next chance
「やろーぜっ」
「うわっ」
直江が部屋に入り靴を脱いだ途端、後ろから千秋にタックルされた。
千秋の部屋はワンルーム、玄関も広くはない。直江は壁に肩をぶつけてしまった。
「痛いだろう、何やってる」
「まだやってない、これから。いーだろ?」
言いながら、後ろから抱きついている千秋の両腕が、怪しげに動き出す。
「ダメだ」
キッパリと直江は告げ、千秋の腕をはずす。
「なーんでだよ、せっかく景虎からひきはがせたのに」
「部屋へ来たのは、このためだったのか?」
「とーぜん、他にあるか?」
直江は呆れながら、テーブルの前に座る。
8畳ほどのワンルームに、家具はベットとテーブルくらいで、ひどくさっぱりしている。
備え付けの小さい冷蔵庫から千秋はビールを出してきた。
「・・・住所録を取りに来たんだ、俺達は」
「あ〜そーだったな。あるから気にすんなって。ほら」
千秋が直江に缶ビールを渡す。苦笑して直江はプルトップを上げた。
今回は高耶と千秋の高校のクラスメートが、怨将と関わっていたのだった。
そのクラスメートの住所がわからず、クラスの住所録が必要だったのだが、
千秋の家が近くだったので、ふたりで取りに来たのだ。
「景虎は成田と別行動。チャンスは有効に活用しないと」
「何がチャンスだ。被害者の生徒は苦しんでいるんだ。早くー・・・」
千秋が身を乗り出して、直江に口付けた。
唇を離した千秋が、テーブルを脇へとのける。押し倒そうと思っているのだろう。
「・・・分かった、長秀。けど、今日はやめとこう。また今度、な」
「お前、この間もそーいっただろう。そのときの今度が今日!」
「うんうん、でも今日は仕事があるし、な」
「・・・だっーて、いつからしシテないよ・・・あっ!」
千秋が、がばっと顔を上げるのに、かわせるかな?と思っていた直江がびくつく。
「よくよく考えたら、その宿体とまだ1回もしてない! 前ヤったのって30年前だろっ」
しまった、気づいたか。
直江は別に千秋に抱かれるのが、イヤではなかった。
しかし、また今度、と言えばあっさりと千秋が引き下がるので、今まで放っておいたのだ。
千秋は直江大事で泣く泣く、諦めていたのだが。
「直江っ」
今度こそ千秋が直江を押し倒した。肩を床に押し付けて上にかぶさる。
「お前、わざとやってたろ」
「いや、そんなことは・・・」
ない、とは言えない。可哀相とは思いつつ、面白がっていたので。
思わず目をあそばせる直江に、千秋は噛み付くようなキスをする。
「・・ふっ」
千秋が直江の喉に吸い付き、アトを付ける。
そして手は、スラックスの上から直江を掴むー
「ちょっと待て!」
直江が下から千秋を引き離す。
流されそうになったが、自分たちは仕事に戻らないといけないのだ。
この後景虎達と合流するのに、キスマークなどはつけられない。
スキあらば、景虎を襲おうと思っている男が、腰を痛めてなるものか!
「せめて、仕事が終わった後、な?」
「またそーいって逃げる」
千秋も今日は目が据わっている。何が何でもヤルつもりだ。直江の上からのこうとしない。
「いやっ、分かった。本当のことをいう。ココじゃいやだ」
「は?」
「こんな外の人の話し声が聞こえるトコでやられたくない。」
「そんな生娘みたいなこと」
「この宿体はヴァージンだ」
「了解した。どこならいい?」
お初、と聞いて千秋の顔が真面目になった。
「そ、そうだな猪苗代湖の近くの温泉宿で、川の側の離れがいい。個別に露天風呂があるところ」
「高そうじゃねーか」
「な?まずは宿探しから初めてーえ?」
覆い被さっている千秋が目を覗きこんできた。眼鏡の奥の瞳がキラリと光る。
その千秋の向こう、味気ない白い天井が、木目がキレイな木のはめ板になっている。
畳の匂いがしたかと思うと、背中のフローリングが畳の感触に。
近くにあった部屋の壁は消え、縁側の向こうは夜の日本庭園となっていて、耳をすませば虫の声。
「なっ」
ご丁寧に、直江も千秋も着ているものはそろいの浴衣で、これは立派に温泉旅行の夜ではないか。
「これでオッケー?」
ニヤリと笑う千秋。
「これは暗示じゃないかっ 偽物だ!!」
「ダメ?」
「却下!」
「ちぇーっ」
千秋はしぶしぶ直江から降りた。あきらめたらしい。
ホッとしながら直江は浴衣の乱れを直す。
「早く住所録を持って、景虎様のところへ戻ろう」
「そのまえに旅行会社だ」
「男2人で温泉宿を予約しに行けるかっ」
千秋はふてくされ気味に、雀の絵が書いてあるふすまを開けて、冊子を出してきた。
住所録、である。
千秋は思う。直江のイヤがることはしたくない。出来る限り直江の望みを叶えたい。
そして、直江の望む所であーんなことや、こんなこと。直江をひとりじめ!
この仕事にやっとやる気が出てきた。
「じゃ、さっさと片付けよーぜ!」
「その前に暗示を解いてくれ」
千秋の純情が届くのは、まだ先のようだった。
end
あとがき
こんなものをよく世間に出せたものです。訂正しようかとも思いましたが、記念に(?)このまま。
「大会」なのでライトなモノ!と思ったのですが、千秋可哀相・・・(泣)
★駅馬からのコメント★
裕さんのご好意で、大会終了後はこちらで掲載することになった、この作品。裕さん、ありがとうございま〜すv さて。千×直ですよ、千×直〜〜〜v 甘い……(笑)。甘いですよ、裕さん!(←大甘書きの駅馬に言われたくないですね(死))。 なぁ〜んだ、甘いの書けるんじゃないですか〜♪(にやり) と言うか、裕さんとこの千秋も、直江を愛しちゃってるんですね〜v(うっとり) こ〜ゆ〜千×直、駅馬は大好きです♪ ウチのも、あいしちゃってますんで(苦笑)。 でもぉ、ウチの千×直があんなん(←どんなんだよ(苦笑))だから、裕さんとこの二人の良さが一際目立ちますね〜(苦笑)。良すぎですよ、裕さぁん!
『直江は別に千秋に抱かれるのが、イヤではなかった』――って? それって〜〜〜?(笑) いやん、も〜v(←イヤはアンタです) ラヴですね〜♪ 春ですよ、もう!(←夏です) そして、注目すべきは、直江が生娘(←爆)だということでしょう!!(断言) 良いなぁ……(笑)。
そうそう。裕さん、何故にこゆ風に短編書けるんですか〜??(泣き笑い) そのコツを、駅馬に教えて下さい……(切実)。いつかこ〜ゆ〜短編を書きたいんです! ええ、マジで……でも、無理な気がします……(泣)。
この《next chance》は、実は(?)続編があるんですよね〜♪ うふふ……。 |