吉田 秋生

「YASHA 夜叉」

別冊少女コミック(小学館)連載中
第1巻1997年1月初版、現在、第4巻まで発行。



多聞天立像


「奈良国立博物館の名宝」より

(奈良国立博物館編集・発行、1997年)


主人公・有末静は、母親・比佐子との沖縄の離島で平和な生活を送って
いた。12歳のある日、突然現れた謎の男たちに母親を殺され、誘拐されて
から、一転ドラマは科学サスペンスへと急展開する。静少年を誘拐したのは、
アメリカのバイオ産業ネオ・ジェネシス社で、静少年こそ、実はジェネシス社
が優秀な人間を人為的に創り出すために実験的に「神経細胞成長因子」を組み
込んだ受精卵から生まれた子供だったのだ。
静少年は、ジェネシス社の監視のもとノーベル化学賞受賞者のライアン博士
の指導で驚異的な才能を伸ばし、18歳で博士号をもつ優れたウイルス研究者
となり、日本に帰ることになるが、そこにはもう一人の「静少年」、つまり一
卵性双生児の「凛」とその父親で製薬会社社長の雨宮協一郎が待ち受けていて、
恐るべき未来計画に「静」を巻き込もうとしていた。
その計画とは、高齢者に感染率と死亡率の高いある種のウイルスを利用して
「増える一方の老人医療費や介護・福祉関係の“むだ金”を減らす」ことから
始まって、「将来的には人類の量と質をコントロールする」というものである。
「静」は、そうした恐るべき陰謀を知って、巨大な権力であるジェネシス社
とも双子の弟「凛」とも対決する道を選んだ。そのため様々な危険が襲ってく
る。吉田秋生が、バイオテクノロジーの「生命操作」の危険性を念頭に、サス
ペンス・ストーリーとして意欲的に取り組むこの作品は、また一つの傑作を生
む予感がする。今後、物語はどのように展開し、どのような和解の方法があり
うるのか、興味は尽きない。
尚、タイトルの「夜叉」とは、「容姿が醜怪で猛悪なインドの鬼神、のちに
仏法に帰依して毘沙門天の従者として北方を守護する。薬叉とも書く。」
(福武国語辞典より)
「毘沙門天」とは、四天王の一つで、怒りの形相で仏法を守護する。我が国
では七福神の一つ。多聞天とも言う。主人公が「夜叉」なのか、それとも主人
公が対決する「凛」が「夜叉」なのか? あるいはまた、「人類の量と質をコン
トロールしよう」という恐るべき「生命操作」の企みそのものが「夜叉」とイ
メージされているのか、作者の意図が今のところ不明である。




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