≪味戸ケイコ、北一明そして「深層表現派」≫
この美術館は、今から二十年近く前に味戸ケイコさんの絵画を展示する目的で、構想
されました。大好きな味戸ケイコさんの絵を、心ゆくまでじっくりと鑑賞できる小さな
美術館です。その開設の実現に向けて準備をしている中で、広く美術を知る必要を感じて
いたところ、知人から届いた案内状に導かれて、初めて焼きものの個展へ行き、北一明氏の
作品に出会いました。焼きものには門外漢の私にも、作品のただならぬ美に気づき、深い
感銘を受けました。
それから何年かが過ぎ、約百年に亘る現代美術〜モダン・アートの歴史と、美術界の現状
に理解が及び、そのどちらにも様々な欠陥と問題点が露呈していることに気づきました。
すなわち、現代美術では、アヴァンギャルド〜前衛が歴史を作ったという見方だけが論じられて
きました。その結果として観念だけで考え出された作品が溢れ、独りよがりの「芸術は難解だ、
難解で当たり前」となって袋小路へ入ってしまいました。
また、美術界では、美の価値(序列)として、洋画(油絵)と日本画が最も高く、版画は半画
であり、焼きものもイラストレーションも低く見られています。それはおかしい。美術作品の
美の価値と、商品価値が混同されている。美の価値に序列はなく、分野でも計れません。
人にとって、また歴史にとって真に価値のある作品とは何なのか。一般に知られている美術作品
だけが現代の美術を代表しているのだろうか。美術史も美の価値も、もっと広い視野、別の視点
から見直されるべきではないか。二十世紀の美術史の辺境から、そして鑑賞者の立場から
考えたら・・・。その探求の結果、私にとって重要な意味を持つ味戸ケイコさんと、北一明氏の
お二人の作品を常設展示することにいたしました。二人の作品に加えて、何人かの作品も展示
いたしますが、展示作品全体を「深層表現派」と、私は名付けました。どの作品も、観念ではなく、
心の深層〜識閾下の領域からの幻像に関わっています。その表現は、所謂西洋とも東洋とも
微妙にずれているように感じられます。それが何なのか、「深層表現派」という造語とともに
K美術館の中で考えてゆきたいと思っています。皆様におかれましても、この小さな美術館が
何らかの意味を持たれることを心より願っております。
1997年6月1日
館長 越沼正