この絵から18世紀後半の奇想画家伊藤若冲(じゃくちゅう)の絵「付喪神図」
(つくもがみず)を連想した方がいます。付喪神とは、室町時代の説話にある、
使い古した雑器が妖怪に変化したものです。若沖の縦長の絵では、茶碗・茶釜や
鼓・琵琶等の、目玉のくりっとした妖怪たちが、深夜とぼけた表情で賑やかに
やって来ます。現代のこの絵では、海中生物のような奇妙なのっぺらぼうたちが、
夜の底をぷかりぷかりとのんきに歩んでいます。どちらの絵にも、微笑を誘う
ユーモラスな雰囲気が漂っています。二百年の隔たりを一気に越えて、ふたつの
作品を勝手に引き合わせて楽しんでしまうことも、美術鑑賞の醍醐味のひとつです。