よもやまなえっせい 番外編
'06.03.06 更新
Soul Kiss
「やぁ〜まなぁ〜みさぁ〜んっ!」
沖田総司が山南敬助の姿を見つけ、まるで子犬のようにはしゃぎながら側へ駆け寄ってきた。
「沖田くん、どうしました?」
「あのね、この間あっちの部屋でとっても面白いもの見つけちゃったんですよぉ〜。平助とも話したんだけど何だかさっぱりわかんなくって・・・。山南さんなら分かるんじゃないかって思ったんだけど・・・。一緒に見に行ってもらえません?」
屈託の無い笑顔で袖を引っ張りながら沖田が誘った。
その姿をほほえましく思いながらも、山南は、腕を組み、少し眉をひそめてこういった。
「沖田くん・・・。あまり間借りしているお宅の中を隅々まで探って回るのは如何のものだろうか」
そうですかぁ〜?と少し頬を膨らませている沖田の姿に苦笑しながら、
「それに・・・、私はこれから人と逢う約束をしているので、どっちみち無理です」
申し訳ありませんね、そういって軽く頭を下げた。
「えっ? ・・・山南さん、誰と逢うの? ねぇ、誰? 誰?」
いつにもなくしつこく問いかける沖田に一瞬戸惑いながらも、少し間を空け、いつもの微笑を見せながらこういった。
「・・・沖田くんの・・・知らない人ですよ」
その声は少し弾んでいるように聞こえた。
それじゃ、と会釈をして山南が立ち去ろうとした時、あれえ〜っ?と沖田が素っ頓狂な声を出した。
「な、何ですか?」
「山南さん・・・、そこ・・・どうしたんですか?」
沖田は首の付け根の辺りを指差しながら問いかけた。
「ここに?・・・何かありますか?」
首筋を触りながら怪訝そうに訊ねる山南に、沖田は無邪気に微笑みながらこう言った。
「や、だって、そこ・・・、痣になってますよ」
沖田が言い終えるとほぼ同時に山南を見ると、首の付け根を押さえたまま真っ赤になって俯いてた。山南のそんな姿を不審に思いながらも、
「何か悪い虫にでも咬まれたんじゃないですかぁ?」と更に無邪気に笑った。
「あ・・・、そ、そうかもしれませんね。気をつけなければ。あは、あはははは・・・」
乾いた笑いと共に山南は急いでその場から立ち去った。
「あーっはっはっはっはっはっーーー! はぁ〜〜〜可笑し〜〜〜! やっぱ、子供だなぁ、アイツ! よりにもよってムシかよぉ〜! 気付くだろ〜普通〜!」
いつしか2人の「密会の場」となった前川邸の一室に、腹を押さえて涙も流しながら大笑いしている土方歳三の声が響く。そんな土方に首筋を押さえながら、山南は冷ややかな視線を向けた。
「笑い事じゃありませんよ! ・・・あれが沖田くんだったからよかったものの、他の人だったら完璧に邪推されますよ。それに・・・。『悪い虫に咬まれた』っていうのもあながち間違いじゃないですしね」
沖田に指摘された瞬間、私がどんな思いをしたと思ってるんだ? 嫌味の一つでも言ってやらないと気が済まなかった。
その言葉に少しむっとしたのか土方は、
「いいじゃねぇか、邪推されたってよぉ。生娘じゃあるまいし。『女にやられた』とでもいっときゃあいいんだよ」
そういいながらゴロンと床に横になった。
「・・・そんな言い訳、私が言っても通用するわけないじゃないですか。きみじゃあるまいし・・・」
痛いところを絶妙につく山南の切り返しに、土方は、はいはい、そーでございますねぇ〜、と若干ふてくされた様に呟いた。
「それより・・・、あの話は本当ですか?」
つい先だって、監察方の山崎が「尊攘派の浪士たち数名が結託して近々何かをするらしい」という情報を掴んできた。ただ、今だ「何をする」のか、その目的が皆目見当つかなかった。
「山南センセーのお知恵を持ってしても分からないことあるんだな」
さっきのお返しとばかりに土方が毒つく。山南は冷静に「当たり前じゃないですか」と返した。
「どうやら長州の奴らも一枚絡んでるってウワサだ。全くロクな事考えねぇヤツラだな、あいつらも。もうじき山崎が戻ってくるからそれではっきりすると思うんだが・・・。まぁ、その話はいいじゃねぇか」
そういいながら山南を後ろから抱き寄せようとした。
「よくはないですよッ! 何するんですかッ! まったくもぅ・・・」
山南は肩で土方の手を払った。口では強く拒みながらも、頬の辺りにはほんのりと赤みがさしていた。そんな山南の姿にほくそ笑みながら、耳元で意地悪っぽく土方が尋ねる。
「へぇ〜。それじゃあ伺いますけど、ここへは何のためにいらっしゃったんでしょうかねぇ? 山南センセ?」
「それは・・・、君が・・・話があると・・・いったから・・・」
節目がちにそう言い終える頃には、山南の体は床へと押し倒されていた。
「・・・それだけ?」
土方が優しく口づける。山南の白い首筋に、胸元に、そして・・・。
「・・・あっ」
行為が終わった後、山南が焦ったように叫んだ。
「何?」
「土方くん・・・、ここ」
山南の指した胸のど真ん中に首の付け根と同じ形の痣が出来ていた。色が白いので首筋以上に目立った。
「あ、・・・わりぃ」
着物に袖を通しながら土方は詫びた。しかし、その口調に全く悪びれた様子はなかった。
「『わりぃ』じゃないですよ・・・あれほど言ったのに・・・。増やしてどうするんです? ・・・これでは服が脱げないではないですか・・・」
土方の態度にほとほと閉口しながら、山南は独り言のようにぶつぶつ呟いた。すると、
「・・・俺以外のヤツの前でも脱ぐわけ?」
少し拗ねた口調で土方が問いかけた。
・・・もしかしたら『やきもち』でもやいてくれるんだろうか? 山南は胸の奥を誰かにぎゅっと掴まれたような、心地よい痛みを感じた。
「・・・風呂ですよ」
わざと呆れ返ったようにそう呟くと、少し笑った。