ドライスーツの使用方法
 
 
                                 ドライスーツ
                             ドライスーツのタイプ
                          その他の器材についての注意
                       ドライスーツダイビングの注意事項
                             ドライスーツの選び方
 
 
 
 
 
        ドライスーツの使用方法
 
 
はじめに
 ドライスーツを上手に利用すると,冬場だけでなく,春,秋と,3シーズンを快適にダイビングすることができます.ウエットスーツは,夏場とか,暖かい地方でダイビングする場合だけのもので,それ以外はドライスーツでダイビングというのが最近の主流です.一般に夏場であっても、水深20m前後の深場では水温はかなり低いのが普通です。夏の最盛期であっても20度以下の水温が普通でしょう。このため、従来はウエットスーツで十分満足していたダイバーであっても,一旦ドライスーツの快適さを経験すると,急にドライスーツのファンとなるものです.このコースでドライスーツを使用してダイビングすることが,あなたのダイビングライフを大きく変化させることになることでしょう.冬場のおっくうなダイビングという印象はずっと後ろに後退し,のんびりした冬場の,本当のダイビングを楽しんでいるあなた方の姿が,今,目に見えるようです.
 
 ここでは,このドライスーツの機能や選び方,取扱上の注意事項などについて学びます.あなたがこのコースを受けているのがちょうど冬場なら,ドライスーツは,それこそ快適なトレーニングを保証してくれることでしょう.普段はウエットスーツで通しているダイバーでも,このコースでドライスーツを経験してみることは,きっと意義のあるものになることでしょう.
 
 
 
ドライスーツ
 
ドライスーツ
 ドライスーツとはその名前の通り,スーツ内部に水が入りにくく,乾いた状態でダイビングできる保温スーツをいいます.このためには,首や手首などの開口部を特殊な方法でシールし,内部はインナースーツという下着を着用することで,保温性を増しています.ドライスーツは保温性が高いために,従来は寒冷地で用いられるのが普通でした.また,操作性に複雑な内容があるために,一般のスポーツダイバーには向かないという点も強調されていました.しかし,昨今のダイバー人口の増加は,季節変化の激しい日本での,冬場の快適なダイビングという要望を強くすることとなりました.このため,スポーツダイバー向きのドライスーツも,色々と機能,材質のよいものが登場するようになってきました.一般に摂氏15度以下の水温では,ドライスーツが不可欠となります.
 
 ドライスーツには,ウエットスーツと異なって防水のファスナーなども使用されています.このファスナーは,水漏れなどもない優れた機構をしており,PAT商品となっているので価格も高いものです.また,スーツ生地の接合部も特殊なシールドが施されていますから手間もかかります.このため,製造期間もウエットスーツよりは長く,価格も高いのが普通です.
 
 
 
初期のドライスーツ
 初期のドライスーツは,シートラバーか,足首,手首,首の所にラテックスラバーシールを使ったゴム引きの生地で作られていたものでした。これには,上着とズボンが分かれていて,両方がウエストの所で長く重なり合い,それを巻き込むようにして着用するというものもありました。そしてこのつなぎめは,幅広のゴムのバンドで押さえるようにしていたのです。また,着る時には弾力性のある首の開口部に足から入るという,ブーツが作り付けになっているワンピース型のスーツもありました。
 
 このタイプのドライスーツの最大の欠点は,着脱が面倒なこと,裂けたり破れたりしやすいこと,それに深場での圧縮のおそれなどでした。というのも,スーツ着用時にスーツ内に入った空気は,潜降時の水圧の増大によって圧縮され,ダイバーの体を締め付けて不快感と痛みを与えたからなのです(スーツスクイズ)。つまり,当時のスーツにはスーツスクイズを防ぐため,内部に空気を送り込むという機構が未整備だったのです.このためプロのダイバーたちは,着る時にできるだけたくさんの空気をスーツ内に入れ,潜降による体積の減少を押さえて,着心地の良さと,浮力や暖かさを維持しようとしたのです。
 
 
近年のドライスーツ
 近年になって,スポーツダイバーにドライスーツが普及してきたのは,耐水性のファスナーが登場したからということもできます。このファスナーのお陰で,着脱がずいぶん楽になったからなのです。また,スポーツダイバーたちが広く使っているのは,エアーインフレーテッドドライスーツとよばれ,スーツ内にタンクから自動的に空気を取り込むことができるものです。このエアーインフレーテッドドライスーツは,ウェットスーツ素材(フォームネオプレンドライスーツ)で作ったものと,薄い耐水性の繊維製品(ファブリックタイプドライスーツ)で作ったものとの,2種類に大別することができます。
 
 
 
ドライスーツのタイプ
 
ドライスーツには2つのタイプがある
 ドライスーツには,ウエットスーツと同様なフォームネオプレーンの生地でできたものと,防水性の丈夫な薄い生地でできたもの(ファブリックタイプ,メンブレンドライスーツ)とがあります.これらはいずれも,インナースーツと呼ばれる服を内側に着るのが普通です.このうち,フォームネオプレーンのものは浮力が大きくなるため,ウエイトを多く付けなければなりませんが,それ自体が大きな保温性を持つものです.また,薄い生地のものは内側に着るインナースーツによって保温性が異なってきますが,総体的に活動しやすいものが多いと思われます.外側が薄い生地のものは,インナースーツの種類によって季節に応じた保温力を調整できますし,浮力を小さくすればウエイトも少なくなる利点があります.しかし,スーツスクイズが生じやすいので,インナースーツはかなり厚い生地で,丈夫なものが必要となります.
 
 
フォームネオプレンドライスーツ
 ネオプレーンドライスーツを使用する場合には,目的によって仕上がりが異なる場合があります.かなりの低水温や寒い場所で長くダイビングする機会が多いダイバーなら,比較的ゆったりしていて,特別な下着を重ね着することで保温性を高める方が望ましい機能を持つことでしょう.しかし,それほど低水温で潜る機会もない一般のスポーツダイバーなら,ウェットスーツのように体にピッタリとフィットするタイプのものが好まれることでしょう.耐水性のファスナーは,一般的には肩の線に沿って走るようになっていますが,なかには体のラインにそって斜めに入っていたり,首の回りに付いていたりして自分だけでファスナーを開閉できるようになったものもあります.また,首,手首,足首の部分はネオプレーンゴムでできており,ゴムの部分が肌にピッタリと密着してシールできるような構造が採用されています.
 
 また,過去には保温性を高めるため様々な工夫がこらされ,スーツ生地の内側に遠赤外線を放射するセラミックス素材や、熱を反射するステンレスを蒸着させたものも開発されました.これらは人体が発する熱を有効に利用して保温効果を高めるもので,寒い地域でダイビングするには有効なものとされています.
 
