「フィラデルフィア・ダイアリー1993 No10」

 山口啓介は、何枚もの銅板をタテヨコに合わせた大型の銅版画で一躍
世に知られました。なかには100号を超す大型作品もあります。
これは銅板四枚を田の字型に合わせて制作されています。この作品
からも感じ取れますが、そのマチエール(絵の質感)は油彩画にひけを
とりません。銅版画でも、油彩画に負けない表現ができることを版画家は
証明しました。
 版画家は1992年から93年にかけて文化庁海外派遣研修員として
アメリカ・フィラデルフィアのペンシルベニア大学に留学しました。
100キロ余り西には1979年に大事故を起こしたスリーマイル島
原子力発電所があります。この作品は原子力発電設備から得たイメージに
基づいています。彼はこの連作を発表した個展『コールダーシップ・
プロジェクトのために』のカタログで「アートとは、人間と社会の
コミュニケーションの方法である」と書いています。