赤眼のたかやさん
                     〜Takaya of Green Gables〜
                  















       

 1.

それは今から二百年ほど前の話。
ある所に、それはそれは美しい自然に溢れた島がありました。
春は花々が咲き誇り、夏は木々の緑がキラキラと光り、秋は見事な紅葉に覆われ、冬は白銀の世界に包まれる。
そんな美しき島のとある村の中に建つ、白い壁に緑の切妻屋根の家─グリンゲイブルス。そこには一人の少年が住んでいました。
少年の名は仰木高耶。今年で十二歳になる、まだまだ育ち盛りの腕白な少年です。
そんな高耶さんは実は、赤ん坊の頃に両親を亡くした孤児でした。今までの11年間は、孤児院で暮らしたり、貰われ先の家で赤ん坊の世話をしたりしてどうにかこうにか暮らしていたのですが、つい一週間前に、この緑の切妻屋根の家の持ち主である千秋と綾子という兄妹に養子として貰われて来たのです。

これまでの悲惨な人生経験ですっかり苦労性となって、せめてもの慰みにと乙女よろしく想像の世界に生きてきた高耶さんは、相当な妄想癖の持ち主……もといロマンチストだったのですが、このグリンゲイブルスと周囲の自然をいたく気に入って、この家に貰われてきたことをそれはそれは天にも昇る気持ちで喜んでいました。
しかし、孤児院から連れてこられた高耶さんを千秋と綾子が見たとき、二人は最初、高耶さんを養子にすることを躊躇しました。
なぜなら、高耶さんが世にも稀なる真紅の瞳の持ち主だったからなのです。
高耶さんはこの瞳のせいで、今まで周りの人々に散々に気味悪がれてきました。
貰われ先の家でもたらい回しにされて、友人も作ることが出来ず、一人孤独を抱え妄想に浸りながら生きてきたのでした。

けれどそんな高耶さんと接していくうちに、生来面白いことが三度の飯より大好きなこの兄妹は、高耶さんのぶっ飛んだ性格がすっかり気に入ってしまい、ここに来た次の日には正式な養子とすることに決めてしまったのでした。

そんなある日のことです。
グリンゲイブルスの近所(……と言っても日本的感覚で言えばかなり遠方)に住む、高坂と言う男性が三人の家に訪ねてきたのでした。
高坂は千秋&綾子兄妹の友人で、子供のときからの良き喧嘩友達でした。
とは言っても決して仲が良いわけではなく、顔をあわせれば嫌味の応酬を繰り広げあうという、この村名物の言わば犬猿の仲同士であったのです。
そんな高坂が、断りもなしに家にズカズカと入り込んで来て、ちょうどお茶を飲んでいた高耶さんを見るなりにこう言いました。

「こんな薄気味悪い赤眼のガキを上杉の家に住まわせるとは、貴様らも大概もの好きだな」

この言葉に激怒したのは高耶さんです。

「てめぇ誰が薄気味悪いって!?このカラス野郎!」

涼しい顔した高坂に、烈火の勢いで怒鳴りつけました。

「人の気にしていることをよくもぬけぬけと!てめーみてぇな最低な奴見たこと無い!自分が言われたらどういう気がするっ?性格最悪でカラス頭の趣味の悪い想像力のかけらも無さそうなカマ野郎ってなぁっ!」
「そうだそうだ、もっと言ってやれ景虎!」

千秋が後ろから賛同します。
一方の高坂は高耶さんの怒りをせせら笑うだけでした。

「私はちっとも気にならんが?」

ムキーッと憤慨したところで、嫌味を言わせたら天下一の高坂に対抗するには、高耶さんは景虎様モードが足りなすぎました。

「躾がまるでなってないようだな、上杉の。せいぜいこの小僧に井戸に毒でも投げ込まれぬよう気をつけることだ」
「うるせぇ!まずてめぇをこの邪眼で毒殺してやろうかっ!?」

高笑いと共に悠々と去っていった高坂の後ろ姿を憎々しげに睨みつける高耶さんに、綾子が話しかけました。

「あんた、謝ってきなさいよ。後で」
「なんでだよっ!あいつが失礼なこと言うから悪いんじゃねーかっ!」
「そうだぞ晴家。あんな野郎に頭下げる必要なんざねー」
「冗談じゃないわよ!あいつはこの島の裏世界取り仕切ってる「武田」の重要幹部なのよっ!?あいつに目ぇつけられたら次の日には尾びれ背びれ足びれのついたとんでもない噂が、村中どころか島中、いいえ本土まで撒き散らされるんだからね!」

だから嘘でも何でもいいから謝りに行きなさいと言う綾子に、高耶さんは悲愴感も露に言い放ったのでした。

「こんな悲劇的なことってないぜ!オレはあいつに謝るくらいなら、まる一週間ヘビやカエルのいる暗くてじめじめした牢屋に閉じ込められて、飲まず食わずにいた方がマシだぁーっ!」

そう叫ぶと、わあっと泣きながら部屋を飛び出していってしまったのでした。

「…ホントにおもしれー奴だな、景虎って……」

千秋が感心したように言いました。
ところでこの「景虎」という呼び名は、高耶さんがそう呼んでほしいと頼んだものでありました。
なんでも高耶さんが言うには、「高耶なんてどこにでもありそうな名前より、景虎≠フ方が雅やかで高貴な感じがして、想像力が掻き立てられるだろう?」、とのことなのです。発想がまるで乙女です。
それはともかくとして、この後泣く泣く高耶さんは高坂のもとに謝りに行くことになったのでした。