 ネオプレーンゴムのドライスーツは、出来上りも美しく、現状では圧倒的なシェアを持つドライスーツです。しかし、生地の老朽化は普通のウエットスーツと変わりませんから、長い間にはジャージ生地や接着面の剥離や、ピンホールなどという問題が生じるのは避けられません。ネオプーレンタイプのドライスーツでは、表面のジャージの合わせ目をミシンですくい縫いしているのですが、この縫目は生地の一部に穴を開けている訳ですから、限界を越えて引っ張られたりするとピンホールの原因を作りやすくなるのです。このため、プロが使用するネオプレーンタイプのものは、生地が厚くゆったりとして作られているのが普通です。もっとも、一般のダイバーが使用する回数では、これらの問題が生じる可能性も少ないといえるでしょう。
 
 
ネオプレーンドライスーツの利点
 ネオプレーンスーツは,オーダーメイドで作られることが多く,既製のものでもサイズが豊富なのでダイバーの体にフィットしているのが普通です.このため,スーツ内の空気の移動がファブリックタイプのものに較べて少なく,水中では活動しやすいともいえます.しかし,水中深く潜降して行くとスーツ生地自体が圧縮されるため,厚手のインナースーツを着用していないと保温効果は少なくなります.
 
 
ファブリックタイプドライスーツ
 ファブリックタイプ,別名メンブレイン(=膜)ドライスーツという名称は,断熱効果を全くといって良いほど持たない,薄い素材で作られているところからきているのです。暖かさを保つのは,スーツ本体ではなく,その下に着る保温用の下着なのです。ここでのスーツの役割はただ一つ,体を濡らさないということなのです。ファブリックタイプドライスーツは弾力性に乏しいので,ウエストの部分にはかなりゆったりした余裕が必要です。これには,ウエストを伸び縮みする素材で作り,この問題の解決をはかったスーツもあります.それでも一般的には,ファブリックタイプドライスーツは,かなりダブダブしたものということができます。このスーツも以上述べた以外の点では,フォームネオプレンのスーツと同じ仕様となっています。耐水性ファスナーは,たいてい肩の線に沿って走り,首と手首,それにたいていは足首にもラテックスラバーのシールが着いています。
 
 
ファブリックタイプスーツの素材
 スーツの素材は,耐水性のゴム引き布か,ゴム引きナイロンが普通です。バイキングという商品名で知られるゴム引き布でできたスーツには,継ぎ目を,熔接に劣らず効果的な硫化プレスで加工できるという利点があります。つまりバイキングというスーツは生地を張り合わせてできあがった形のスーツを、人間の住む部屋ほどの大きさの釜に入れ、熱を加えて一体成形の状態に作り上げる訳なのです。このおかげで,非常に丈夫で,完全耐水性のスーツが仕上がっているわけです。ゴム引き布に欠点があるとすれば,たいてい柔らかくて伸縮性のある布を使うので,スーツの素材にしては裂けやすいことです。ただしこの場合にも,専用の接着剤と修理パーツが付いていますから、パンク修理のように修理が容易です。
 
 ノーチラスと呼ばれる商品名で知られるドライスーツは、ナイロン,ポリエステルといった破裂に強い素材に,ネオプレン,ポリウレタンなどでコーティングした生地を使用しています。この組み合わせでできたスーツ素材は,丈夫であるうえに耐水性が高いものです。これらのドライスーツの継ぎ目は、接着剤で貼りつけたうえに縫い合わせ、そのうえからさらに耐水テープを貼り合わせて耐水性を高めているので,極めて丈夫で信頼性に富むものとなります。
 
 
ファブリックタイプドライスーツの利点
 ファブリックタイプドライスーツは,ダイビングというスポーツを大きく変える可能性を秘めています.というのも,このタイプのスーツは,冬場だけでなく春や秋,あるいは沖縄などの暖かい地域であっても,風が冷たい季節にはもってこいという利点があるからです.ドライスーツの保温性は,水中のみならず,ダイビング後の陸上の風や気温の冷たさからダイバーを保護するという面も大きなものです.この意味では,ファブリックタイプスーツは着脱が非常に簡単なので大きな利点を持つのです.ファブリックタイプスーツでは,フォームネオプレンドライスーツと異なって,素材自体が軽いので,脱ぎやすく肩もこりません.このため,水から上がってもすぐに着替えることができ,着替える場合にも体が濡れていなければ,寒い思いをすることがないからです.また,内側に保温性が十分な衣類を着用していれば,水気が切れればそれ自体でスキーウエアーのような快適さもあるものです.
 
 さらに,ウエットスーツはきっちりとした寸法で作られているので,太ったりスーツが縮んだりすると着用できなくなりますが,ファブリックタイプスーツはそれ自体ゆるやかな寸法ですから、少々太っても使用することができるのです.もちろん,持ち運びにもかさばらず,重量も軽いので利点は非常に大きなものです.水中での撮影やインストラクションを業務としている人々には,特に有効な面も大きなものです.しかし,この利点を生かすには,生地が丈夫で膝やお尻の部分が十分に補強されているものを選ぶことが必要です.
 
 
首や手首のシール
 ネオプレーンスーツは,ウェットスーツと同じカラフルなジャージ生地で作られており,継ぎ目は接合したうえで,縫い合わされています。そして手首などのシール部分のみに,膨脹した時の着心地の良さと加工のしやすさのためにフォームネオプレンゴムが使用されています。このシールは,両面とも滑らかなフォームネオプレン製であるため,シールの端は折り返して使うようになっています。つまり,シールの厚さが2倍になるので,より一層の水密性が約束される訳です。また,首のシールは内側に折って使用します。というのも,内側に折っていれば,空気をスーツに入れた場合に,体にぴったり密着して空気の漏れを防ぐことになるからなのです。
 
 ファブリックタイプのスーツでは,シールがラテックスラバーでできています。これは,シールとしての性能は非常に高いのですが,爪の伸びた指で引っ張ったり時計などの金属製品の角に引っ掛かったりすると,簡単に裂けたり穴があいたりしてしまいます。ラテックスラバーシールは恐らく,ファブリックタイプドライスーツの最大の泣き所といえるでしょう。
 
 ネオプレーンゴムのシールは,比較的体を圧迫する感じが少ないものですが,ラテックスラバーのシールは,防水性もよいかわりに圧迫感も強いものです.このため,圧迫があまりに強く感じる場合には,ラバーを切って自分用に調整することができるようになっています.もっともこのラバー生地は時間の経過とともに老化して柔らくなっていきますから初めは少々きつくてもがまんした方が無難です。最近のドライスーツでは、ネオプレーンタイプでも首のシール部分にはラテックスゴムを使用し、シール効果が高いものも出ています。
 
