背中を向けた少女の向こうに影が二重写しになっています。一見ごく普通の
光景ですが、照明は前方から当たっており、影が少女の前にできるはずは
ありません。現実にはちょっと考えにくい構図ですが、すぐには変に感じられない
ところに、絵画独自の空間処理の魔法があります。
やや斜めにかしいだ体。やや広げた両腕の、左と右とで微妙に異なる傾き加減。
やや広げた左右の指の微妙な違い。微妙に揺れている、リボンとやや長い髪。
そして、微妙に変わってゆくやや暗い色調。「やや」と「微妙」とが幾重にも
重なり合わさり、少女のその一瞬の動きに集約される絶妙なドラマ性が、
見る人に深い印象を与えます。
この絵は佐々木丸美のミステリアスな小説「影の姉妹」の表紙絵に使われました。