「あのさ……話があるんだ、高坂、さん」

高耶さんは大真面目な顔で高坂をひたと見つめます。

「ほう……何かな」
「すまなかった、オレが間違っていた!高坂さんっ」

高耶さんはガバッといきなり頭を下ると、高坂の前に跪いて両手を握り、激しく演技がかった口調でまくしたて始めました。

「さっきはついつい本当のことを言われて、カッとなってしまったんだ。ああ、オレはなんて悪い子供なんだ。高坂さん、あんたの気の済むようにどうかオレを罰してくれ!確かにオレの目は赤くて不気味だから、高坂さんにそう言われるのはしょうがなかった。それで愚かなオレは頭に血が上ってしまって…。でも、だからと言って目上の人に本当のこととはいえ、あんな失礼なことを言っていいとは限らなかった!ああ、こんなオレをどうか許してほしい。すまない高坂さん。それにあんたみたいなキレイなカマは、オレ初めて見るし!」
「私はカマではない」
「え?そうなのっ?まあ、それはともかく」

高耶さんは悪びれずにそう言うと、両手を手前でぐぐっと握り締めながらもう一度頭を下げました。

「どうか許して欲しい、こんなあわれなオレを。高坂さんは優しい人だから、許してくれるだろう?」

高耶さんはこの屈辱の瞬間に、酩酊感のようなものを感じながら思う存分陶酔しきっていました。
まるで自分が悲劇のヒロインになったような心地がするのか、口調は悲愴感たっぷりながらも、心の中ではその激しい恍惚に酔いしれているのです。
うるうるとした瞳で見上げてくる高耶さんの目を見て、高坂は不遜に笑いました。

「まあ、こうして見れば赤眼というのもなかなか面白い。造作自体は悪くないしな。それにどうしてもその目が嫌なら、前に一度、瞳の色を変える薬を開発している医師がいるという話を聞いたことがある」

高耶さんはそれを聞いた途端、キラキラとした瞳をはちきれんばかりに見開いて、いきなり高坂に抱きつきました。

「ありがとう高坂!あんたはオレに未来への希望をくれた恩人だ、一生忘れない!」
「そうか、ならば礼としておまえに、お屋形様への献上物となってもらおうか」

妖しげに微笑む高坂の頭に向かい、綾子の強烈な鉄拳が飛んできました。

「誰がウチの子をやるかあ───っ!」


        


その後日、孤児院からやって来た日から着たきりスズメだった高耶さんに、綾子が新品の服を仕立ててあげました。

「……」

さぞや喜ぶだろうと思っていた予想に反し、高耶さんは不満そうです。

「何?気に入らないの?」
「ああ、この服じゃあ、想像力が掻き立てられない」

高耶さんは新品の服に身を包んだ身体を、くるりと一回転させてみせました。
白い綿シャツに青いベスト、茶色のズボンと、実に平々凡々な服です。

「オレ、パフスリーブの服が良かったなぁ」

横で紅茶を啜っていた千秋が、思わずお茶を吹き出しました。

「汚ねぇなー」
「あ、あんたねぇ、パフスリーブは女の子が着る服なのよ?あんた男の子でしょう」

パフスリーブと聞いてパッと思い浮かばない人のために説明いたしますと、パフスリーブとはお姫さまのドレスなんかによくある、もっこりとふくらんだ袖のことです。
恋愛小説を愛読している高耶さんは、物語のヒロインが身に着けるパフスリーブのドレスを、一度でいいから着てみたいという憧れを持っていたのです。

「男が着たっていいじゃねーかよー」
「ああ、いいさいいさ。オレが今度パフスリーブでもペチコートでも買ってきてやるよ」
「ホントッ?♥」 
「やめなさいっ!」

……本当に、高耶さんがこの家に来てから、平穏というものが訪れたためしが一日としてありません。



さて、文句を言いながらも新しい服を着た高耶さんは、お隣の家に住む成田家に遊びに行きました。(お隣といっても……(略))
成田家にはちょうど高耶さんと同い年の譲という少年がいます。
二人は成田の敷地内にある池の湖畔を沿って歩きました。

「なあ、この湖は何て名前なんだ?」
「ん?成田池≠セよ?」
「成田池〜?なんか味けねぇ名前だなぁ。こんなに綺麗なんだから、もっと相応しい名前をつけてやんなくっちゃ。よし、オレが付けてやる。……う〜んと、そうだなぁ、……輝く湖水≠ネんてどうだ?ゾクゾクするほどピッタリだと思わねぇ?」

譲は嬉しそうに微笑みました。

「ステキだね。おまえってセンス良いんだねぇ」

おっと、ここにも乙女が一人いました。高耶さんもヘヘッと嬉しそうに微笑みます。

「なんか、おまえとは気が合いそうだ。なぁ譲、おまえ、オレの腹心の友≠ノなってくれないか?」
「腹心の友?いいけど、どうすれば良いの?」
「両手を取り合って、こう言えばいいんだ。太陽と月のあらんかぎり、我が腹心の友、成田譲に忠実なることを、われ、厳かに宣誓す=v
「え〜と。太陽と月のあらんかぎり、我が腹心の友仰木高耶に忠実なることを、われ厳かに宣誓す……これでいい?」
「ああ、これでオレたち、いついつまでも腹心の友だな」
「ふふっ、おまえって、おもしろい奴だねぇ」

あんたも十分おもしろい人です。



       

                          to be continued…
                          2002/10/19






ついにやってしまいました。
かの世界的名作小説、「赤毛のアン」ミラージュ版です。
自分、なんと言うバカなものを書いてるんでしょう。
ギャグです。激しくギャグです。
原作ファンの方も、そう思って読み流してください
ちなみに原作を読みながら書いたわけではないので、
台詞とかは結構いい加減です。雰囲気でお楽しみください〜。

……にしてもこんな高耶さんは嫌だな。(笑)

  
 


    
  

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