 
頚動脈洞反射
 頚動脈洞反射とは、ドライスーツなどの首の締め付けが強いときに起こる血圧の低下をいいます。これは、それにともなう色々なトラブルに関して覚えておかなければなりません。人の心拍数は交感神経と副交感神経という自律神経の働きでコントロールされ、緊張した時などには心拍数が速くなり、痛みの強いときなどは脈が遅くなったり血圧が下がるというようなことが起こります。ところで、人体の首の部分、総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈に分かれる部分の少し上、内頚動脈に位置する部分には頚動脈洞という器官があり、これが心拍数を調節するひとつの役割を担っています。この部分の血管には血圧の変動に敏感な感覚神経の端が集まっており、血圧が高くなったときには血管を広げたり、心拍数を少なくして反射的に正常な血圧に保つなど、血圧の変動があったときに血圧を正常に保つ働きをしているのです。
 
 ところで、ドライスーツなどで首を強く締め付けると、この器官がある血管が強く圧迫されることになります。これは、この器官が位置する部分の血管の血圧を高めるため、調整機能が働いて血圧が低下したり、脈拍が遅くなったりするのです。これは、人によってはかなり血圧が低下し、場合によっては気が遠くなったりすることもあるので注意が必要となるのです。
 
 
ブーツやフード
 ファブリックタイプのスーツには,ラテックスラバーのソックスが作り付けになっているものがあります。これだと,足首に窮屈な思いをすることなく,完全な耐水性が約束されます。ただしこのソックスは,丈夫さに欠けるので,ブーツなどのフットウエアを重ねて履くのが普通です。また別のタイプでは,丈夫な靴底のあるブーツが作り付けになっているものもあります。これなら,そのまま歩いたりフィンを使用したりできます。
 
 ナオプレーンタイプのスーツでは,ラジアルブーツが標準装備となってきました.これは脚部の膨張を極度に抑え,余分の空気移動を少なくするのに役立ちます.
 
 フードは,スーツのボディと一体になっているタイプもあり,プロの寒冷地ダイバーたちに愛用されています.これだと,フードのおかげで首からの水の侵入を心配する必要がなくなります。しかし,アマチュアのスポーツダイバーでは,フードが別になったものの方が一般的に用いられています.アマチュアダイバーが用いるネオプレーンタイプのドライスーツでは,振り返ったり体の動きを急激にすると首筋から水が入ることが多いものです.しかし,ピッタリしたフードを用いると,首のシールが二重となる効果もあって,少々の動きでは水が入りにくくなるものです.このため,ネオプレーンタイプのドライスーツでは,特にフードの使用が勧められます.フードには、動物の耳などのアクセサリーを付けるダイバーも増えています。
 
 
インナースーツ
 ファブリックタイプスーツでは,暖かさを保つために分厚いインナースーツ(下着)を着用しなければなりません.これには,柔らかい生地で圧縮されにくく,生地の目が詰まった分厚いものが最適です.最近では,ファッショナブルで活動的なインナースーツも,多種類出回っています.このインナースーツは,深い水中では圧縮されるので,厚みも薄くなり体に密着するようになります.この状態では,浮力や保温力も随分と減少してしまいます.しかし浮上してその状態から抜け出すと,薄くなった厚みも元の状態に戻り,浮力と保温力も回復してきます.インナースーツは,素肌に押しつけられても快適なように,柔らかい生地が内側に使用され,圧縮されにくく,さらに厚みが回復しやすいという素材が必要です.また、表面が防水加工されていると,水漏れ対策という点でも安心です。
 
 インナースーツにポピュラーな素材としては、ポリプロピレン、クロロファイバー、オーロンなどがあり、これらは非吸湿性素材と呼ばれ、繊維自体が全く水分を蓄積することなく、外部へ排出する特性を持っているのです。これは、汗をかいてもインナースーツと肌が接触する面はサラっとしており、暖かくて気持ちがよいという内容を保証するものとなります。
 
 ダイバーの中には、厚手のトレーナーやセーターなどを着込んでダイビングする人もいますが、これでは保温性は高いものとはなりません。日本ではビーチダイビングが主流なので、エントリーまでの間でけっこう汗をかき、これが水中で冷やされると寒い思いをさせる原因となる場合が多いものです。専用のインナースーツは保温性が高い上に、塗れてもかなり(80%というデーターもある)の保温力を持つものが多いものです。インナースーツを着用するのは、主にファブリックタイプのドライスーツとなりますが、適正なインナースーツを着用しないダイバーからは、ファブリックタイプスーツは保温性に欠けるという意見が聞けるものです。
 
 
 
その他の器材についての注意
 
スーツへの給排気
 スーツへの給気は,パワーインフレーターホースで,レギュレータのファーストステージに接続されているバルブを使います。このバルブは,たいていプッシュボタンタイプで,胸部の上か下に寄せて付けてあるものです。最近の給気バルブは,左右どちらからでも中圧ホースを接続できるように,接続部が360度回転する機構のものが一般的です.この機構はBCのパワインフレーターと同様のもので,定期的に手入れをしなければ塩がつまって機能不良を起こす恐れがあります.このため,使用後は水洗いを念入りに行い,再度ホースを接続して空気を通すことが勧められます.
 
 また,過剰な空気をスーツから逃がすための,排気バルブも必須なものです。これは胸部上方,左の上腕などに位置しています。排気バルブには,手で押すことで排気する手動タイプと,バルブを押さなくとも腕を上げるだけで排気できる自動タイプとがあります.さらに自動排気バルブの中には,排気できる圧力を設定できるものも出ています.
 
 
給気弁用の中圧ポート
 ドライスーツには給気弁が付いていますから,レギュレーターから中圧ホースをつないで空気を吹き入れるようになります.このためには,レギュレーターのファーストステージに,余分の中圧ポートが用意されていなくてはなりません.このための中圧ホースは,BC用のものよりはいくぶん長い物を必要とします.というのも,ダイバーの背中から体を回って,胸に近い位置にある給気弁に届かねばならないからです.
 
 また,レギュレーターの中圧ポートは,BC,予備のセカンドステージ,メインのセカンドステージなどを含んで,最低限4つは必要となります.ドライスーツ用の中圧ポートは,左右両方が開いていれば問題ありませんが,できれば下向きに付いた場所があいていることが理想でしょう.というのは,これであれば,左側,右側どちら側でもホースを接続することができるからです.最近のレギュレーターでは,高圧部の頂上に中圧ポートが付いたものが増えています.これなどは,ドライスーツの給気弁がどの位置を向いていても対応できるものでしょう.
 
