「記憶の断辺」

 1997年の多摩美術大学大学院生卒業制作展で唯一注目した 作品が、
佐竹邦子さんの大型リトグラフ作品でした。制作への強い意思と意気込みが、
かみ合ったエネルギッシュなパワーが、画面全体にみなぎり、溢れていました。
それがうっとおしい印象はまるでなく、一種爽快な印象を見る者に与えていました。
 ここに紹介した作品は、彼女の初個展で購入した小品です。
ここでは、彼女の特徴である溢れるパワーは沈潜しています。前へ前へと
突き進む意欲が、ふっと気を抜いて無心の空白域でできてしまった、
後姿を垣間見せる作品です。後姿には、その人の無意識の魅力が滲みます。
 題名の誤字(断辺は、断片が正字)を蹴飛ばすパワフルな作風は
発表ごとにひとつの描線で多くを表現できるように引き締まってゆき、
2000年4月には日本版画協会賞、毎日現代日本美術展富山県立近代美術館賞を
立て続けに受賞し、以後、多くの画廊や海外で企画展が催されています。
 2006年4月からは多摩美術大学の講師を勤めています。
 館長の注目するごく少数の若手作家のひとりです。