「晩夏」

 佐々木丸美の小説『忘れな草』1978年刊の表紙に使われた絵です。
味戸ケイコの絵は、見る人に普段は気づかない、心を揺さぶる情念や
情動を不意に想起させます。時には、子供時代に置き忘れてきた、
裸の心のおののき、心の痛手の深い裂け目の感触までをも呼び覚まします。
そのため、怖い絵という人もいます。
 この絵には海風が吹き海鳥が飛んでいますが、なにか激しい嵐が
過ぎ去った後の、身をすくめたくなるような静けさがあります。天空の
暗雲は、一人立ちすくむ女性が体験してしまった劇的な出来事を、
生々しく投影しているようです。その投影は、見る人それぞれに
自分だけの心の物語を与えるでしょう。