 
ウエイトやウエイトベルト
 ドライスーツでは,フォームネオプレーン生地のものは,それ自体に大きな浮力があります.また,体とスーツ生地の間に含まれる空気や,インナースーツなどを着用した場合には,それにも大きな浮力が生じます.このため,ウエットスーツ着用の場合と比べると,ウエイトの数が増えるのが普通です.通常インナースーツ着用時では,ウエットスーツ着用の場合よりも,1.5倍位のウエイト増しとなるでしょう.このためには,2kg玉などの大きなウエイトや,ウエイトベルトなども少し長いものが必要となります.また,足首などにも浮力が付きやすくなるため,アンクルウエイトといって,足首に巻くウエイトなども用意されています.もっとも,体にフィットするオーダーメイドで,ウエットスーツ感覚で使用する向きには,ウエイト数はほとんど変わらないものです.
 
 ウエイトベルトは,ドライスーツの上下を境する機能を持っています.つまり,上半身の空気は下半身に移動しにくくなっているのです.これは逆にいうと,下半身,特に脚部にたまった空気は,抜けにくいということなのです.もちろん,脚部に空気がたまると,体は脚を上にして逆さまになろうとする傾向があります.これを防ぐために,体を頭を上にした位置に保とうとしても,ウエイトベルトがきっちりと体を二分していると,空気の容易な流通が阻害され,なかなか効果的に排気できる姿勢を取れないという場合が生じてくるのです.このため水中では,常に頭を上にした姿勢を心がけることが必要となります.
 
 ドライスーツ使用の場合に,厚いインナースーツなどを着用すると,ウエットスーツの場合よりもウエイトが多く必要となります.このため,ウエイトベルトはずいぶんと長いものが必要となることもあります.いつもと同じ長さのベルトでは,たくさんのウエイトを付けるため,長さが足りなくなってしまうわけなのです.
 
 
その他の器材
 スーツが既製で大きい場合や,体が小さくて首や手首のシール部分がゆるいと,水が侵入する可能性があります.このようなことを防ぐには,ネックバンドやリストバンドというものも開発されています.これらは,ネオプレーンゴムでできたバンドでゆるい部分に巻き付けることでシール効果を高めることができるのです.また,極端に冷たい環境でダイビングする場合に備えて,薄いステンレス製のコインを押すだけで54度もの熱が発生する,水中でも使用できるカイロなども開発されています.
 
 
 
ドライスーツダイビングの注意事項
 
ドライスーツの着脱
 最近のドライスーツは,旧来のものと比べると着脱がとても簡単です。ダイバーは,ファスナーを開けたところから体を入れれば良いのです。つまり,まず足をズボンの部分に入れ,次いで腕時計をはずすのを忘れないようにして,腕を慎重に袖に通すのです。最後に首のシールのところから押しこむようにして頭部を入れ,ファスナーを閉めればよいのです。スーツの着脱の際には,時計などを置き忘れがちです.これを防ぐには外した時計を置かないで,口にくわえるなどして忘れないようにすることが賢明です.
 
 ファスナーは,壊れたり下着や皮膚を挟まないように,同じ速さで,引き上げるようにして閉めることです。これは,バディに頼んで閉めてもらうのが一番良いでしょう。こうして水に入る前には,ファスナーが完全に閉まっているか確かめることも必要です。着用の際にスーツ内に入った余分の空気を排出するには,かがんで体をまるめ,ネックシールやリストシールを開けることでOKです.
 
 また,シールがきつすぎる時は,少し潤滑剤を付けると良いでしょう。シールのタイプにもよりますが,シリコンスプレー,石鹸などが適しているようです。ただし,スプレー式のエアゾル剤を使う場合には,継ぎ目の接着剤を弱めるような溶剤が含まれていないことを,確認しなければなりません。ダイバーによっては,ワセリンなどを顔や首筋,手首などに塗ってからスーツを着用するようにしている人もいます.また,ファスナーの潤滑には,粘性の少ないシリコンワックスを塗るのが一般的です。シリコンスプレーを吹き付けるのも,すべりをよくするには効果的ですが,粘性があると砂やゴミが付着し,ファスナーの機能を損なうことがあるので注意が必要です.
 
 ドライスーツのシール部は,ラテックスゴムでもネオプレーンゴムでも,着脱の際に破れやすいものです。これらの素材には,指の爪が致命的な凶器になってしまうのです。このため,スーツを着たり脱いだりする時には手袋をはめてから行うというダイバーも多いものです。
 
 ドライスーツの着用後,スクーバユニットを背負うには特別の注意が必要です.上腕にある排気弁はBCにひっかかりやすいでしょうし,背中のファスナーに強い力やよじれがかかるのも好ましくありません.このため,ドライスーツ着用後にスクーバユニットを背負うには,必ずバディの助けを得てゆっくりと無理なく背負うようにすべきです.
 
 
水密ファスナーの取り扱い
 ファスナーを開閉する前には、エレメント(務歯=ムシ)を点検し、砂泥などの付着物を清掃しなければなりません。もし何等かの付着物があったなら、水でよく洗い流してからファスナーを装着することです。ファスナーを閉めるときには、ゆっくりとスライダーについている紐を引っ張るようにします。この時には、紐が斜めの方向にならないように注意します。また、閉める途中でファスナーが重くなったり引っかかったりする時には、スライダーを止めて、少し戻してからゆっくりと動かすことです。
 
 ファスナーは、使用後は真水でよく洗い、すべりが重くなったときにはエレメントにワックスを塗り付けて手入れをすることが必要です。
 
 
潜降とスーツスクイズ
 ドライスーツで潜降していくと,スーツが圧迫されて浮力が減少するとともに,体が締め付けられるように感じ始めます。というのも,ドライスーツでは内部に多量の空気が入っているので,浮力の減少も大きくなるとともに,スクイズの発生も強烈なものがあるのです.このスクイズを防ぐには,最小限の空気を,慎重にスーツ内に入れてやれば良いのです。そしてこの最小限とは,スクイズによる不快感を取り除くのに,必要最小限の空気という意味なのです。
 
 水深が増した時に浮力の変化が一番大きいのは,フォームネオプレンドライスーツでしょう。それというのも,フォームネオプレン自体の気泡の体積が減ってしまうからなのです。ファブリックタイプドライスーツは,それ自体は水深が増しても浮力はほとんど変化しません。しかし,内部のインナースーツや下着の空気が圧縮されるので,全体としては浮力が減少してきます.また,スクイズによる締め付けを強烈に感じるのは,どちらかといえば,ファブリックタイプドライスーツといえるでしょう.というのも,生地が薄くて体に密着しやすく,色々な所にエアーポケットを作りやすくなるからなのです.このため,このタイプのスーツでは,生地が厚くて圧縮性の少ないインナースーツが不可欠となります.
 
