「記憶の塔」ご案内

 上條陽子(1937年生まれ)さんは、画家の登竜門である安井賞(第21回)を、1978年に女性で 初めて受賞しました。東京国立近代美術館に買い上げられた受賞作「玄黄・兆」は、生と死の神話的物語世界を暗い色調で描いています。それから十年後の1987年、画家は二度にわたる脳の 切開手術を受け、厳しいリハビリの末に健康をほぼ回復しました。この体験から、画家は生命の耀き、すなわち現実を生きている人間の生命の本質を描くことに専念してゆきました。具体的には、人間の生=動きが最も耀く時であるダンスを、描く対象にしました。
 先年、上條陽子さんは、機会あって、中東を訪れ、パレスチナ難民の「あまりに気の毒な生活」を 目の当たりにしました。そして去年の夏、レバノンにあるパレスチナ難民キャンプで、画家は他の人たちとともに、子供たちに、絵を描く喜びを教えました。
 そして、画家は奔走し、今年の4月、パレスチナの子供たちと連れ添いを日本に呼び、ホームステイを実現させ、難民キャンプで描かれた子供たちの作品展を、相模原市などの協力を得て実現しました。これは、NHKテレビや朝日新聞で紹介されました。記憶されている方もあるでしょう。
 そうして今、上條陽子さんは、新作を中心とするこの展覧会を「記憶の塔」と名づけました。 21世紀の画家の方向性のひとつを示した画家の展覧会をご高覧賜りますよう、ご案内します。