ついに始まりました。
連載第二段、「流星に祈る」です。わ〜いvv

さてさて、実はこの話、納多の初ミラージュ小説です。
ちゃんとした小説を書いたこと自体、これが初めてでした。
確かそうそう…中学三年秋に書き始めたんです。
主に学校の休み時間&授業中に……。(おい受験生)

それに加えて、こんなに一生懸命に書いたにもかかわらず
まだ誰一人として読んでもらってないんですよ。
だから、念願叶いこうやって公開する機会が持てて凄く嬉しいですv

一応話は既に完結しております。
結構長いです。大学ノート一冊と半分。
よくこんなもん書いたなぁと、我ながらかなり感心です。

これから頑張ってアップしていきます。
打ち直さなければならないので、毎日更新とまではいきませんが、
なるべく早いペースで行きたいと思います♪
(その前にテストがあるけど……)


 あれはいつの頃からだったろう。
 視界のすべてが、あなたに関与するものしか映らなくなったのは。

 あなたのすべてが、私の世界の中心だった。あなた以外の存在は、私には何の意味もない、ただの存在でしかなかった。

 あなたは、そんな私の存在を、ただ、見つめているだけで。
 私に手を差し伸べることは、決してなかった。……ただ、見つめているだけで。

 それでも。
 私には分かっていた。

 あなたのことを、誰よりも強く、誰よりも近くで、私はいつも見つめていたのだ。
 あなたのその、存在の強さも、弱さも、輝きも、汚さも、孤独も。
 知っていたのだ。
 だから、私は決して迷うことなどなかった。
 いつでもあなたの孤独な背中を護り、──追い続けていた。

 あなたの、やわらかな唇と、しなやかな身体と、愛しい、

 ──愛しい心臓の音。

 すべてが貴くて、すべてが愛しくて。すべてが──。

 あなたの涙は、私の乾いた魂を癒した。
 もし叶うのならば、今度は私があなたの、その、孤独な魂を癒す、
 泉になりたい。
 どこまでも永遠にあなたを癒す──。

 あなたにいま、伝えたい。
 ……愛していると。
 あなたは微笑し、答えを。
 答えを返してくれるだろうか……。


                      ───高耶さん。
















第一章 「過去ではない、現在」



1.

 日の光が雪に反射し、その眩しさに目を細める。
 この三日ほど雪も降らずに晴天が続き、高く降り積もった雪もいくらか溶けたのだが、雪どけ水が地をぬかるませて道行く人の歩みを滞らせていることには何のかわりも無い、今日の日。

 出自は違えど、この越後の地で十年の歳月をすごしてきた景虎にとって、この程度の寒さは何の問題にもならなかった。
 むしろ少し暖かいと感じる。
 ……もっとも、今の身体がどこの出自かなどとは、景虎が知るはずも無かったが。
 景虎はひさしから漏れる光から視線を移し、傍らで床に伏す己の家臣の顔を見つめた。
 知性的で、日本刀のような鋭さを持つ怜悧な瞳は、今は目蓋の奥に隠されて、ほどかれた薄茶の髪が枕元に垂れていた。
 もう熱は引いたのだろう。乱れることなく健やかな呼吸を繰り返し、胸元がそれに伴い一定の調子で上下している。
 景虎は一つ吐息を漏らし、憂鬱げに呟いた。

「……人騒がせな男だ」

 そう毒づいたところで、男の首に巻かれるさらしの意味を思い出す。

(……人騒がせなのは己の方、か……)

 景虎は軽く目を瞑り、口元に自嘲の笑みを浮かべる。
 何をやっているのだ、……オレは。
 勝手に不貞腐れて、自棄を起こし酒や喧嘩や……。挙句の果てに玄奘蜘蛛などというわけの分からぬ者に囚われ……。
 そして、助けられた。よりにもよって、最も救いの手など乞いたくない男に……。

(直江信綱……)

 景虎はもう一度目の前の、……直江の顔に視線をずらす。
 ……別に心配だというわけではない。ただ、己を救うために命まで落とされて借りを作るのは、御免なのだ。
 たとえ換生によって新たなる生を開始できるのだとしても、死という行為が苦痛でないわけが無い。望まぬものならなおさらだ。
 それに、自分たちは換生という行為によって確実に人一人分の生涯を奪ってしまうのだ。無闇に死んで宿体を換えることは、たとえ使命のためであっても許されぬことだ。
 しかし、助けられたことによって借りができたことには違いない。