 
ドライスーツ内部への給気
 ドライスーツの内部には,タンクの空気を吹き込むことができるようになってます.これは,潜降することによって内部の空気が収縮し,スクイズを起こす可能性があるからです.このスクイズを防ぐために,タンクの空気を,必要なだけ吹き入れることができるようになっているのです.このため,ドライスーツには胸に近い部分に給気弁が取り付けられています.このように給気弁を利用すると,潜降につれて内部の空気が収縮した分,新しい空気を補うことができます.これは,減少した浮力や保温力を回復させる役にも立ちます.
 
 ドライスーツに給気する場合には,立位か,あるいは上半身を上にした姿勢で行うことが必要です.さもなければ脚部に空気がたまり,浮力や姿勢がコントロールできない危険性が生じてきます.このような危険性を減じるため,スーツのタイプによっては膝から下を,膨らむ可能性が少ない材質で補強しているものがあります.スポーツダイバーの場合には,このようなスーツを選ぶのもよい方法かも知れません.
 
 
スーツ内には過剰に給気しない
 ドライスーツに空気を入れると,保温や浮力のロスを補正するのに役立ちますが,やたらに空気を吹き込むことは,かえって別の問題点を招きかねません.というのも,多過ぎる空気は保温にはたいして効果がないばかりではなく,過剰な浮力を招いて,吹き上げという急速な浮上(トラブル)につながるおそれがあるからです.つまり,大量の空気が足の方に移動して,過剰な空気を逃がすことができないうちに,急浮上してしまうというわけなのです。これは,実際にトラブルにつながった例が多く,最も注意しなければならない問題点なのです.スポーツダイバーの場合には,給気はスクイズを防ぐために行うのが最重点で,慣れないうちは,浮力調整も控えめに行うことが勧められます.
 
 
排気
 ドライスーツの排気は,左腕やその他の場所にある排気弁を使用して行います.しかしこの弁は排気容量が小さく,緊急時に大量に排気する場合には間に合わないこともあります.また,給気バルブが不調で空気が入りっぱなしになった場合など,給気量と排気量のバランスが悪いと,急速に入った空気量が排出できないという場合もあります.このようなことがあってはなりませんが,その場合には首や手首のシールを開けたりして,強制的に排気しなければなりません.ですから通常は,排気が必要にならないように,給気を少しずつ行うことがよい方法です.ネオプレーンタイプのドライスーツでは、腕を高い位置に上げ、手首を少しひねるようにすると自然に排気することも可能です。これは、何かを持っていたりして排気弁を操作することがやりにくい場合に有効な方法です。
 
 排気弁のボタンには色々な物がありますが、ボタンが飛び出していて押しやすいものは簡単に排気動作が取れます。しかし、ボタンが弁機構の内部にあり、捜して押すのに手間取るものは、慣れていないと排気動作が遅れるので注意が必要です。
 
 また緊急時には,給気用の中圧ホースを外さなければならない場合があるかもしれません.つまり,給気が入りっぱなしになって,止まらないというような場合です.このような場合には,直ちに給気ホースを,カプラーから外してしまわなければなりません.このような時に備えて,給気ホースのカプラーの取り外しについては,十分に慣れておくことが必要です.また,厚いグローブをした状態でも,カプラーの取り外しができるように練習しておくことが必要でしょう.
 
 
浮上時の浮力コントロール
 ドライスーツ使用時にはBCは必要ないというのは,過激な意見とも考えられますが,BCとドライスーツの両方を水中で使い分けるのはかえって難しいものです.BCによる浮力調整に慣れたダイバーなら,同様の手順でドライスーツの給排気弁の操作が簡単にできるものです.BCの使用は水面での浮力確保に不可欠なものですが,水中ではドライスーツにその座を譲る結果となることでしょう.
 
 ドライスーツ使用時には,中性浮力を取るのはBCをコントロールすることよりも,ドライスーツ自体に空気を吹き込むことで行うのが便利です.寒さやスクイズを防ぐために,ドライスーツに空気を吹き入れると,それだけでも十分に浮力を補うことになりますし,同一の弁の操作で全ての問題点が解決できるのは効果的な方法として勧められます.
 
 しかし,ドライスーツに吹き込まれた空気量が多ければ多いほど,浮上に際しては特別の注意が必要となります.このためBCの排気と同様に,ドライスーツについても過剰な浮力を逃がすように注意しなければなりません.勧められる方法は,浮上時は右手をドライスーツの排気弁にかけて,定期的に排気しながら浮上することです.この時には,水深が10mよりも浅くなる時点から,頻繁に排気するように注意して下さい.特に水面まで垂直に浮上する場合には,排気弁を連続して押しっぱなしで浮上する方法が勧められます.
 
 
ラインにつかまるか海底の傾斜にそって浮上する
 ドライスーツを使用したダイビングは,寒い地域や季節に行なわれるわけですから,ダイバーはそれほど広い範囲を活発に移動するとも考えられません.というのも,ドライスーツはどうしてもかさばるので,軽快性に乏しく,活動が激しいと内部に汗をかいて不快なことさえあるからです.このようなことを考え合わせると,ドライスーツでの活動は,潜降した地点からあまり離れずに行い,浮上は,ラインに伝わってゆっくりと行なうか,海底の傾斜に沿ってゆっくりと行なうことがのぞましいものだといえるでしょう.こうすれば,複雑な浮上手順の危険性を,最小限のものにすることができるでしょう.
 
 
ドライスーツでの緊急浮上
 水中でバディの空気がなくなり,オクトパスを用いて緊急浮上をしなければならなかったり,緊急スイミングアセントを行う必要が生じることがあるかも知れません.このような場合には,特別の困難が伴います.いずれも,BCコントロールと同様かそれ以上に,ドライスーツ内部の空気の膨張をコントロールしなければならないのです.オクトパスアセントでは,向かい合って相互にバディの右側のストラップを左手でつかみ,右手で頻繁に排気弁を操作しながら浮上することが必要となります.この場合には、自分の排気弁をコントロールすることと同時に、相手の排気弁をもコントロールしやすいことに気づくことでしょう。
 
 また緊急スイミングアセントでは,ウエットスーツの場合よりも浮き気味になることが多いでしょう。このため、排気動作に注意を払わなければならないのはいうまでもないことですが,キックして浮上するというよりも浮上速度を遅らせるため,両手両足を大きく広げたり,フレアリングの姿勢をとることが必要となるでしょう.
 
