安藤信哉は、アカデミズム絵画を修得し、絵画における写実とは何かを
真摯に追求しました。
安藤信哉にとって写実とは、まず描く対象をよく知ることでした。
そのために画家はまず身近な静物画を選びました。手で触れられる
その物体の硬さ柔らかさ、冷たさ、温もり、ざらざらすべすべした多様な
感触から、画家はその物体の特徴と本質を自らの体内感覚との深いつながりの
なかでまるごと把握しました。そして自らの美意識に従って、ものの配置と
構成をきっちりと決めてから描き始めました。
その試みは説得力に満ちた描写と揺るぎない画面構成に見事に結実しました。
この絵は「写真のような」写実的な絵ではありません。画家にとって写実とは、
その対象が画家にとって最も本質的である像を率直に描くことです。この絵は
写実を深部から支えている強固な内在的秩序に貫かれています。