行促進と酸化コレステロールの分泌、排泄能を高めようとする。

 このことが顆粒球、特に好酸球の増加の原因である。

7IgE
 顆粒球と同じように初診時よりも1ヵ月後に増加し4ヵ月後に減少する傾向が見られる。

これらのことから、血行促進する治療効果は認められた。

白血球

好中球
好酸球

好塩基球

リンパ球
単球

アトピー患者7名の初診・1ヵ月後・4ヵ月後の白血球分画

IgE

8.痒みスケール

 アトピー性皮膚炎で一番辛い症状は痒みである。この痒みが治療により改善するのか痒みスケールで判定した図8のように初診時から1ヵ月後4ヶ月で痒みが改善していることがわかる。また初診から4ヵ月後で有意性が(P<0.01)が認められた。


図8

9.フェイススケール

 10段階法で初診時、1ヵ月後、4ヵ月後のメンタリティを判定。症状の辛いときは悲しい表情。症状や体調の良いときは明るい表情になる。これらを判定した結果、図9のように初診時、1ヵ月後、4ヵ月後で改善していることがわかる。

 また初診から1ヵ月後、初診から4ヵ月後で有意性(P<0.01)が認められた。

写真1.写真2. Aさん(27歳・女性)

写真1.は治療開始後54日目のリバウンド状態で全身に皮膚炎が発症し、通院できる状態ではなく往診していた時のものである。

 写真2.はそれから53日経過したときのものです。
Aさんのアトピー歴は中学生(13歳)から発症し27歳までの14年間ステロイドを使用する。いくつかの皮膚科を受診し当院に来院する。

1
Aさんの白血球分画と、フェイススケールと痒みスケールで、顆粒球とリンパ球のバランスは改善。まだIgE値は高い数値であるが日常には全く支障はなく、減少傾向にあり、ステロイド依存症から脱却したといえる。

Aさんの 白血球 ・ IgE ・ Face scale ・ Itch scale の推移

検査日

 

白血球

好中球

好酸球

好塩基球

リンパ球

単球

IgE

F スケール

I スケール

症状

H15.4.16

4,700

2,458

287

38

1,631

287

2,198

10

5

リバウンド

 

(%)

 

52.3%

6.1%

0.8%

34.7%

6.1%

 

 

 

H15.5.19

6,400

3,514

314

58

2,125

390

2,666

10

5

 

 

(%)

 

54.9%

4.9%

0.9%

33.2%

6.1%

 

 

 

 

H15.7.18

7,000

3,192

588

91

2,702

427

2,270

9

5

 

 

(%)

 

45.6%

8.4%

1.3%

38.6%

6.1%

 

 

 

 

H15.9.19

6,600

3,307

277

40

2,739

238

2,343

3

1

改善し

始める

 

(%)

 

50.1%

4.2%

0.6%

41.5%

3.6%

 

 

 

H15.11.19

5,800

3,126

232

52

1,966

423

1,898

2

2

 

 

(%)

 

53.9%

4.0%

0.9%

33.9%

7.3%

 

 

 

 

写真3.写真4.  Bさん(65歳・女性)

 写真3.は治療開始後20日目のリバウンド状態写真です。全身に皮膚炎が発症し表情から辛いことがわかります。この時の白血球数は12,700/?好酸球1,14310.1%)です

 写真4は治療開始218日目の写真です。Bさんのアトピー歴は25年と長く、いくつかの皮膚科を受診し当院に来院する。

2.
 Bさんの白血球分画とIgE、フェイススケール、痒みスケールです。皮膚症状も治癒し、血液データもほぼ異常なく、IgE値も減少傾向にあり完治したと言える。

表2

Bさんの 白血球 ・ IgE ・  Face scale ・ Itch scale の推移

検査日

 

白血球

好中球

好酸球

好塩基球

リンパ球

単球

IgE

F スケール

I スケール

症状

H14.10.1

12,700

6,020

1,143

0

3,937

254

890

10

5

リバウンド

 

(%)

 

53.0%

10.1%

0.0%

34.7%

2.2%

 

 

 

H14.12.6

12,200

7,564

732

122

3,538

244

1,738

1

2

 

 

(%)

 

62.0%

6.0%

1.0%

29.0%

2.0%

 

 

 

 

H15.2.24

9,900

5,227

861

89

3,079

644

806

1

1

改善し

始める

 

(%)

 

52.8%

8.7%

0.9%

31.1%

6.5%

 

 

 

H15.4.28

8,200

3,764

508

49

3,403

476

451

2

2

 

 

(%)

 

45.9%

6.2%

0.6%

41.5%

5.8%

 

 

 

 

H15.8.7

8,500

3,732

391

77

3,783

519

318

1

1

 

 

(%)

 

43.9%

4.6%

0.9%

44.5%

6.1%

 

 

 

 

写真5.写真6.  Cさん(16歳・男性)

 写真5.は治療開始後40日目のリバウンド状態写真です。

 写真6は治療開始160日目の改善写真です。Cんのステロイド使用歴は14年間。

H15.11.22血液検査で好中球は減少、好酸球・IgE値はあまり変化してないが、現在週1回の治療をしている為、やがて減少してくると思われる。

改善していくパターンは経験的に

@    皮膚状態が改善

A    好酸球の減少

B    IgE値の減少となる。

再発を心配される方も多いが、皮膚症状と血液データが正常となれば心配はない。

3

Cさんの 白血球 ・ IgE ・ Face scale ・ Itch scale の推移

検査日

 

白血球

好中球

好酸球

好塩基球

リンパ球

単球

IgE

F スケール

I スケール

症状

H15.7.24

7,100

3,905

923

71

1,988

213

1,109

7

5

 

 

(%)

 

55.0%

13.0%

1.0%

28.0%

3.0%

 

 

 

 

H15.8.25

10,900

6,573

1,373

87

2,278

589

1,281

6

3

リバウンド

 

(%) 

 

60.3%

12.6%

0.8%

20.9%

5.4%

 

 

 

H15.9.19

8,700

4,359

1,192

139

2,279

731

1,476

6

3

 

 

(%)

 

50.1%

13.7%

1.6%

26.2%

8.4%

 

 

 

 

H15.11.22

6,800

3,176

850

88

2,183

503

1,404

2

2

改善

 

(%) 

 

46.7%

12.5%

1.3%

32.1%

7.4%

 

 

 

結論

@アトピー性皮膚炎患者の血液分画は、顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球)が、すべて増加している。治療により減少する傾向が見られた。好酸球の減少は有意な減少を示した。    (P<0.05)

A痒みスケールでは、痒みの減少は、有意な減少を示した。              (P<0.01)

Bフェイススケールは、悲しい表情から明るい表情に変化する有意性が認められた。  (P<0.01)

 以上の客観的データからエビデンスが獲得できたと言える。

 アトピー性皮膚炎の炎症・発赤・痒みを良い働きとして考え、血行促進する治療こそが最も重要と言える。

 手技療法・鍼・灸治療は、アトピー性皮膚炎の治療に効果がある。

 

 現在アトピー性皮膚炎のファーストステージで乳幼児にステロイドが使用されている。そのことからステロイド依存症患者が増加している。

 アトピー性皮膚炎の治療には決してステロイドを使用してはならない。重度アトピー患者は皮膚科医に「アトピーは治らない」と言われた経験があると思います。しかし決して諦めなくて良いのです。本疾患は治らない疾患ではなく完治する疾患です。

 

トップページへ