 ウエイトベルトを捨てるポジティブボイアントアセントは,浮上に伴う空気膨張が異常な浮力を招く結果となるので勧められる方法ではありません.この方法では,水面まで到達したとしてもその後で膨張し過ぎた空気の影響で,窒息やその他の問題を生じる可能性もあります.また,バディブリージングアセントでは,バディの体を片手でつかみながらもう一方の手でセカンドステージをコントロールすると,排気弁の操作ができなくなってしまいます.バディブリージングアセントでは、セカンドステージをくわえていない方のダイバーは、急激な浮力の増加に伴う急浮上の危険性に加えて、セカンドステージを加えていない状態で息を吐き続けるというリスクを負うことになるのです。このため、これは決して勧められる方法とはいえないのです。
 
 水温がかなり低い状態(摂氏4度以下)でひとつのファーストステージからふたつ以上のセカンドステージで呼吸が行われると,ファーストステージの凍結によるフリーフローなどという問題も生じることでしょう.暖かい海でのダイビングとはことなり,低水温域では浮力コントロールの難しさに加えてこのようなことに気を配らなければならないのです.このような状況では,オクトパス装備よりもポニーボトルなどの予備タンクを用意した方が緊急浮上には適切な対処が取れるのです.
 
 
水中活動での注意事項
 今まで繰り返して,吹き上げの危険性については述べてきました.一旦脚部に入り過ぎた空気は,体のコントロールを失わせ,ダイバーを急速に水面まで浮上させてしまう危険性を含んでいます.このような危険性を最小限のものにするため,ドライスーツ使用のダイバーは,水中で決して逆立ちの姿勢を取らないことです.
 
 このためには,水中の移動は水平姿勢で行い,潜降する場合には必ずフィートファーストで行うべきなのです.ちょっとした水深の変更(深い所への移動)も,膝からゆっくりと降りるように配慮してください.また,万一逆立ちの姿勢になってしまった場合に備えて,体を反転させて元の姿勢に戻る練習を繰り返して行っておくことが必要です.
水中で空気のかたよりを感じたら,ドルフィンキックを打って体全体を波うたせ,空気を全身にバランスよく再配分することも有効です.
 
 さらに,ドライスーツを購入する時にも,脚部に空気がたまりにくいものを選ぶことが有効でしょう.脚部,特にブーツ部に急速に空気がたまり,足が空を切ってフィンがコントロールできなくなると,体を反転させることも極めて難しいものとなります.このため,ブーツには,膨張しにくい素材が使用されていなくてはなりません.
 
 
ドライスーツ内部の空気の膨張
 基礎のダイバーコースでは,浮上の際に肺の内部と、水中で吹き込まれたBC内部の空気の膨張について注意しなければならないと学んだ筈です.というのもこれらの空気は、水中では圧縮されて、圧力の高いものがレギュレ−タ−から送りこまれており,浮上につれて周囲の圧力が弱まると,体積が膨張していくからなのです。これは,急激な浮力の増加を招き,急浮上や肺の損傷という事故の原因ともなる要素でした.
 
 ドライスーツ使用のダイビングでは,一層この影響に注意を払わなければなりません.というのも,体全体を覆うドライスーツ内部に吹き入れられる空気量は,BCを膨らませるのに必要な空気量よりも多い場合が普通だからなのです.また,ネオプレーン生地でできたドライスーツの場合には,内部の空気膨張に加えて,水中で圧縮されていたネオプレーンス−ツ素材の気泡も、浮上につれて元の大きさに戻ろうとするのでやっかいです。
 
 
水深10m以浅では頻繁に排気動作を行う
 BCを使用するダイバーが通常行っているように,ドライスーツ使用のダイバーも,浮上途中で空気を排出することで,急浮上の危険性を回避しなければなりません.このため,浮上中には頻繁に排気バルブを操作して,余分の空気を抜いてやらなければならないのです.この中で注意しなければならない点が,気体の膨張率の変化です。下記の表(水深30mで 6gに圧縮されていた気体の、浮上にともなう変化)を見て,空気膨張の急激な変化について考えてみて下さい。
 
  水深   圧力   体積  増加量
  (m) (気圧)  (g) (g)
 
    0    1     24   12
   10    2     12    4
   20    3      8    2
   30    4      6    /
 
 この表からわかるように、水深10mから水面までの間には、驚くほど急激な体積の増加があります。つまり、浮上する気体の体積は、水面に近づくほど大きな変化をするのです。これは,ドライスーツでの浮上に際しては特に重要です.通常のBCコントロールに慣れたダイバーであっても,ドライスーツ使用時には,うっかりすると急浮上になりかねません.
 
 ダイバーの姿勢やドライスーツのタイプによっては,ドライスーツ内部の空気が色々な場所に溜り,簡単には排出できない場合があります.さらに,ドライスーツ内部の空気を排出する排気弁は,一度に大容量の空気を排出できるとはかぎりません.このため排気動作が遅れたダイバーの場合には,膨張し過ぎた空気が排気弁に集中しても,簡単には排気できず,急浮上を抑えることが難しい場合もあるのです.
 
 つまりドライスーツ使用時には,“空気量のコントロールが遅れてはならない”のです.このためには,浮上時にはBCの空気量を完全に排気した上で,“こまめに”ドライスーツ内部の空気を抜きながらゆっくりと浮上しなければなりません.そしてさらに,水深が10mから浅い所になると,特に頻繁に排気動作を行うことが要求されるのです.このため、慣れないうちや垂直に浮上する場合には,排気弁を押しっぱなしで浮上することがよい方法でしょう.
 