(分からない……)

 この男と自分は、仮初の主従であるはずだ。
 景虎は直江の、感情のこもらぬ冷えた眼差しを脳裏に描く。その双眸からは、 親愛の情など毛の先ほども窺えはしない。自分も、己を死に追い込んだ張本人などと親交を交わす気は毛頭ない。──けれど。
 ろくに親交も交わさない仮初の主君などのために、あのようなことができるものだろうか……?
 首を掻っ切るなどと……。

(この男のことが分からぬ)

 最近日を追うごとにこの男が分からなくなっていく。何を考え、何を感じ、何を思い自分を見ているのか。
 ──助けられたからといって許したわけではない。自分を殺したかわりに自分を救ったから、あいこだなどと認められるわけが無い。自分はまだこの男を許していない。滅茶苦茶に嬲り殺すまで……いや、嬲り殺したとしても、景勝たちに対する恨みが消えることなど決してありえはしないのだ。
 その程度で消えるくらいなら、初めから怨霊大将になどなってはいない。直江のこととて自分はこの先、この男を許すことなど絶対に出来はしないだろう。
 そう、絶対に……。

(本当にそうか……?)
(本当に許すことなど出来ぬのか?)

「馬鹿な……」

 一瞬脳裏を掠めた疑問に、景虎は愕然となった。
 何故疑問に思う必要がある!

「オレは……直江を許し始めていると……そう言うのか……!」

 分からない。直江のことが分からない。いつからだ。この男のことが分からなくなり始めたのは。いつから……。

“我らは敵同士、決して相容れぬ者。されど、死人であるという一点で私はあなたを理解できる!”

「やめろっ!」

 思わず景虎は叫んだ。唇をきつく噛みしめる。
 ……もうよそう。
 分からぬのならそのままで良い。分かることが怖かった。
 もう考えたくない。

 その時。
 傍らで床に伏していた直江の顔がわずかに動いた。
 先程の景虎の声で目を覚ましたのだろう。そのまま目蓋が開き、髪と同じ薄茶の瞳がゆるゆると現れた。
 景虎は思わず呟く。

「直江……」



 景虎の呟きと共に、直江は目を瞬いた。

(ここは……)

 熱が完全に抜けきっていないらしく、思考が薄くぼやける。
 直江は天井を見回したが、視界に映るその風景は、どう見ても見覚えの無いものであった。

(どこだ、ここは……)

 次第に薄濁とした意識が冴え、疑問が鮮明となってくる。

(俺は昨晩、こんな所で寝たか?)

「直江」

 景虎がもう一度名を呼んだ。
 直江は己の主君である、その人の気配を感じ、

「……っ!?」

 振り向き様その名を呼ぼうとして、完全に固まった。
 そこには直江が脳裏に描いたその人の姿はなく、見知らぬ青年が正座していたのだ。

(誰だっ……)

 直江は床からガバッと飛び起きる。
 その瞬間に首が引きつったが、かまわず青年を凝視した。
 青年も直江の驚き様を訝しげに見ている。

「どうした直江」

 青年がそう言った途端、直江は愕然として目をはちきれんばかりに見開いた。唇が震える。──馬鹿なっ……!
 次の瞬間、直江は青年の肩に物凄い勢いで掴みかかり叫んだ。

「景虎様!?」

 景虎は直江の尋常でない形相に驚き、肩を掴んだ腕を振り払うことも忘れ直江を凝視した。

「景虎様っ……あなたは景虎様ですか……!?」
「何を言って……」
「答えてくださいッ!」

 主君である自分に対する無礼な行為を景虎は咎めようとしたが、直江の鬼気迫る様子に思わず開きかけていた唇を閉ざし、答えを返した。

「……あたりまえだろう。オレは景虎だ」

 呆気なく返されたその答えに、直江は更に呆然とする。

(そんなっ……!)
「何を言っているんだ、おまえ」

 景虎も訳が分からずに尋ねる。

「一体どうしたと……」
「高耶さんは……」

 直江が再び口を開く。
 景虎は途端、掴まれた肩に震動を感じ、直江の腕を見た。
 ……小刻みに震えている。

「仰木高耶の肉体は……どうしたんですか……!」
「オウギ……タカ?」
「答えてください、高耶さん!あの身体はどうしたんです。何故換生し直して……!何があったというんですか!?」

 既に直江は錯乱している。語尾は震え、今にも押し倒さんばかりの勢いで景虎の肩を揺さぶる。
 ……何があったというのだ!?

