「白麗肌磁呉須字書碗『人生夢幻』」

 通常よりも高い温度で焼成することにより、全体をわずかにへたらせた
作品です。そのため、口縁はやや楕円になっています。中国の茶碗等に
見られる正円正対称の一分のスキもない完璧な美は、「完結終了で」
「余情のない美」であるとして退け、「可能性の美、可能性のエネルギー
を内蔵した美」こそ自らの追求すべき美とする北一明の考え方がよく反映
された作品です。
 微妙にたわんだ茶碗が両手の中にすっと収まる感触は、それが焼きもの
に表現された、きわめて精神的な造形であることを深く感得させます。そして、
淡い呉須(ごす)で流麗に書かれた「人生夢幻」が、白磁のたおやかな美しさと
あいまって、一際心に沁み入ります。