 
自動排気弁
 最近は、自動排気の弁が多く使用されるようになってきました。これは、弁についているダイヤルを回すと、内部のバネ圧が調整可能となっており、この設定によって、スーツ内部の空気圧が高くなると自動的に空気が漏れるような機構になっているのです。これは、浮上の場合には有効な機構です。浮上時には、自動排気弁は自動的にある程度の空気量を排出してくれるため、スーツ内の空気が膨張しすぎるということは少なくなります。この弁は、自動的に浮力調整をしてくれるというよりも、膨張し過ぎた空気を自動的に排出することができるという意味で、安全性に有効な機構といえるのです。もっとも、逆に水面である程度の浮力を確保するためにスーツ内に給気する場合には、自動排気弁のダイヤルを回してマニアル操作にし、空気が漏れ出ないようにしなければなりません。
 
 ダイバーによっては、水中でBCDをコントロールし、ドライスーツの空気量もコントロールし、さらにカメラやその他の器材をも持って浮上しなければならない場合があります。テーマを持った冬場のダイビングなどでは、これが普通のことでしょう。この場合には、自動排気弁がとても有効なことでしょう。左手を高く掲げながらBCDの排気をコントロールすれば、完全とはいえないまでも浮力が大きくなりすぎるということは少なくなるのです。またメーカーによっては、自動排気弁が立体構造になっており、左手を上げると同時に側頭部に押しつけることで空気が抜けやすくなっているものがあります。これなどは、水中でなんらかの作業を伴うダイバーには、最適の構造の排気弁であるということができるでしょう。いずれにしても、自動排気弁は、将来的には標準装備ともなる機構でしょう。
 
 
水面での過剰な給気の危険性
 水中水面を問わず,空気を入れ過ぎることはよい結果を招きません.水中では吹き上げという急浮上のおそれがありますし,水面でも膨らみ過ぎたドライスーツは,体のコントロールを妨げる結果になります.つまり水面では,水面上に出た部分に空気が集中してしまうからなのです.というのも,水面下は水圧で押されるので,ドライスーツ内部の空気は水面上に逃げようとし,首や胸,肩や腕などに集中してしまうのです.こうなると,腕の自由もきかなくなりますし,首の部分などは異常に圧迫されて,窒息や,頭部への血液循環が阻害される可能性さえあります.また腕の自由がきかなくなると,排気しようとしても排気弁や首のシールにさえ手が届かなくなります.ですから水面でも,不用意に空気を入れ過ぎることは厳禁なのです.
 
 
内部への水の侵入
 ドライスーツといっても,内部に小量の水が入ってくる可能性はあるものです.給気弁によっては,作動させればその度に小量の水が入ってくるものもあります.また,排気弁でもそのようなことが生じるものもあります.さらにネオプレーンタイプのドライスーツでは,急激な動作をすると首筋から水が入ってくることが多いものです.これらは,寒さを感じる程にはならないのが普通です.しかし,内部が水浸しになるほど入ってくるのなら,メーカーなどに問い合わせてみることが必要でしょう.また防水ファスナーなどは,最後まできっちりと締めないとその役割を果たしませんから,注意が必要です.
 
 小量の水といっても,やはり入ってくると冷たく感じるものです.このため,インナースーツの上から防水の上着を着てドライスーツを着用したり,あるいはネオプレーン生地のウエットスーツ様のものを、インナースーツとして着用する場合もあります.プロのダイバーたちは,スポーツタオルなど吸水性のよい材質のものを,弁の下に当たる部分に入れておいたり,首筋に巻いたりしているようです.また,専用のインナースーツはよく工夫されており,表面が水をはじいてくれたり,塗れても保温性が大きく損なわれない作用を持ったものが多いようです.
 
 ドライスーツの防水には,手首,足首,あるいは首筋に,ネオプレーンや特殊な柔らかいゴム地を利用しているものが多いものです.この場合には,これをきっちりと止めたり,内側に折り返して防水機能を完全にしなければなりません.手首のシールは腕の奥に近くなるように,また首のシールも首の付け根に近いように注意して行うことが必要です.さもなければ,手首を曲げた時などに細い筋が立ち,水の侵入を許してしまうことになるからです.また首筋でも,髪の生え際や,喉仏の所にシールが来ると水が入ってくる可能性があります.水中での動作を原因とした水漏れを防ぐためには,水中での活動はゆっくりと行い,首や手首部分に無理な動きがないように工夫することです.特に首筋は振り返った時などに水が入ってきやすいので注意が必要です.
 
 
ドライスーツの付属品
 ドライスーツにはアンクルウエイトやネックシール,リストシールなどといった付属品が用意されています.アンクルウエイトは足首に付ける小さなバラストウエイトの袋で,足が少しでも浮き気味になるのを防いでくれる効果があるという人もいます.また,各所のシールはフォームネオプレーンの生地でできており,補助的に着用することで,各部所からの水漏れを防ぐ効果を持っています.既製のドライスーツや手首,首筋のシールがゆるめで水漏れの可能性がある場合には特に有効です.
 
 また,特に寒い場所や季節にダイビングする場合には,フードやグローブも必要です.フードは最低でも3mmの厚みがあり,できるだけ顔の露出部分が少なくなるものを選ぶことです.またグローブは薄いものではなく,ネオプレーン生地でできた保温性の高いものを選ばなければなりません.無理して手の寒さを我慢してダイビングすると,手がかじかんで細かい動作ができず,ボートに上がるときにウエイトを落としてしまったり,カプラーの取り外し動作がうまくできないといったことも起こり得ます.小さな保温対策でも,安全や快適さにつながるものはできるだけ取り入れるべきなのです.これは価格の面でも,それほど大きな出費とはならないのが普通です.
 
 
買い換える必要性がある付属品
 ドライスーツには,作り付けのブーツがあるものが一般的です.このため,ウエットスーツ使用時に慣れていたフィンでは,フットポケットが小さくて入らない場合があります.このため,ドライスーツ購入時にはフィンも新しいものと交換することが必要な場合が多いものです.新しく購入するフィンは大きめで,フィンストラップが長く,ゆっくりした動作で大きな推進力が得られるものが理想的です.さらには水中での比重が大きく,沈むタイプのものが理想的です.
 
 
ドライスーツの手入れ
 ダイビングを終えた後は,真水で十分に洗い,陰干ししてください.また,乾燥後はファスナーにワックスを塗り,バルブにはシリコンスプレーをかけておくと,腐食をおさえ,消耗が防げます.もっとも,排気バルブによっては,排気弁の材質がシリコンゴムになっており,シリコンスプレーの使用を嫌う場合があるので注意が必要です.ドライスーツは,着たままでシャワーを浴びたりすれば,外側の塩分をきれいにすることが簡単にできます.こうしてから,細部をていねいに手入れすればよいのです.もっとも,内部に水が入った場合や,定期的には丸洗いすることも必要でしょう.
 
