「人はどこから来て、どこへ往(い)くのか」という観念的な主題を、
1978年の安井賞作「玄黄・兆」に代表される、苦悩に立ちつくす人物
の配置という構図で描いてきた画家は、86年に病に倒れ、脳の切開手術を
受けました。復帰への厳しいリハビリの中で、画家は生きていることを深く
体感し、それまでの主題と画風を一変させました。画家は「その場限りの
血の通った線を描きたい」と、ダンスの躍動する生を描くようになりました。
この絵では人体がいびつですが、それは画家の深い注視によって見出された、
その場の生きたかたちであることに理解が届きます。生きているとは血が流れ
ていることであり、そして今ここに立っていることである、という画家の深く
鋭い自覚が、背景の湧き立つような赤と、ぐっと見つめ返している大きな目に
表れているようです。