内田公雄は、K美術館の北隣の駿東郡長泉町に生まれ、現在は沼津市に
アトリエを構えています。
油彩のマチエール(絵の質感)の持つ優れた再現能力と、強固な物質性に
あらがいがたい魅力を感じている画家は、具象画だけではなく、マチエールに
徹底的にこだわった抽象画も数多く制作しています。この作品では、えんじの
色面が大部分を占め、向かって左に糸のように細い線が一本引かれ、右端には
塗り残しのような黒の狭い面が見えます。
えんじの色面は、一見強固な壁のようですが、視線をずらすと、えんじ色に
染まった虚空のようにも見えます。左の細線と右の黒い細面の震える境界線が、
視線を相乗的に揺さぶり、錯覚を誘い出しています。極めて禁欲的な手法に
よって、視覚の不確定性という現代的なテーマが見事に表現されています。