深澤幸雄は多様な技法を駆使して銅版画を制作しますが、
これはメゾチントという技法だけで制作されています。この
技法特有の深い奥行きのある黒と、黒から白へ変化してゆく
柔らかな諧調がうまくかみ合って、見事な音楽的効果をあげて
います。
題名どおり、漆黒の夜空に向かって、何やら人のようなものが
ぐっと身を反らせ、管楽器を一心に吹いているようです。
楽器の吹き出し口からは、鋭いけれども滑らかで丸い音が、
天空に向かって飛び出しているようです。この独創的な姿かたちが、
やわな感傷に陥らない格調の高さを維持しています。
深澤幸雄の作品は「銅版画に刻む魅惑の詩」と評されるように、
どの作品にも詩心(ポエジー)が流れています。詩人が銅版画で
詩を書いている趣があります。盲目の詩人、抒情派詩人、歴史を
叙述する詩人と、相貌は変転しますが、そんな氏の資質が親しみやすい
かたちで表れた作品といえます。