「闇への誘い」

 西洋の錬金術的世界を連想させます。夕闇迫る西の空を背にして、
ビスクドール(陶製人形)と思しき壊れた人形が、分厚い壁にあけら
れた窓の外から中を向いています。それは、題名どおり闇へ誘う夜の
使者のようです。窓辺の小物類が象徴的な意味を帯びてきます。仮面
は虚実と死を、オリ−ブの小枝をくわえた鳩は再生を、四角錐の水晶
は精神を。そして、人形の大きく欠けた頭蓋は、その虚ろな内面がす
なわち大宇宙であることを、一角獣は世界の両義性を示しているようです。
 この現実世界は、実は人形の幻想世界でのあるという、メビウスの
輪のように奇妙にねじれた二重の世界像が、見事なまでにさりげなく
表現されています。