梅の模様の和服など三着を描いた作品です。向かって右側の和服は
柄が描きかけのように見えますが、これで完成しています。絵画を描
く時、画家が最も心がけるべき要点は、どこで筆を止めるか、です。
大方の画家は描き過ぎて失敗します。
安藤信哉は、和服から受けた軽やかな感興をキャンバスに定着させ
るため、大胆な省略と余白=間合いの美学を用いました。元来あった
白地の部分はそのままに、右の和服の柄を大幅に省略することで、和
服の持つ風通しのいい軽やかな表情が、見事に引き出されました。
対象に密着せず、不即不離の透徹した目で対象を見極め、絵筆を自
在に操り、構成主義的に描く画家の技は、この和服が持つモダンな透
明感をひときわ引き立てています。
アトイエで画家がこの和服の絵を描く時「おじいちゃん、絵の具で
汚さないで」と、孫娘は心配したそうです。