個展の会場にぎっしりと並んだ絵画の中からこの一点を選んだ時、画家は
述懐しました。「この絵は50枚近く描いたうちの最後の絵なの。疲れちゃって、
ここで止めたの。」
薄緑の地にだいだい色で、女性と彼女の持つ籠、その上に留まっている鳥が
描かれています。画家にとってはまだ描きかけのようですが、画廊主も筆者もこれで
充分完成していると判断しました。この絵からは、素朴とは違う、画家の無心の素地が
感じられます。
1970年代の大半をアフリカ各地で過ごした体験が、画家の作風に決定的な作用を
及ぼしました。西アフリカのキバイ族の酋長からもらった姓を名乗った画家は、
アフリカの大地のようなカラッと豪快な絵本を何冊も作りました。
この小さな絵画には、心の故郷として、画家が愛してやまなかったアフリカの、
サバンナの乾燥した風が吹いているようです。