「落ち着けなお……」
「教えてくださいっ高耶さ……」
「落ち着けッ!」

 その瞬間、直江の動きがピタリと止んだ。
 景虎は声を張り上げる。

「落ち着け直江。そしてオレに分かるように説明せよ!タカヤとは何だ。何をおのれはそれほどまでに動揺している!」

 そう言われて、直江はハッと息を飲む。
 何かが明らかにおかしい。あまりにも大きな違和感。……何なのだこの口調は……?
 景虎の口調がおかしい。高耶はもっと、ぞんざいな感を孕んだ喋り方をした。 けれど今の彼の口調はまるで……。

(これではまるで……)

 直江は意を決し、景虎に語りかけた。

「景虎さ……!」

 その時、再び直江はギョッとして固まった。今度は己が声帯に明らかな違和感を覚えた。──声が違う。
 声だけではない。短いはずの己の髪が、肩まで伸びている……。
 信じられぬ思いで己の手を見て、今度こそ直江は凍りついた。
 左手と、その手首にあるはずの傷が、綺麗に無くなっている。
 幼い日、景虎を想いナイフを引いた手首の傷と、あの山荘で、もう二度と逢うことは叶わないのかと、絶望の中握り締めたワイングラスの破片の、手の平の傷と……。
 間違いない。──宿体が換わっている。
 橘義明の身体ではなくなっている!
 わけが分からない。何だというのだ。一体何が……。

「これは夢か……?」

 愕然とする直江を見つめていた景虎は、その呟きを耳聡く聞きとがめた。

「ここは現だ。夢でも幻でもない。されど我らは死者……謙信公より使命を受け、この越後の霊たちを眠らせるために新たな肉体を得た夜叉だ。そしてオレがそれらを束ねる主君、上杉景虎。おまえはオレの……後見人直江信綱だ。そうであろう?」

(な……に……!?)

 直江は耳を疑った。
 今の台詞は何だ。今のはまるで、景虎がまだ上杉の総大将であるかのようではないか……!?
 景虎は既に上杉からは放逐された身だ。冗談でもそのようなことを彼が口に出すとは信じ難かった。
 この矛盾は何だ。宿体、口調、そして今の台詞……。まるでこれは……夢ではないとすればもしや……!

(まさか……)
「景虎様っ」

 再度直江は景虎の肩を掴む。

「景虎様、今は、……その身体は何度目の宿体ですか」
「な……っ」
「あなたが……上杉景虎としての生を終えてから、何度身体を換えましたか」

 なおも直江は問いかける。

(この男……気でも触れたか……!?)

 あまりの問いの内容に、景虎は直江の正気を疑ったが、見つめてくる目に先程の錯乱した様子はなく、双眸には刃のように鋭く冷静な光を宿している。
 景虎はやや躊躇し、いらえを返す。

「……オレは、鮫ヶ尾城にて死してより、換生という行為を行ったのはただの一度だけだ……」
「一度……っ」

 もう疑いようも無い。ここは高耶や橘義明の自分は存在する時代ではなく、景虎がまだ一度めの換生を生きる、過ぎ去りし過去の世界だ!

「それでは……今年は御館から、御館の乱終結から何年目……?」

 御館の乱終結。即ちそれは己の……、上杉景虎の死を指す言葉。
 首を斬り、景勝方への怨みを、決して許しはしまいと誓った……その日から。

「御館からは……もうすぐ五年……」


 五年……。


 口内で反芻する。
 直江はその言葉の意味を悟り、きつく眉間に皺を刻んだ。

いのち
いま
for your and my eternal happiness.

Someday, I will pray to the meteor

to be continued…
2002/10/11
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