画家・文筆家の横尾忠則は、「芸術は常に受身で迎え入れるもの、
つまり『迎術』ではなかったのか」と書いています。上條陽子のこの絵は
その実例のようです。
ダンサーの動きの線描を境界線にして、地が緑、図が赤に塗られている、
一見単純な絵ですが、緑と赤の組み合わせが鮮やかな対比効果だけでなく、
色に濃淡が加わることで、画面は複雑な深まりを見せています。描線を越
えて緑と赤が相互に浸透しているのは、画家の筆が、彼女の意識外からの
霊感によって突き動かされていることを示しています。
意識の下に広がる無意識の諸相が、生(なま)のままでまざまざと描出
されています。画家にとって原初的な作品といえます。