『夜との対話』全10枚からの一点です。他の題は北ホテル、小劇場、シャンソニエ、
子猫のキキと、いかにもパリを想起させます。どの作品にも、パリのもつ濃厚な夜の気配が
満ちています。
荒木哲夫は1965年から数年、パリに滞在しました。彼は、華やかな夜のパリに潜む深い孤独
を感知したようです。鋭利なメスで自らの皮膚をスーッと切るように、作家は夜の表層を
クールに切り裂き、裏側に隠れている、西欧の確立した個人主義が負う大人の孤独を、
独特な手つきで描き出しました。細長い指先から浴槽へゆっくりと滴る水滴の響きが、
夜のさらに深い孤独を確認させるかのようです。