冬目 景「イエスタデイをうたって」


―浮遊する青春の愛を描くー


推理作家・笹沢佐保原作で中村敦夫主演のテレビドラマ「木枯し紋次郎」は、「あっしには かかわりねーことでござんす」という名台詞とともに五十代以上の人なら誰でも知っているが、 この「紋次郎」のニヒリスティックな生き方に共感をもって、「黒鉄kurogane」とい う時代劇マンガでマンガ家としての地位を確立した若き女性マンガ家、冬目景は、男女を問わ ず若いマンガ愛好者の中に熱心な支持者を持っている。彼女の魅力の一つは、墨絵のような劇 画調のその確かな画力にある。もちろん絵だけではなく、そこに登場する人物たちも十分魅力 的である。彼女が好んで描くのは、体制から落ちこぼれた人物、体制に組み込まれることを嫌 う人物、その日暮らしの自由な生き方を好む人物、脆くも壊れそうな人間関係の中で精一杯心 優しい生き方をする人物たちであるが、そうした主人公の周りに色々なキャラクターの人物を 配してストーリー性を高める工夫も施されている。 現在、ビジネスジャンプに不定期に連載中の「イエスタデイをうたって」は、大学卒業後フ リーターをしながら自己の目標を模索中の主人公・魚住陸男を中心に浮遊する青春の日常を共 感を持って描くものだが、主人公のフリーターよりも脇役の奔放なカラス少女・ハルと大学時 代の仲間で主人公が思いを寄せる高校教師の女性の方が一層魅力的に描かれるのは、や はり作者が女性だからであろう。さらにこの作品の物語を深みのあるものにしているのは、作 者の創作動機に、古くて新しいテーマ「男女の間で親友関係は成り立つのか?」という問題を 通して「愛とは何か?」という普遍的テーマについて読者と一緒に考えようという問題意識が あるからである。主人公がどう自己変革をとげ誰と結ばれるのか興味あるところである。果た して、愛が単に錯覚にすぎないのか、それとも人間存在の不可欠の基盤であるのか、大学時代 にじっくりと考えてほしいテーマではある。

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