「コップに挿した枯れた野花」

 1951年、ルーブル美術館に買い上げられた銅版画原版によって刷られた
銅版画です。
 長谷川潔は1891年、横浜に生まれ、1919年にフランスへ渡りましたが、
そのまま一度も帰国することなく、1980年にパリの自宅で亡くなりました。
 油彩画から版画まで修練を積んでいる時、彼は銅版画の古典技法マニエール・
ノワール(黒の技法)による作品に出会いました。彼はその途絶えていた技法を
再生させ、東洋の幽玄なる漆黒、と高い評価を受けた孤高の版画表現を創造しました。
作品には草花や球体、トランプなどが寓意を持って構成されています。ここに
紹介したビュラン彫りによる作品の何気なく見える草花の配置にも、余人の
気づかない寓意が隠されているようです。
 1972年にフランス政府は、葛飾北斎、藤田嗣治に続く三人目の優れた
日本人芸術家として、彼の記念メダルを鋳造しました。