「室内」

 読書を題材にした絵画はセザンヌ、ルノワールそして黒田清輝など
多くの画家が手がけています。どの作品も画家の個性が見事に表れ
ています。安藤信哉のこの絵もその一例です。
 写実の本質を深く考えていた画家は、写実とは光と影を写真そっく
りに描くことではないことを自覚していました。写実に基づく構成美
を追求した画家は、この絵でも彼ならではの色彩の演出を施しています。
 光は女性の上部後方から射しているようです。そうならば、胸を隠す
布の部分は、本来は薄暗い色調であるはずですが、画家は明るい白で
描いています。そこは、女性の首から背中、そしてひざ下へ至る半円形
の外郭線の中心点に当たります。そこを写真のように忠実に薄暗く描く
と、この絵の魅力が半減してしまいます。ひざ上の開いた本は、輪郭線
が引かれているだけです。ここに色を置くと、やはりつまらない色面構成
になります。