「一枝濃艶」

 京都画壇を代表する竹内栖鳳が、棲鳳(せいほう)と名乗っていた若き日に
版下(版画の下絵)を描いた木版画です。
 二片の花びらが散りかけています。つまり盛りを過ぎた大輪の牡丹と、
これから花開く蕾が対照的に描かれています。花の濃色(こきいろ)=
濃い紫色=に対比されて、葉に留まった薄羽かげろうが、まさしくはかなげに
淡く描かれています。美しい時はそう永くはつづかないという、命あるものへの
無常観が、大胆な構図の絵にさりげなく描き込まれています。そして蕪村の名句
「牡丹散て打ちかさなりぬ二三片」へのつながりを感じさせます。
 第一回文化勲章授章を記念して制作された晩年の木版画には、採りたての蕪
にネズミがかじりついている作品などがあります。若年から晩年までを貫く無常
への関心の高さがうかがえます。