 フォームネオプレンのドライスーツについては,ウェットスーツと同様の手入れが必要となります。さらに,シール部分の損傷に注意を払い,摩耗の兆候が見えたらすぐにも修理することが必要です。また,給排気のバルブに異物が挟まっていないこと,正常に機能することを確認することも大切です。
 
 ファブリックタイプのドライスーツにはたいていラテックスラバーのシールが付いています。これは非常に薄くて弾性に富むものですが,裂けたり破裂したりしやすいのが欠点です。強い太陽光線はゴムの化学劣化の原因となるので,シール部に長時間強い太陽光線が当たらないように,十分注意しなければなりません。また,ダイビングの合間には,スーツはきれいに洗って完全に乾かしておくことが必要となります.シール部に少量のパウダーをふっておけば長持ちするし,着る時も楽でしょう。
 
 どの種類のドライスーツでも,耐水性のファスナーは特に大切な箇所ということができるでしょう。この部分は,滑らかに動くように異物を取り去り,定期的にワックスを塗ることが必要です。また生地の継ぎ目は漏れなく調べ,弱っている部分があったらすぐに修理するよう心がけなければなりません。ダイビングする時になって,継ぎ目やシールが漏るなどということに気づいても手遅れなのです。スーツを使わない時には,ウェットスーツ同様,ハンガーにかけてしまっておくのが便利です。
 
 ファスナーは、一定の場所に同じ力が加わるとエレメントと呼ばれる爪が脱落しやすくなります。このため、ドライスーツの使用後は、エレメントをよく手入れしてから、ファスナーを締めて保管する方が賢明といえます。ファスナーを開けて保管すると、エレメントとスライダーがこすれて故障の原因となることが多いのです。しかし、エレメントの手入れが悪いと、ファスナーが錆び付いてしまうことがあるので注意しなければなりません。
 
 
給排気バルブのメンテナンス
 BCのパワーインフレーターと同様,ドライスーツの給排気バルブにも定期的な手入れが必要です.給気バルブは,塩づまりで作動不良となる恐れがありますし,排気バルブの作動不良では水漏れが心配されます.このため,バルブ部分の水洗いを念入りに行うのは普段から必要な手入れですし,定期的にメーカーやディーラーに出して,オーバーホールを行うことが勧められます.また,このようなメンテナンスがしっかりとしたメーカーのものを選ぶことが必要でもあります.また、ある種のドライスーツでは、バルブが中圧ホース部分に付いているため、使用後の水洗いがレギュレーターと一緒にでき、メンテナンスが楽なものもあります。これ以外のドライスーツでは、スーツ本体を水洗いするときに、バルブにも水を通して塩抜きを十分に行うことが必要となります。
 
 
ドライスーツの応急修理
 ファブリックタイプのドライスーツでは,長く使用していると,岩角にこすりつけたりしてかぎ裂きをつくることがあります.またネオプレーン生地のスーツの場合にも,古くなって来ると生地が薄くなり,破れ目を生じることもあります.このような時のためには,修理キットを備えておくのが賢明です.修理キットは,接着剤と予備の生地でできており,説明書に従って応急修理を行えば,ファブリックタイプのスーツの浸水は簡単に防げるものです.もっとも,ラテックスゴムの修理は別で,この場合にはメーカーに修理依頼をしなければならないでしょう.さらにネオプレーン生地のドライスーツの場合にも,ピンホールや小さな破れ目などでは、生地を張り合わせるだけの応急修理はできますが,完全に修理を行うにはメーカーに出す必要があります.最近ではアクアシールなどという商品名で、ピンホールの補修や防水処理のための充填剤がでています。これを使用すると、ネオプレーンタイプ、ファブリックタイプを問わず、簡単な補修ができるようになります。
 
 
ドライスーツの選び方
 
ダブダブのスーツは好ましくない
 ドライスーツはダブダブでも当り前というのは,好ましくない考えだということを理解しておいて下さい.これは,ドライスーツがまだ一般的でなかった時代のものなのです.そのような時代では,その使い勝手の悪さを,プロのダイバーが技術や工夫でカバーしていたからこそ,大きな問題にならなかっただけのことなのです.また,あまり普及していなかったために,使用者の個々のニーズに合うようなサイズのものを,提供できないという事情でもあったのです.しかし現状では,かなりのメーカーが競ってドライスーツを提供しています.このため既成のものでも,かなりたくさんのサイズが準備されるようになってきました.冬場の快適なダイビングに備えてドライスーツを選ぶときには,サイズ表を十分に研究し,自分の体型にできるだけフィットしたものを選ぶことが必要です.また、ファブリイクタイプスーツは、インナースーツ使用時にちょうど良いサイズとなるように大きさができがっていますから、適正なインナースーツを使用しない場合には大きすぎるように感じることがあります。
 
 
体に合ったサイズのものを使用すること
 ドライスーツは内部にインナースーツを着用し,また空気を吹き入れる必要もあるために,ウエットスーツほどには体にピッタリしないのが普通です.しかし,ダブダブでいいというのではないのです.どのようなウエアーでも,オーダーが一番よいのはいうまでもありません.ドライスーツでも,オーダーで自分の体に合ったものが使用できるのなら,それが理想的なことなのです.
 
 
ドライスーツを購入してトレーニングを受ける
 ドライスーツは高価なものでもあり,購入する場合には慎重に選ぶことが必要です.また,レンタルのドライスーツを利用する場合でも,あまりに大きなものだと,たるんだ部分に余分な空気が移動しやすくなります.水中でのちょっとした姿勢の変化で,内部の空気があちこちに移動すると,浮力のバランスがとてもとりにくいものです.さらに,ちょっとした姿勢の変化で脚部に空気が集中してしまうと,危険な吹き上げを生じる可能性もあります.ですからドライスーツは,できるだけ自分の体型に合ったものを購入して,このコースでのトレーニングに備えるべきなのです.あるいは既成のレンタルを使用する場合でも,自分の体にできる限り合ったサイズのものを使用しなければなりません.普通の人よりも体が大きい人や,逆に小さい人は,自分のドライスーツを購入することで,安全で快適なトレーニングを受けることができるのです.
 
 
他のダイビング器材と適合したものを選ぶ
 ドライスーツを着てダイビングする時は,給気弁と排気弁の位置について,十分に考慮しなければなりません。例えば,BCがドライスーツの給気弁の上にかぶさっていると,ドライスーツの操作がしにくくなることもあるからなのです。ドライスーツの選択でも,他のダイビング器材との適合性を考えなければなりません。器材を選ぶ時には,すべての器材が互いに邪魔しあうことなく,充分に機能できるようにしなければならないのです。
 
 
 
まとめ
 ダイビングに対する興味が増してくるにつれて,色々な器材についての興味も増してくるものです.夏の暑いさなかに海に出かけるのも楽しいものですが,冬の海はまた別の表情を持っています.自分に合ったドライスーツを上手に使用すると,冬場でも,快適なダイビングライフを満喫できます.しかし本当をいえば,冬場こそ,誰もこない自分だけのダイビングができるチャンスかもしれないのです.