「デスマスク・怨の瞳」

 広島、長崎に投下された原爆で殺された人々への思いから生まれた
陶芸作品です。  北一明は、1972年の築窯以来、焼きものの常識や通説を
覆す作品を次々に制作発表してきました。焼きものには思想がないという
常識に対し、北一明は焼きものにしかでき得ぬ思想の表現法があることを
デスマスクなどによって証明しました。
 北一明は、十歳足らずの時に敗戦を迎え、教師や大人たちの一晩に
しての変節に深く傷つきました。そして、戦争で傷つき死んでいった
国内外の人々に心を深く重ねてゆきました。このデスマスクは、原爆
で突然に命を奪われた人々の無念と反戦反核平和への北一明の思想を
込めて制作されました。
 1980年代半ば、アメリカ・カナダの市民により、これらの陶芸
作品の北米巡回展が行われました。大きな反響を呼び、北一明は北米の
知識人たちからノーベル平和賞に推薦されました。

「無数の皺を刻みこまれた<顔>に、私は直面する。顔はそのとき、
 消えようとする弱さそのものにおいて、無限の、あるいは絶対的な
 強さをもって私に訴えかけてくる。そのときつまり、顔は<声>を
 獲得している。しかも無言のまま声を獲得している。」熊野純彦