triple excellent

 

 

 

馴染みのある気配に、唇からグラスを離し直江は顔をドアへと向けた。
安田長秀が入ってくる。
薄暗いバー。カウンターにいる直江の顔を確認した途端、花が咲くように笑ったのを見て、少しだけ胸が痛んだ。
「すまね。遅れた」
「いや、まだ一口目だ」
右手で水割りのグラスを頭の位置にかかげ、長秀を迎える。揺れたグラスがカラカラと涼しげな音をたてた。
「オレも同じの」
カウンターに並んで座りながらバーテンに注文する、長秀のシャツや髪が濡れているのに、直江は気づいた。
「雨がふっているのか」
「さっき降ってきた。今晩から明日いっぱい、降るらしいな」
「そうなのか」
直江がグラスを傾けるのを、長秀の手が阻んだ。
目で問い掛けると、長秀は苦笑してグラスを取り上げる。
「一口でやめとけよ、傷にさしつかえる」
「・・・お前こそ、飲酒運転は勘弁してくれよ」
「オレがそんなヘマをするか」
前に置かれた自分のグラスはそのままに、直江のグラスを一口すする。
  直江は自分の左腕に目を落した。
スーツで隠れてはいるが、怨将につけられた傷が、じんじんとうずいている。
高耶をかばってつけた傷だった。
車で宇都宮まで帰るのに、長秀が運転手を申し出たのだ。
「お前、もう一日泊まって帰れ」
唐突に言い出した長秀に目をやる。
「熱、出てんだろ?車で移動するのもしんどいだろ」
「大丈夫だ」
「ハタから見て、大丈夫じゃないから言ってんだよ。そんなうるんだ目をして」
長秀が直江のネクタイをひっばり顔を近づける。
「誘ってんのか?」
直江は、ニヤリと笑った長秀の顔を手で払った。
「今、車ん中でふたりになったらヤっちまうぞ」
「ケガ人だぞ」
「無理はさせない。優しく抱くさ」
 それは知ってる。
「オレに抱かれるのが嫌なら、ホテルに泊まって行け」
 どんなにこの男が優しいか。
「直江?」
 俺にはそんな価値がないのに。
黙り込んだ直江を長秀はのぞきこんだ。心配そうな顔をしている。
ふ、と直江は微笑んだ。
「ホテルに泊まったら、抱かないのか」
「ケガ人だからな、看病してやるよ」
「お前、言ってることがめちゃくちゃだぞ」
思わず笑いながら、直江の心が暖かくなる。
今、長秀に寄りかかりたいと、もっと気にかけてほしいと思ってしまうのは、熱のせいだけではないだろう。
自分の頭は景虎のことばかりだが、振りかえればそこに長秀がいる。
それが、どれだけ自分の心を救っているか。
 長秀が、直江の髪を梳いた。
眼鏡の奥の目が、優しく直江を見つめている。
「・・看病してもらおうか」
「まかせとけ。大切にしてやるよ」

end


わるあがき  (←どこが、ですか??(駅馬・談))
タイトルの
triple excellent 、書いてる途中でどっかへいっちゃいました。
前作(
next chance )であまりにも千秋が可哀相だったので、千秋救済モノを自分に課しました。
「千秋を幸せに」がコンセプトなのですが、ま、まだまだですね・・・(涙)

 

 

 

◆駅馬のコメント◆

 う〜わ〜、駅馬、好きですよ、こ〜ゆ〜雰囲気〜vvv

 またまた頂いてしまった、裕さんの第2作です♪ 裕さんとこの千秋は、何と言うか、駅馬好みですね〜☆ 何か、ネクタイ引っ張って「誘ってんのか?」ってトコが、駅馬、大好きなんです 目に浮かびますよね

 ところで。「二人っきりになったら、ヤっちまうぞ」って……何をやってしまうんですかね〜??(死) くすくすくす(笑)。

 「まかせとけ。大切にしてやるよ」!?(どきどき) いや〜ん、裕さんとこの千秋に優しくされたら、 直江はどうなってしまうんでしょ〜か〜!?(照) きっと、直江の身体を労わりながら優しくしてくれるんでしょうねぇ……(うっとり)。

駅馬ンとこの千秋にも、そゆトコ見習ってもらいたいものです(溜息)。

 《千秋を幸せに》がコンセプト、だそうですが。成る程〜。まだまだ、と裕さんはおっしゃっていますが、そうですか??(苦笑) 大丈夫、きっと彼は幸せですよ!……と、駅馬は思ってしまったんですが……それって駅馬だけ??(はらはら)

 

 いつも思うんですが、裕さんの小説は、短目の文章の中にきっちり起承転結がついてて、凄いです(感嘆)。今回も、ありがとうございますです〜〜〜!!(大感謝) お次は、あれですね……?(笑)

 

 

 

 

 

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