安房直子の短い物語『秋の風鈴』の挿絵として描かれたものです。
味戸さんの絵は、挿絵という発表当時の役割から解放されて、
一枚の絵に戻った時、その隠れていた本来の魅力がようやく現れて
きます。その絵は、独特の情感を湛えた一枚の作品に変貌しています。
暗い部屋から古びたガラス窓の向こうに広がる秋の雲を眺めるという
視線の移動に、密やかな感動が生まれます。暗い壁に阻まれていた視野が、
窓という通過口を通ることで、すーっと広がる解放感と、その逆に
部屋の中に閉じこもっているような閉塞感とが、すっと交差して、
そこに味戸ケイコ独特の郷愁、なつかしさが、ふっとこみあげてきます。