「ヨットハーバー」

 画家は、戦前は文展帝展で活躍し、戦後は日展の参与を務め、また東京
教育大学教授として聾学校の美術教育に力を注ぎ、ヘレンケラー賞を受け
ました。
 西洋アカデミズムを修得した画家は、描くことをより深く厳しく追求し
ました。その結果、鍛え抜かれた強固な絵画構造の上に、自己と描く対象
との深い交流から生まれる、融通無碍の自在な揺らぎをも表現する、孤高
の芸術を確立しました。
 ここに紹介した作品は、湘南江ノ島近くのヨットハーバーを描いた晩年
の水彩画です。油彩画と比べますと、水彩ならではのみずみずしい筆遣い、
絵筆のたおやかにして揺るぎない線描に、画家の潔い精神と深い思索が、
より分明に反映されています。大人(たいじん)の風格を感じる絵です。