見出された、かたち

                        K美術館館長  越沼正

    樹幹から椅子を彫り出す彫刻家は普通、完成された椅子を想定し、それの
   忠実な再現を目指して幹を削り、彫り進める。やがて樹幹から一個の、期待
   どおりの椅子=木彫作品が姿を現す。
      白砂勝敏氏は違う。完成形は、氏の頭の中にはない。氏は切り株となっ
   てころがっていた樹幹から、樹の生命活動の痕跡を手探る。耳を寄せ、目を
   こらし、掌でじっと触れ、樹の息づかいと成長の勢い(の痕跡)に感応する。
   彫るべき深さを、遺すべき厚みを、樹は無言で伝える。氏は虚心に応じる。
   大胆に彫り、繊細にためらい、そして無心に彫ってゆく。

    そうして完成した木彫椅子は、元の樹幹が有していた成長の特徴を、生命
   の勢いを、自ずから体現している。

    その表情豊かな湾曲面に触れた人は、思いがけないやわらかなぬくもりに、
   自然とくつろぐ。

    木彫造形のための素材という地位に甘んじていた樹幹から、白砂勝敏氏は、
   一木一木が固有にもっていた個性を、十全に惹き出している。

                       (2012年3月31日 記)